大人が読む児童書「冒険者たち ガンバと15ひきの仲間」 1 ノロイの恐怖
大人が読む児童書。
「積ん読・解消計画★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大人が読む児童書
イタチと戦う島ネズミを助けに,ガンバと15ひきの仲間は、船で夢見が島に向いました。しかし、白毛のノロイがひきいる、どうもうなイタチの群れに追いつめられ、海岸の岩山で最後の決戦の時をむかえます。
実はこのお話、名前は知っていて紹介もしたかったのですが、読んだことがありませんでした。
そして、1975年のテレビ版「ガンバの冒険」も見たことがありませんでした。
だんな「おまえ、ノロイも知らないの!?」
わたしはテレビは禁止されて育った世代なのです~~。
(母が「アニメ・漫画=悪」世代のどストライクです)
だんなが、「ノロイ」の恐怖について語ってくれました。
・ノロイは怖い。
・あれはトラウマ
・いまだにイタチに対して恐怖がある。
・ノロイほど恐ろしいものはない。
・ノロイは恐怖。どこまでも追いかけてくる
・ノロイからは逃れられない。
・大きさがはんぱない。何十倍どころか何百倍もでかい。
・夢に出る。
・うなされるほど怖い。
要は「怖い」以外のことは一言も語ってないのですが、私の反応に納得がいかないらしく、検索してきて見せに来ました。
「ほら!ほら!だってこれだよ!?ほらノロイ!」
それで見せられたのがこれです☟
まだあります。
こ…怖ぁ~!!!
なんじゃこりゃ!これは怖いわ!!
「本当に怖いんだよ!!ノロイは!!」
検索してみると、アニメ史上最強・最悪・最凶、などと書かれており...。
そのものすごさを語っています。
こんなサイトもありました。
美しき最強のトラウマ…。
闇のカリスマ…。
大きさもゴジラ並…。
字づらからして並々ならぬノロイに対する情熱を感じます。
最早怖いを通り越してリスペクト…というより教祖様のようです。
これはひとまず、読んでみねばなるまい。
AmazonプライムにTV版もあったのですが、やはりここは読まねばなりません!
というわけで、長々しい説明を付けましたが、ガンバの冒険を読んでみたいと思い購入してきました。
もう、40年たった今でも棚に並び続けていますし、間違いがないことはわかっていますのでしっかり本屋で購入です。
さて、どうか…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒頭はこんな感じではじまりました。
ドブネズミのガンバは、台所の床下の貯蔵穴に住んでいました。長さ一間、幅・深さ半間のその貯蔵穴はコンクリートでつくられており清潔で、そのうえ、周囲には一尺四方の窓が四つあいており、風通しも申し分ありませんでした。
…今の、映像文化になれきった子供たちには、敷居が高いかもしれない綿密な描写です。
しかし、文章は平易でたいへん読みやすいです。
漢字も多く緻密な描写なのですが、はっきりしているので逆に想像しやすいです。
ガンバはこの街のすみかで幸せに暮らしているのですが、こんな所が目につきました。
つまり、ガンバは静かな時に思い出されるようなことは、まだ何一つとしてしたことがなかったのです。(略)することがないので、くり返し、くり返し、このすみかはすばらしいとか、自分よりも強いやつは近所にはいない、ということだけを考えていました。
今どきの子供っぽいです。
これは非常に子どもを見ている目線として共感できました。
俺TUEEEの自己満足の(子どもの)世界です。
(一応、俺TUEEEの説明リンクを置いておきます。)
どうでもいいですが、
それは六月の末のむし暑い夜のことでした。
というのも、今の季節にあっています。(まだ月末ではありませんが…)
そこにマンプクという太ったネズミ仲間がやってきて、ガンバを海へとさそいます。
気乗りのしないガンバです。
ええ~?ひとりで行けばぁ~?おれはここでたいくつなんてしてないよ。
という感じのガンバに、マンプクが反論します。
おまえの言葉は、まるで若いころ、散々あちこちを冒険してきたやつが、隠居して、孫でも集めていうことだ。おまえなんか海はおろか、何一つ知ってやしないじゃないか!そんなおまえが、でまかせにしろ大きくて広いものなんて口にするなよ、おわらいだぜ。だいたい、夢見るってことと、海みるってことは、もともとは同じ言葉なんだぜ。どぶ川と海をまちがえんなよ。
若いくせに、現状に満足して動こうとしないガンバを、マンプクの激しいことばが揺り動かします。
だいたい、夢見るってことと、海みるってことは、もともとは同じ言葉なんだぜ。
う~ん、いいせりふです!
こうして、物語にはすうっと入っていけました。
序盤からなにしろ、普通以上に面白いです。
これは、古い物語を読んでいるとたまに感じることなのですが、現代のサラサラっとした感覚的な描写とちがって、実に緻密です。
港の描写なんて、ものすごいです。
物揚げ場のむこうの小舟だまりには、鉛色に沈んだ海の上に、小さい船が三十隻あまり、それに白いパイロット船、タグボートが三隻ずつ並んでいました。その小舟だまりの右手に、桟橋がぐっとのびていました。桟橋の両側には、大きな客船と貨物船が横づけされていましたが…
と、この調子です。
(これは一部だけで、実際この三倍ぐらいあります)
子どもだからといって、いっさい手を抜かない描写です。
しっかり、「場面をきちんと文字で表現すること」を意識している文章です。
これをしっかりと読み込んだらものすごーく語彙力がつきそうです。
(でもわからないなりに、さらっと物語に引きずられて読むのもそれはそれでいいと思います)
なんとなく、感覚でわかるだろう、というような感じの甘えがいっさいありません。
きりっとしたかっこいい文です。
冒頭で「長さ一間、幅・深さ半間」なんて出てきた時には、どうしようかと思いましたが…それもまた、ご愛敬です。
「一間て何だろ?」と思ったら、ググレカスと言ってやればよい、とさえ思います。
ガンバとマンプクは慣れない港で、「ガクシャ」というネズミと行き合います。
この名前の付け方、非常にわかりやすいです。
ちょっと引用が多すぎたのでこのあたりでやめておきますが、さすがガクシャなだけあって、おとなでもちょっと、というようないかにも教授や博士が使いそうな賢そうな知識がバーッとご披露されます。
彼のあとについて入った港街の(ネズミの)酒場?たまり場?で、この「ガンバと15ひきの仲間」という、15ひきほとんどの仲間が登場します。
15ひきです。
多っ!!
しかし、これが混乱してしまうことはありませんでした。
ちょっとあとで、15ひきの仲間の名前がご披露されますが、この港街の騒ぎの中でしっかりと一匹いっぴきキャラづけされ、ほとんどが頭に入っていました。
ガクシャ、ヨイショ、イカサマ、バレット、イダテン、シジン、オイボレ、ボーボあたりはしっかり印象づけられていました。
(ちょっとカリック、ジャンプ、テノール、バス、アナホリあたりがあやしかったですが、名前でだいたいわかります)
このねずみたちのバカ騒ぎ(ラム酒を一気飲みしたりします)の中に、傷だらけの忠太というネズミがやってきました。生々しい血がしたたる描写がすごいです。
ここでいきなり、漢字名称登場です!
助けをもとめてきたネズミと、助けに行くネズミとの区別をしっかりと付ける、心にくい工夫です。
出ました。ノロイの名前。
急にあたりが静まり返ります。
あれほど元気だったヨイショも、天を仰いでひとことも口をききません。
怖いです。
忠太の説明が非常に的確です。
簡潔・明瞭・筋が通っていて完璧です。
忠太のいた島は、数千のネズミが繁栄していましたが、イタチのノロイ一族によって殺され、百匹程度という所にまで追い詰められているのです。
ガクシャは助けを拒否しました。ヨイショも、その場にいたすべてのネズミたちも、助けの手に声を上げよう、手を上げようとはしません。
…読めば読むほど怖そうです。
ガンバは、そんなネズミたちの前でひと演説ぶちます。
島の仲間はなんだい!死んでもらいましょうってことか?黙れ!イタチを知ってるとか、何とか、でっかい顔すんなよ!今いったとおり、おれはいく!
ガンバ、かっこいいです。
しかし残されたのはガンバと忠太、二匹だけでした...。
二匹は島目指して船に乗ります。
忠太は、助けを得られなかったことを無理からぬことと考えているようです。
それぐらい当たり前のこと。
だってノロイだから。
ガンバが行くと言ってくれただけで救われた、どうぞ帰ってくださいと言う忠太。
なんだかここはすごく日本的だなと私は個人的に思いました。
気持ちだけあげたって、何にもならないじゃないか!無理してへんなこというなよ。
台詞がとてもかっこいいです。
◇
さて導入部分を割と詳細にご紹介してきましたが、ざっくり言うとガンバの演説に感動した仲間たちが船にこっそり乗り込んでおり、とりあえずはリーダーを選びます。
ガンバが責任をとって選ばれ、それから作戦タイムです。
地図をかき、もう一度詳しく状況の説明を忠太から聞き取りします。イタチたちは、闇夜に紛れて一匹ずつさらい、決して生かしては返さないため、イタチの被害は奇妙な行方不明からはじまったようです。(怖いです)
正直いって、もうメモったり書いたり引用したりしてるのがめんどくさくなってきました。
それぐらい面白くて、続きが読みたいです。
名作の「序盤をいかに攻略するか」は本読みにとっては大きな課題です。
そして、序盤攻略のあとに待ちきれないほど面白い世界が待っているのだということを、読ませようとする方も意識して、教えてあげないといけないです。
序盤は読み聞かせするなり、話し合いながら一緒に読むなりして、お子さんにそのあとのすばらしき物語の世界に連れて行ってあげて欲しいなと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
頑張り者のネズミ・ガンバは、相棒のボーボと一緒に、海を一目見ようと港町までやってくる。そこで出会った子ネズミの忠太が、自分たちの島の仲間を助けて欲しいと求めてきた。力自慢のヨイショや博学のガクシャといったネズミ仲間とともに、大海原へ乗り出すことを決意する。だが、目的の島には脅威の白イタチ・ノロイが待ち構える。小さなネズミ7匹が繰り広げる波乱に満ちた大冒険。他に類を見ない表現にドキドキハラハラの連続だ。(C)斎藤惇夫/岩波書店・TMS
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