大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」4 ~もうやめることが出来ないぐらい恐ろしい
大人が読む児童書。
「積ん読・解消計画★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
19世紀後半、中国からロンドンまでの広大な大洋上を、先着をきそってシナ茶を運ぶ帆船の物語。潮のかおり、帆船の美しさ、海の男たちの魂を見事に描き切った作品です。
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」1 ~読み始めるまでのハードル -
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」2 ~序盤を切り抜ける -
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」3 ~どんどん引き込まれる -
序盤を紹介するためだけに長くなっちゃいますが、読み終わった今、おすすめしたい気持ちがもうそれはそれは高まっています。
◇
気圧が下がっています。
クルーザーは、へやへおりるとちゅうで、ざっと航海日誌をつけこみ、気圧計をちょっ 見たが、当直の間にだいぶん下がっていた。それで、つぎにまた測るときのため、手動の針を合わしておいた。船長の船室の前を通りすぎたとき、戸が広くあいたまま、留め金でとめてあった。かべから突き出しになっていて、水平にたもつための装置であるジンバルの上にのっている安全灯に灯がともっていた。
すげえな。
誰がこんなん興味あんねん。
と思いながらも、その詳細さが逆にリアルを増して、わからないなりに世界に入り込んでる自分を感じます。
(アニメでも誰が気付くんだろうというような細かいリアルさをピックアップして絶賛してる人がいることだし…そういうのに通じる何かを感じる…)
長すぎるので割愛しますが、ここで船は突然、大嵐の闇の中から現れた汽船に衝突をくらって難破してしまいます。
船長が先ほど、機関と比較してほめたたえていた帆船、大事なブラックゴーントレット号は、あれほどわるくちを言ってた汽船にやられてしまったのです。
しかも嵐なので、汽船は気付かないか無視したか、去ってしまいます。
致命的なきずをおった帆船には水がどんどん流れ込んでいて、船長は我を失っている様子です。
非常の際には、決して一秒の時間もむだにするなというのが、クルーザーのたいせつにしている金言だったので、クルーザーはすぐ船尾楼から上甲板へ飛び降りていた。(略)
ふと、「何かしてほしかったら自分でせよ。」という、昔からの金言が心に浮かんだ。
名言連発です。
みなで大型ボートを吊り出し、点呼をとりました。
この非常時に若輩のはずのクルーザー、ものすごく冷静てきぱきしていて、めちゃくちゃに頼りになります。
ボートと、そして水!いくらでも必要な水を出来る限り多く積み込むこと。
あらゆる水いれ、水槽、雨水のバケツを指示します。
クルーザーはかねてから、海員という職業につきものの、突発的なできごとをいくつか、よく心の中で考えてみて、「どうしょう、というなら、 どうすべきだろう、そし万一…」というようなふうに、くり返しくり返し考えていた。
多くの突発的なできごと、たとえはマストや帆桁をなくしたとか、何かで船が突然方向を変え、船首を風上に向けて止まったとか、急に風が変わって帆が裏帆を打ったとか、険悪な天候の風下にはいるとか、舵をなくしたとか、停泊地で錨綱が切れたとか、また、暴風雨、霧などの中の衝突、船着き場、港での衝突、航海ちゅうの衝突など、さまざまな変事に対するやり方を、いつも自分ひとりで工夫していた。
だからクルーザーにしてみると、こんな大衝突のこともちゃんと考えてあった。なんと!ほんの二晚、三晚前にも、貿易風帯の中の夜半直に、まさにこのとおりのこと、急いで各ボートを出すことを、考えたばかりだった。クルーザーは、いつも、自分のあずかっているボートがすぐにおろせるようになっているのを、自慢にしていた。
こんな22歳、いる!?
クルーザーはいつも「海員という職業につきもの」の、あらゆるリスクに対してイメトレをしてた様子です。
船長試験を受けようとしていただけのことはあります。
この本のクルーザーの模範的行動で、本が書けそうです。
「『ニワトリ号一番のり』に学ぶ、マインドを高めるリスク管理と緊急時の切り抜け方」
◇
このあたりでヤバいなと思って、人の名前をつけはじめました。
水夫長フランプトン
見習航海士アボット
英語とドイツ語ごたまぜのバウア
老水夫ジェイムズ・フェアファッド
クラタバック
ネイルズワス
エジワス
右舷当直員ストラトン、エファンズ、ジェコブスン
割と古典と呼ばれる本で登場人物が多くまずいなと思うとき、私はこれをやります。
序盤にメモっても頭に物語が入ってくるに連れていらなくなりますが、メモらないよりも格段に理解度が違います。
でもガンバはやらなかったです。名前とキャラがリンクしてましたしわかりやすかったなあ。
最後の三人、ストラトン、エファンズ、ジェコブスンは重要人物でした。
いい意味でも悪い意味でも。
◇
水、水、水!
茶色くなっている雨水でも無駄にできません。
水と食料、そしてクロノメーターと六分儀!これが大事なのは私もわかるぞ。
くわえてクルーザー、大工道具、折れた材木まで回収です。
ここでちょっとほお!と思ったのが、波が荒すぎてボートが降ろしにくいため、油を流して波を沈める、という描写でした。
ん~???
エリナー・ファージョンの超名作「町かどのジム」も、年とった船乗りが少年に語り聞かせる物語、というでしたが…。
ここにも似たような記述があったぞ?
確か、あらしのときに助けたタラの肝ぞうの油を流して波を沈めるというような…。
あれは、おまじないかと思ってたけど船乗りたちには根拠のないことではなかったのか~!!
児童書って勉強になります。
◇
なんて言ってる場合ではなくて…。
このてきぱきとした緊急事態の模範行動に対して、船長はじっとして動きません。
ものすごく緊張した場面を、緊張した感情描写をするのではなくて、クルーザーの細かい行動ひとつひとつを記述することによって表現、動かない船長を対比させる。
これがいっそう緊張感を高めるという…。
これはすばらしいです。
もう取り込まれちゃって戻ってこれません。
考えられる限りのあらゆる荷物を積み込み、クルーザーは右舷当直員と右のボートに乗り込む手はずになりました。
船長が乗るのは左舷の大型ボート、最初に名前書いたフランプトンやアボットもこちらです。
右側ボートはもう降りて、クルーザーを待っています。
もう時間がありません。やむを得ず乗り込んだクルーザー、船と左舷ボートを見守ります。
めちゃくちゃハラハラします。
ど、ど、どうなるの~!!
左舷ボート、この大嵐と沈んでいく船の中、いつまでもぐずぐずしています。
ブランクゴーントレット号の船尾に書かれた「ロンドンー必勝」の文字が切ないです。
あー!!!
とにかく、クルーザーは力かぎり、「おーい、大型ボートのつり綱を下げろ。」とさけんだ。
ちょうどそのとき、大型ボートのしりが少し下がった。そしてひとりの男が命綱をつたってボートの中へすべりおりた。そのとき、突然本船が、波に持ち上げられたように、前かがみになった。船が波に頭をつっこむにつれて、しぶきが手すりにそって高く上がった。船は、いったん船首を一メートルばかり上げて、またゆっくりと頭からつっこんでいった。それから、急におそろしい速さで、おりかけている大型ボートの上へたおれかかった。赤い照明灯は消えた。
右紙のボートの者には、組み立てたいろいろの円材が、急にかたむいたり、がらがらいう音をたて、はねを飛ばしながら、索具類がたおれたり、飛んだりして、かたむいていくのが見えた。マストや帆桁が水にぶつかったとき、はげしく水面をたたく音がした。
それらが水面に平手打ちを食わすように当たったとき、すでに沈んだ船体はちょっと立ち直った。しかし、ふたたび垂直にそれらを、水の中へ引っ張りこんだ。それから、ごぼごぼいうような、聞いたことのないうめき声をあげて、やみの中に、石のように沈んでいった。
も...もう…。
読むしかない…。
(ひとつだけ言えることは、船長だけでなく、メモった一番上の二人、フランプトンもアボットもここで死んでしまいました)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
The Bird of Dawning or The Fortune of the Sea
John Masefield (著), Philip W. Errington (序論)
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