今日の一冊「ちいさいモモちゃん ルウのおうち」
今日、ご紹介するのは絵本です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
モモちゃんは、このごろとってもいじわるモモちゃんになりました。
松谷みよ子さんの名作でベストセラー。
「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズの絵本版です。
まずは絵本から入ってもらい、気に入ったらそこから本の方に移行してもらいたいという心を感じます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
元気でかわいくて、おしゃまな女の子モモちゃんには、子ねこのプーやコウちゃんという友だちがいます。モモちゃんは、夢の中でライオンと遊んだり、電車に乗って空を飛んだり、水ぼうそうになったりして、ママを心配させたりします。誕生から3歳になるまでのモモちゃんの日常生活を軽妙にスケッチした成長童話の名作シリーズ第1作。
しかし、この「ルウのおうち」は、何と、「ちいさいモモちゃん」シリーズの本の方には、入っていないのです!!
この絵本版にはいくつか入っていないお話があって、「ルウのおうち」はその一つです。
そして、おにいちゃん役である黒ねこのプーもいないです。
もっと前に書かれたものなのかな、と思いました。
モモちゃんは、ある日突然、いじわるモモちゃんになりました。
きょうも おもちゃの くまの ルウをほうりだして、
「ぷっぷっぷっ、ルウなんていらないもん。おうちへ 帰りなさい」
なんて、いじわるを いいました。
カタカナにもルビがふられていて、これがひらがなは読めるけれどまだカタカナはあやしいぐらいのお子さん向けだとわかります。
ルウは、まあ、見るからにぬいぐるみのくまちゃんです。
足をつかまれ、ひっくりかえされて、ぬい目も見えそうなぐらい、ぬいぐるみ扱いです。
これが1ページ目で、次のページを開くと、こうです。
ルウは、すこし ないて いたみたいでした。
もう、すっごくせつないです!
そしてルウはいなくなってしまいます。
ないていたみたいという所、歩き出してどこかに行こうとしている絵から、もはやぬいぐるみではありません。
「おもちゃの くまの」とちゃんと書かれているけれど、命が宿っています。
子どもにとって、いつも遊んでいるおもちゃは命が宿るもの。
しばらくしてルウがいなくなったことに気がついたモモちゃんは、意地悪を言ったことも忘れて泣き出し、ルウを探して旅立ちます。
ポケットにパンを入れて、(このパンのおいしそうなこと!!むいたやきいもみたいにも見えます)ルウをさがしに出かけます。
こういう所で、「えっ一人で…?幼児だよね?」と疑問を持ってはだめです~!!
ルウが動き出したところから、これはふくらむ幼児の空想の世界、イメージの世界に入ってます。
このふくらむ空想の世界にするっと入っていく読書体験がとても大事なところです!
道中に誘惑が色々あるわけですが、モモちゃんはめげずに探し続け…というお話です。
その途中の誘惑に、のらねこちゃんが出て来る所があるのですが、黒いねこではないし、「あのきたないくまだろ?」という風に割と辛辣です。
「ちいさいモモちゃん」では、もうモモちゃんが生まれて割とすぐにプーが現れますし、「プーはどうした…?」と疑問を抱くかもしれません。
それで削られてしまったのかな、と思います。
しかし、「ちいさいモモちゃん」から削られても、こうして絵本で生き残るほど、この絵本はすばらしいです!!
最期に松谷みよ子さんのあとがきがあります。
おとなは子どもに、ときとして残酷なことをいいますが、子どもも残酷なことを平気でいうことがあります。帰る家のないくまのルウに、「おうちへかえりなさい」という残酷さ。けれどもちいさいときから仲よしのくまは、どんなにきたなくてもすてるのはいや、というのも子どもの真情です。
ルウもまた、泣いて出て行っても家がないなら自分でつくろう、ついでにモモちゃんのいすもつくろうという明るさをもっています。いじわるをしても、けんかをしても、友だちはいいものだなと思います。
モモちゃんは泣いてルウがいなくなったのを嫌がりますし、誘惑にも負けず探し回りますが、ごめんねと謝ったりはしません。
ルウもまるで、モモちゃんが意地悪を言ったことなど忘れてしまったかのようです。
これぞまさにともだちです。
人間関係の最初のまなびです。
「ほんとうの子ども」がここにはいて、おとなの「ちゃんとあやまってリセットするべき」「外に出る時は親が」などという配慮が入る余地はありません。
こどもの、こどもによる、こどものための、と言いたくなる本です。
絵本作家さんにおいても、おとなの心を排除することは難しいです。
名作を書いておられるベストセラーの中にさえ、それはあります。(名作では、そこがまた、あたたかくよい感じであったりもするのですが)
おとなの配慮や思惑、理想が入っていない本のなかで、はじめて子どもは自分で考え、自分の世界を持ち、空想の中で走り出し、自由に遊びはじめます。
このような、親やおとなの目を離れた自由、というものは、現実では難しいことですし、リスクを回避するためにはしてもらっては困ります。
だからこそ、本を読んで得る体験はますます貴重であり、子どもにとってかけがえのない記憶となってくれることでしょう。
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このモモちゃん絵本は、武田美穂さんのかわいらしい絵バージョンもあり、こちらも絵がとても素敵です。
「うみとモモちゃん」も良かったです!
この絵本単体のお話がすばらしいのもありますが、 やはり、絵本から入って本へ…のみちびき、この絵本が「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズへとつながり、こどもたちの「本へ」の興味をかき立てる存在となって欲しいと思いますです。
(この本、読んであげるとき、意地悪な台詞はおそろしく意地悪そうに読むのがすっごく楽しいです…)
Amazonではやっぱり、中古しか見つからなかったですけども、e-honでは新品取り寄せできる…みたいでした。多分ですが。
これもまた、ぴかぴかの新品で買ってあげて欲しいな!と思う本です。
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