大人が読む児童書「カチーナの石」2 大自然へゆっくりと運ばれていく
大人が読む児童書。
「積ん読・解消計画★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
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大人が読む児童書
夏休み。アメリカ・ロスアンゼルスへやってきたサトルは、初対面のおじいちゃんとふたりきりでのこされてしまう。おじいちゃんがおんぼろ車でつれていってくれたのは、千八百キロも離れた、インディアンの村だった。小学上級から。(「BOOK」データベースより)
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こちらから、ネタバレ感想になります!
「カチーナの石 1」の続きです。
さて、小学4年生の男の子がアメリカに住んでいるおじいさんの所に行って、一緒に旅をはじめました。
二人はここで砂嵐にあいます。たつまき!
「オズの魔法使い」だ~!
(カンザスは中央東よりで、ネバダ州とはかなり離れたところにありました)
今までテレビでしか見ていなかった災害が、じかに降りかかってきます。
サトルくん、大自然の驚異を身をもって体験します。
ゲームの電池が切れてディスプレイが消えていった頃から少しずつ、少しずつ、日本での日常から離れていきます。砂嵐は決定打でした。
が、これはあくまで現実。
サトルくんはゆっくりと、もっと大自然を肌で感じられる世界へ運ばれて行きます。
このいそがない展開がいいな、とわたしは思いました。
描写もたしかに美しいのですが、自然で作っている感じがなく、うるさくありません。
人によっては、どうでしょう?
いつまでも気持ちが乗らないサトルくんにいらいらしたりするのかな?
実際にサトルくんのような子は、これを読んだらどんな風に思うのだろう。
さっきまでの嵐がうそみたいな、いい天気だった。空は真っ青にひろがり、雲ひとつない。風もぴたりとやんで、太陽がジリジリと地面を照りつける音が聞こえてきそうだ。
二人が逃げ込んだ場所から出て来たのはゴーストタウン。
からっぽの街です。
でも人はいるようです。
サトルくんが空き缶を蹴飛ばすと、女の子が飛び出してきました。空き缶の音にびっくりしたのでしょうが、もっとびっくりしたのはサトルくんです。
睨み合う二人…。
とても印象的なシーンです。
さらに先を進み、おじいちゃんとサトルくんはセルフサービスのキャンプ場に泊まります。
映画などでおなじみのアメリカンなお店で(鉄砲や銃弾も売っているのを横目に)色々購入し、キャンプをします。
小枝を集め、炭に火をつけます。蛇やサソリに気をつけてというところがゆるキャン△とは違います。
何でもすぐにゆるキャン△と結びつけたらいけませんね!
ここで食べた食事を、サトルくんは初めて美味しいと言いました。
(それまでは味が薄いとか日本の食事が懐かしいとか割と文句を垂れていました)
満天の星空とコヨーテの鳴き声です。
「犬みたいな動物の悲しそうな声」と書いていますが私はコヨーテを連想しました。
こういう豆知識も大人が読むと色々と分かって楽しいものです。児童書を大人が読む醍醐味です。
キャンピングカーでこの辺りに住み着いている人たちとの交流です。
あっここで、あの泣き声がコヨーテだと、ちゃんと説明してくれました。
インディアンの話には、コヨーテの物語がたくさん出てきます。アメリカの砂漠と荒野にコヨーテの存在は欠かせません。
キャンピングカーで住んでいる人達は 土地代や電気代が安いのでここに住んでいる、いわば流れ者の人たちです。可愛い黒い犬ジャックと戯れ、そして別れます。
ここまで、サトルくん、おじいちゃん以外との誰とも、ひとことも話をしていません。
実際にこんなものじゃないでしょうか?
交流のようなものがあったのはあのにらみあった少女と、このわんちゃんだけです。
旅は続きます。
地平線がかげろうにゆれている。ゆれる地平線のかなたから、巨人のテーブルのような形の岩山がいくつも見えてきた。まるで海のなかに島がうかんでいるみたいだ。
絵もよいですが、ここは、写真を見せてあげたいところ!
でもこういううるさい説明はきっと、ないほうが子どもたちのためにはいいのです。
どこかで記憶が知識とつながってくれればいいのですが。
でもわたしは、記憶と知識の出会いのタイミングは忘却も含めて縁なのだろう…。と思っています。
メサだよ
おじいちゃんの口から語られる歴史、「もともとここに暮らして来た暮らしていた人々」──インディアンです。
あの巨大なテーブル状の台地一つ一つに名前をつけていたといいます。
サトルくんは、お父さんとは会話できませんが(お父さんが一方的にしゃべるだけ)、おじいちゃんとだんだん会話できるようになっています。
そしてここで、どうしておじいちゃんがアメリカに住んでいるのか、その理由が語られます。
亡くなったおばあちゃんの思い出です。
道は、青い空に、つきたつ白茶けた岩山に向かってのびていく。
おじいちゃんのお友達、ホピ族の人たちが暮らすセコンド=メサに近付いてきました。
チョコレート色の肌をした子供と大人、馬にも乗っていないし羽飾りをつけてもいない、顔に模様も書いていない人たちが迎えてくれました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3までで完結できると思いますが…。
とてもいい本です!
レビューの評価も高いです。
どうして絶版になってしまっているのだろう?
確かに、往年の名作ほどの力を持っているか?と言われると、答えることは出来ません。
確実に残る作品というのは、読んでみてわかります。
ダイナミックで、ストーリー展開がはっきりしていて、わかりやすく文章も美しい。
ぱあっと大手を広げて世界に包んで来るような迫力があります。
また、独特の世界観に読者を閉じ込めてしまうようなところがありません。
ちゃんと読み手を外に向かって吐き出します。
この物語は、静かでとても淡々としています。
おとなむき…?子供むき…?どちらともいえず、中途半端といえばそうかもしれません。
でもわたしはこのお話、とても気にいりました。
おとなだからかもしれませんが、サトルくんの反発心も、大人たちにわかってもらえないやるせない気持ちも、外界から距離を置こうとする気持ちもすとんと理解できました。
アメリカの景色のことも、知識としてある程度わかっているので想像できます。
「おとなが読む子供の本」。
そういう枠があっても良いと思います。
(どちらかというと、100万回生きたねこはわたしはこちらの分類に入れています。)
ひとつだけ、なぜここで絶版になっいってしまったのか少しだけわかるような気がする箇所もありました。
現代医学に背を向け、スピリチュアルに偏りすぎていると思われてしまう向きもなきにしもあらずです。
でもこのような考え方は、むしろ子供の頃に触れておくのはとても大事なことだと思います。
大人になってから深くはまってしまうと、まるで違った場所に運ばれてしまう危険もあるのですから…。
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