本の世界への入口「おしいれのぼうけん」
いまさら、あらためてわたしがこんな場所でご紹介するまでもない
大ベストセラー
誰もかなわない、日本児童文学界に輝く金字塔です。
おしいれのぼうけん (絵本・ぼくたちこどもだ) 作者: ふるたたるひ,たばたせいいち 出版社/メーカー: 童心社 発売日: 1974/11/01 メディア: 単行本 |
ありがちなやんちゃな男子同士の小競り合い、追いかけっこの罰から始まり、おしいれの闇の中に蠢く不気味な影と、鳴り響く汽笛の音──。
古田足日さんの作品は、どこか都会の匂いがします。
「ぬすまれた町」という埋もれがちな名作がありますが、安保闘争の学生運動の時代を別の側面から密に描きながら、夢と現実が交差するという、実に見事な作品です。
こちらに内容のご紹介がありました。
自然を懐かしみ、愛しむ傾向。
子供たちには草原や森や原っぱで、自然に囲まれて、思いっきり遊んで欲しい!
そんな願望を尊ぶ中に、古田さんの作品は若干、異質のように見えながらも、現代に通じるリアルさが存在します。
高速道路に立つねずみたちの絵からは、奇妙な都会のコンクリートの気配が漂います。
現代においては、現実に子供が遊んでいるのはアスファルトの道路の上であり、コンクリートの建物に囲まれた街中であったりするものです。
「ほんとうの子供」
大人が思う、このような子供であってほしい願望、懐古的な子供像ではないのです。
内容は象徴と幻想を使い分けつつ子供の心理を表現しています。
下水の中に鎮座まします不気味なグランドマザー、ねずみばあさんに対峙して真っ向から立ち向かい
「ぼくたちは、あやまらない!」
子供の目線からの、子供としての正しい主張をぶつけるやんちゃ坊主たち。
この本は決して、大人の「こうあってほしい」願望から書かれたのではない本です。
こちらでご紹介しましたが
おしいれのぼうけんは、児童書としてとても大切なことに、完全に合致しています。
・おとなの考えやおしつけでなく、子どもの立場に立って書かれた作品
・子どもの論理に立って、すじが通っているもの
・子どもの現実の生活と、どこかでふれあえるもの
・子どもの集団が生き生きと描かれているもの
・夢や空想を無限に広げることのできるもの
・ユーモアのあるもの
子供のための1000冊の本、どの本、読もうかな? より
また、この物語の保育士さんの描写も素晴らしいです。
保育士さんがたも間違いを犯すこともある。悩み、怒り、罰を与え、間違いを認めて謝る。
子供への接し方に悩む親と同じように悩んでいます。
今、なんとなく世間の雰囲気として、どこかで「お金を払っているのだからプロ」と決めつけ、親の理想像を投影し、完璧なスーパー保育士像を押し付けるような空気がないでしょうか?
子供の主張に対して、保育士さん(親も)は完璧でない対応をすることもある。
そのあやまち、ぶつかり合い、争いが、子供の成長を促すこともある──
大人は誰しも、子供に完璧な接し方を常にすることはできない。
それでも、この「おしいれのぼうけん」の中で子供に真剣に向き合い、どうすれば意図が伝わるのか真剣に考えている保育士さんの姿はまた、すべての子供に接する職業の方々の姿でもあります。さらに、わたしたち親そのものの姿でもあります。
「親」という区切られた、隔絶された家庭の中の姿に留まらず、すべての子供に接する大人の姿を象徴しています。
古田足日さんの子供と教育現場に対する目線は鋭く、確かです。
あまりにも、みんな知っていすぎるベストセラーばかりのご紹介でちょっと気が引けますが、絶対に入れなければならない一冊です。
私は割とAmazonのレビューは低評価も目を通すことにしています。
なるほどな、という意見もあるので興味深く見ているのですが、「おしいれのぼうけん」の低評価に、読み聞かせに使われた方の意見がありました。
結論から言うと、この本は読み聞かせには若干、むいていないと思います。
この本は、幼稚園や保育園に置かれていることも多いと思いますが(というか、置いていない園はないのではないでしょうか?)、ちょうど絵本と児童書のさかいにあります。
読み聞かせするには少し長すぎ、かといって児童書というには短すぎる、その中間にある作品です。
読み聞かせのかたも、親御さんも、先生も、保育士さんもみな、本を読むこに育てたいと思うかたはこの、
絵本→絵の多い児童書→文字の多い児童書→本→文学作品
という、
・文章を読むことを訓練する段階
・それぞれの発達に応じて選ぶべき本
に対する視点を持ち、心がけていただくようにしてもらいたいと思います。
お子さんがたには、もちろん、好みもありますし、読まないと思っていた子が思いもかけない本にさっと食いついて読んだりするものですから、こだわりすぎるのもよろしくないと思うのですが、心のどこかに入れておいていただけるだけでいいのです。
読み聞かせをするのは、何のためなのか?
本を好きになってもらうため!
そのためには、読み聞かせにむき、目も引く派手な絵本のみの段階だけでとどめておいては、せっかくの読書の芽も育たないと思うのです。
日本は、わりと読みボラさんは大変組織立っていて連携も強く、親御さんも読み聞かせには熱心で、たいへんよいことだと思います。
しかし、いつまでもそのままではいられない。
絵本だけの段階でとどまっているのは、よろしくないです。
そのためにも、よい児童書というもの。
最高の品質の児童書を、もっともっと、知ってもらいたいと思います。
ここまで大判で絵も多く、ここまで「絵本」の体裁を保ちながらにして、中身はしっかりとした本としての物語であるという児童書は、なかなか探しても見つかりません。
この本は、中国語にも訳されているようです。
おしいれのぼうけん 中国語版 古田足日、田畑精一作『おしいれのぼうけん』の中国語・簡体字版です。 |
よい本は、どんどん広めていきたいものです。
そして、選ぶ時には、少しだけ
「今の自分は理想的な親、大人としての教育的な視点にとらわれすぎていないか?」
と考え、自分の子供の時の思い、心を思い出して読んでみてはいかがでしょうか。
児童書のすばらしさは、大人も子供に立ち返って再び感動を得ることができる所にもあるのですから──。
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