~独占欲の行く末は~サマセット・モーム「九月姫とウグイス」
今日、ご紹介するのは絵本と児童書の中間にあたる絵本です。
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今日の一冊
タイの国を舞台に、心やさしい九月姫と八人のいじわるな姉さんたちが、歌のじょうずなウグイスをめぐって広げる物語。イギリスの作家モームの唯一の童話。(「BOOK」データベースより)
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昔、「子供のとも」に入っていた本で、このたび復刊されたのがとても嬉しいです。
「月と六ペンス」「人間の絆」で有名なサマセット・モームのお話です。
モームの書いたたった一つの児童書とのこと。
この時代の有名作家の書いた児童書では、アーサー・ミラーの「ジェインのもうふ」があります。
これもまたいつか絶対にご紹介したい名作です。
「九月姫」は、シャムの国のお姫様です。
(モーム自身はイギリスの小説家ですが)
シャムは、タイ王国の旧名です。
絵がとても異文化あふれ美しいです。
タイの文化がとてもよく出ています。
いきなり冒頭から、王様がめっちゃ微妙です。
子供の名前を幾度となく変えたり、もう変えるのはたくさんだから、十二月姫が生まれたらおきさき様の首をちょんぎってしまわねばと言ったり…。
そう言って王さまは、さめざめとお泣きになりました。おきさきを心から愛しておいでになったからです。
もちろん、おきさきも、気が気ではありませんでした。
読んでるこっちも気が気でないわ!
まあ、ジョージ・マクドナルドの「かるいお姫さま」の王様も冒頭でめっちゃ微妙でしたし、まあ王様というのは微妙なものなんでしょう。
「かるいおひめさま」のお妃さまはなかなか子供に恵まれませんでしたが、こちらのおきさき様は、産み過ぎです。
いやどんだけ!?というぐらい産みます。
何しろお姫様は1月~9月までの9人。
王子様はA~Jまでの10人。
王子さまはこの話には出てきませんが、A王子、B王子ってすごい名前です。
と、冒頭はこんな風に始まって、あるあるな意地悪なおねえさまがたに囲まれた末っ子の愛され娘「九月姫」は、つらい思いをしている時に一羽のウグイスと出会うのですが…。
このお話にテーマがあるとすればそれは独占欲やエゴ、です。
軽い気持ち、愛するものをちょっと独占したいと思うその思いが、九月姫にどんな試練をもたらしたか。
モームのストーリーテリングがうまいので、お姫様の心の微妙な変化の表現が実に自然に読んでいるこちらにも入ってきます。
これを読み返していて、ふっと子供に対する思い、守りたいがために手を広げて囲ってしまう自分を思います。
愛する者を守りたい、ずっとそばにいて欲しいと願う気持ちが行動を阻害し、やがては…?
じぶんのしあわせよりも、じぶんのすきなひとのしあわせを、だいいちにかんがえるのは、とても、むずかしいことだからです。
子供のために書かれたものは平易な文体で、普遍性があります。
時代を越えて通じるものがあります。
単純で簡単な文章は、まっすぐにこちらに語り掛けます。
先人がたの子供の本にかける真摯な思いがそこにあるのを感じることができます。
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