トム・ソーヤーのゲス男認定はJARO案件か?
以前、ご紹介したトム・ソーヤーの記事です。
ここで、トム・ソーヤのゲス男案件をあますところなく暴露したわけですが、そのあとでふと思いました。
ちょうど、JAROの宣伝がやっていました。
うそ・おおげさ・まぎらわしい。
私が読んだ翻訳ではない翻訳では、果たしてトムはそこまでゲスに描かれているだろうか?
果たして、あの記事で興味をもってくださった方が読んでみたとして、「そこまでかな~?」と思いはしないだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふたたび考察
ポリー伯母さんに塀塗りを言いつけられたわんぱく小僧のトム・ソーヤー。転んでもタダでは起きぬ彼のこと、いかにも意味ありげに塀を塗ってみせれば皆がぼくにもやらせてとやってきて、林檎も凧もせしめてしまう。海賊ごっこに幽霊屋敷探検の日々を送る中、ある夜親友のハックと墓場に忍び込んだら……殺人事件を目撃! 永遠の少年時代がいきいきと描かれた名作を名翻訳家が新訳。
まず、私が読んだ一発目で「はぁ!?」と思ったのは、この訳です。
とたんに、エイミー・ローレンスという女の子はかれの心から消え去って、一片のあとも残さなかった。今まで、トムはエイミーを夢中で愛していると考えていた。この情熱こそ、崇拝というものだ、とトムは思っていた。
(世界少年少女文学全集10 より 吉田甲子太郎 訳)
吉田甲子太郎さんの訳でした。
これは、今はもう絶版になっている、東京創元社さんの「世界少年少女文学全集」に入っていたものです。
何と、あのノーベル文学賞作家である、川端康成大先生が責任編集をされているのですが、確か「1(イソップなど)」が入っていたものの記述によると、「言葉自体は平易にしたが、子どもだからと言って内容を省略することはしなかった」と書かれていました。
そうでしょうね。
今まで、トムはエイミーを夢中で愛していると考えていた。この情熱こそ、崇拝というものだ、とトムは思っていた。
(世界少年少女文学全集10 より 吉田甲子太郎 訳)
この「夢中で愛している」という部分を、いったい子ども向けの他の翻訳作品ではどう訳しているのだろうか?
やっと開いた本屋さんに行って、確かめてみました。
まず、定評のある岩波少年文庫のトム・ソーヤです。
訳は石井桃子さんだ!
「 エミーに夢中だと思っていた」と書かれています。
とりあえず、ニュアンスは伝わりますがかなり柔らかい表現です。
愛している☆のパンチの強さにはかないません。
いやいや、そんなパンチの強さは必要ないわけであって、こちらの訳の方が普通なのだと思います。
次は、青い鳥文庫です。
むぅ、これは…。
「仲良しのエイミー・ローレンスのことなど忘れてしまった」
これは、子供用の忖度を感じます!(笑)
トムがキスを迫ってベッキーを追いかけまわす所も読んでみましたが、非常に、非常~~に、柔らかい感じでした。
まあ、そうですよね。
それが普通ですよね。
子供むけですもんね。
まだつばさ文庫・みらい文庫がありますが、こちらはまだ未確認です。
では本家本元、英語ではどうなんでしょう?
(トム・ソーヤーの冒険の原書は、グーテンベルクで読めます)
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
A certain Amy Lawrence vanished out of his heart and left not even a memory of herself behind. He had thought he loved her to distraction; he had regarded his passion as adoration; and behold it was only a poor little evanescent partiality. He had been months winning her; she had confessed hardly a week ago; he had been the happiest and the proudest boy in the world only seven short days, and here in one instant of time she had gone out of his heart like a casual stranger whose visit is done.
参考までに、
to distraction
とは、「気が狂いそうなほど、頭がおかしくなるほど」という意味だそうです。(英辞郎より)
He had thought he loved her to distraction;
これは、
今まで、トムはエイミーを夢中で愛していると考えていた。
(世界少年少女文学全集10 より 吉田甲子太郎 訳)
というこの訳が確かに一番正しいかと思われます。
そして、そのパンチのきいた意味が、まっすぐ私に入ってきてショックを与えたのでした。
この翻訳でOKを出した、川端康成大先生をはじめとするお歴々の方々に敬意を表したいです。
そして、海外ものは翻訳によっておおいにイメージが左右されることも考慮に入れたうえで考察した結果、トムはやっぱりゲスであるという結論に達したことをここにもう一度明記しておきたいと思います。
しかし、最初に読んだ翻訳の影響は大きいなあ、と思います。
最初に読んだのがこれでなければ、これほどゲスだとは思わなかったかもしれない。
いきなり「夢中で愛していると思っていた」という女の子をほおりだしてよその女の子に色目を使い始めたので、本当にびっくりしました。
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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