大人が読む児童書「第九軍団のワシ」4 読了です。すばらしかったです
大人が読む児童書。
「積ん読・解消計画★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
ローマ軍団の百人隊長マーカスは、ブリトン人との戦いで足を負傷し、軍人生命を絶たれる。マーカスは親友エスカとともに、行方不明になった父の軍団とその象徴である“ワシ”を求めて、危険に満ちた北の辺境へ旅に出る。(「BOOK」データベースより)
読了です!
あまり深く冒険の細部にはふれず、さらっと感想を語らせてもらいたいと思います。
◇
マーカスとエスカが旅をするブリテン島の北部ですが、ローマ支配地域がイングランドであり、あくまでローマの支配を拒み通した土着のケルト人たちが今のスコットランドであることがよ~くわかります。
壁が築かれていたことも知りました。
ノルマン・コンクエストよりもはるかに早く、この頃に既に、イングランドとスコットランドは二つの国となる基礎はできていたのだなと思いました。
そして(今の)スコットランド地方で大敗した第九軍団の中からも、たくさんのローマ人が土地の民と交わり交配をして交わっていったこと、交易を通じて交流があったことを知りました。
そして、いんちき目医者がこんな所で生きてくるとは…!!!
序盤から、何ひとつ無駄なことはなかったのです。
◇
エスカが奴隷であることを思い知らされて怒るマーカスの場面を読んでいて、「この時代にもそんな考え方をする人間がいたんだな~」、と思ってはっとしました。
これは現代の人間が書いたものじゃないか!
いつのまにか、その緻密な描写と、詩的な目線と好感の持てる人間像とに導かれて、すっかり物語の中に入り込んでいたのです。
マーカスとエスカ、治らない足を持ったことと、奴隷であったこと、二人はともに、種類は違うものの、癒えることのない傷を負っています。
この二人は、この旅をすることによって、何かを乗り越えました。
ローマ人であるマーカスとブリテンの民(ケルト人)であるエスカとの絆は、最初にマーカスが信頼と友情を寄せていた狩人クラドックが示した、決して埋まることはないかと見えたみぞを埋めていきました。
マーカスとエスカの冒険をともにして、息詰まる逃走劇を描ききり、危機を乗り越えて帰った場所に待っていたもの。
終盤にマーカスが言います。
おれたちに出来る唯一のことは、おれも、おまえも、傷があっても、それを気にしないで暮らすことだ。
このひとことの大切さを身に染みて感じる、この感情を伝えるのに、サトクリフ以外の人がふさわしいとは思えません。
サトクリフは女性。体が弱く、病気をわずらい、生涯車椅子生活であったこと。
ぜんぶ関係ないのだ。
そう思いました。
逃走劇の躍動感は、筋肉の動きまで見えるようでした。
誰かがどこかの土地へ行った体験を語るとき、それを聞いたり見たりする私たちの胸にはどこか、その素晴らしさをどんなに熱心に語られても、他人ごとの話…という感覚があります。
また自分の体験することのなかったことを体験した人を目の前にするとき、ある意味羨ましいという気持ちが芽生えることもあるかもしれません。
でもサトクリフがこの物語を描き、わたしがそれを読むことで、サトクリフとわたしは一緒に冒険をしたのです。
まるでその人の中に入り込んだようになり、いつの間にか一体となっていました。
傷を負っても生き続けることの意味。
サトクリフのひとことが重く、そしてこれ以上なく、心にしみいりました。
そして、青少年のためにこの本があるのだということを深く深く理解しました。
みんながオリンピック選手になるわけではなく、成功者と呼ばれる人はひとにぎりです。
こどもたちは夢の挫折に遭うこともあります。いま挫折を知らなくても、やがてぶつかることもあるでしょう。
どこかで現実に向き合わねばならず、そして挫折の傷を負って生きていかなければならないときが来るかもしれない。
若い人々への、励ましともなり、希望の炎ともなる物語です。
すばらしい本でした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
衰退したローマ帝国は、450年にわたるブリテン島支配に終止符をうつ。地方軍団の指揮官アクイラは、悩んだ末に軍を脱走し、故郷のブリテン島にとどまることを決意したが…。意志を貫いて生きることの厳しさ、美しさを描く。中学生以上。(「BOOK」データベースより)
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