大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」5 ~理想的なリーダーシップ
大人が読む児童書。
「積ん読・解消計画★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
19世紀後半、中国からロンドンまでの広大な大洋上を、先着をきそってシナ茶を運ぶ帆船の物語。潮のかおり、帆船の美しさ、海の男たちの魂を見事に描き切った作品です。
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」1 ~読み始めるまでのハードル -
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」2 ~序盤を切り抜ける -
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」3 ~どんどん引き込まれる -
大人が読む児童書「ニワトリ号一番のり」4 ~もうやめることが出来ないぐらい恐ろしい -
あのイヤミな船長は、この超・序盤のタイミングで物語からご退場してしまいました。
かつてなく長い紹介になってしまったのですが、長くなってでも紹介したいと強く思う素晴らしい本でした!!
子供時代に読めた人は、幸せ者だと思います。
ここから、右舷組の漂流生活が始まるわけなのですが、ここでページを確かめました。
この「ニワトリ号一番乗り」は約400ページあって、
100ページで遭難がはじまり
260ページでニワトリ号を見つけます。
いわば、現在は「第一部:イヤミな船長編」が終了し、「第二部:遭難編」がはじまった所でしょうか。
「第三部:ニワトリ号編」はもう、遭難からは助かってますのでこれは命の危険はないので安心です。
◇
クルーザー(22歳)は自分よりはるかに年下の水夫たちをまとめて、自らが船長となり、導いていくのですが...。
このクルーザーの行動、判断、すべて、大学生ぐらいの若者たちが読んだり、新入社員が読んだりするのも、ものすごく役に立つのではないかと思います。
何らかの部活にしろ、社会生活を営むにしろ、やはりなあなあの精神ではいけません!
強いリーダーシップ、統率者として動くことを考えたときの思考回路を、ひとりのクルーザーという若者の行動を通して書いています。
本当にこれは、「理想的なリーダー論」を本当は描きたかっただろうか?と思うほどです。
◇
クルーザーの行動です。
・沈んでしまった左舷ボート の生き残りを探す。(一人救出)
・同時に、使えそうな物資を出来る限り回収。
・水・食料・物品を点検、数と量を正確に洗い出し記録。
ここで、トラブルです!
とんでもない事態になりました。
積んだはずの水がなーい!!
全部ではないですが、頼りにしていた大部分がありません。
これは大ごとです。
とりあえず、犯人はクルーザーが命じたストラトンをはじめとする三人が確定です。
(ここはひとまず水はおいて、救い上げたけれど死んでしまった左舷ボートの水夫を一人、水葬します)
◇
・船の位置を確認、一番近い港を確認、キロ数、航程、規則を確認、当直員を割り当てなおす。これらをすべて、全員にキッチリ確認、周知させる。
・食料、水量を再度、洗い出し。航程は本来なら一週間だが、二十日かかるものと計算、水、食料を割り当てる。これも全員に通知する。
水の不足は、雨水を採る方法を模索します。
かつて、難破も経験してきた老水夫たちがクルーザーの肩をもち、過去の経験を若い水夫たちに教えて口添えをします。
◇
・海の水は絶対に飲まないこと!!を繰り返し周知徹底。
・どの位置にいるのか、航程は都度、周知。
・風を見て帆を張る。補強をして強度を高める(材木活躍)
・ボートの水のもれをなおす(大工道具活躍)
・雨水を採取。飲めるかどうか都度チェック。(海水のしぶきが混じるため)
・休息をきびしく取らせる。
・配給をきびしく取り締まる。
・天体観測は、ほかの者にもやらせ、教える(自分に万が一のことがあった場合の備えのため)
・沈没について詳しく調査する。
・水が何故つみこまれなかったかについて詳しく調査する。
この「調査」ですが、じつに詳細に検証します。
水を積み込むように命じられながらやらなかった三人は、水の代わりに酒を隠し持っていました。
クルーザーは、この三人に罰も与えますけれど、「積み込む所を目視で確認しなかったからだ」という自分のミスもきっちり認め、これからに生かすこととします。
最早、クルーザーの顔がイケメン♡かどうかなど既にどうでもよく、たとえブサメンであっても、その行動があまりにもイケメン♡すぎて、崇拝しそうになりました。
◇
難破のお話というと、苦しさや極限状態の人間関係を描くことが多いと思いますが、このお話は一味も二味も違います。
この難破の160ページほどのほとんどが、このような詳細な検証、物資の確認、トラブルの対処法の描写に費やされます。
なので、怖いという気持ちがあまり起きませんでした。
むしろ、これは陸で生きていく上でも、すごく参考になる!という気持ちで読み進められました。
ここには、リーダーとしてあるべき行動の、すべてのお手本がありました。
「ミスの詳細な検証」ですが、検証によって、もちろん責任の所在をはっきりさせ、犯人たちを責めてもいますけど、どちらかというと更なるミスを防ぐため、という側面が大きいのです。
訴訟を思わせるほど、証人尋問のようにキッチリ詰めていきます。
さぁ、さぁ、さぁ!!
細かな嘘も、確実に明るみにさらします。
すごいな…。
(なあなあ文化の日本では苦手なことかもしれませんがとても大切だと感じました)
「難破の検証」は、のちのち、陸に上がってから海難審判という裁判があるのでした。
そのために、記録と記憶の焼き付けをかねて、こうして詳細にしているらしいのです。
◇
こんなの、つまんないのでは?と思いそうなものですけど、逆にめちゃくちゃ面白かったです!!
難破の検証によって明らかになったことですが、やはり死んだイヤミ船長は、船が沈むのを受け入れられず、船とともに全員死んでもいいと思っていたようでした。
いつまでもぐずぐずしていて大型ボートの致命傷になったのは、最後まで動きもせず命令もしなかった船長だとはっきりわかりました。
愚かなリーダーに率いられた末路です。
ただひとり助かった、まかない役(コック)が語る、木材につかまり波を漂いながら交わす最後の会話は、口のなかが乾いてくるほどリアルでおそろしいです。
(危機的状況なので、奮い立つために明るい冗談ばかり言い合うのですが、逆に総毛立つほど怖い…)
◇
人間描写が実にたくみです!!
水を積み込まなかったやっかい者でならず者のストラトン。
生まれつき、人にも従わず、また人を指揮することもできないが、指揮者に対しても、従ってくる者に対しても、同じようにたちのわるい人間だった。鉄炮でウサギを撃つことと、自分の父親のあごをなぐること以外に、おそらくこの世にたいしてしたいと思うことはないらしかったが、この二つのことだけは両方ともやった。
クルーザーは、右舷ボートが助かった理由のひとつが、このような「言うことをきかない人間の行動力」であることも、それはそれでしっかり認めています。
左舷ボートは、船長の命令があるまで動かなかったのですが、右舷ボートはクルーザーが指示しなくても、ストラトンがとっとと海に降ろしていました。
このあらゆる側面からの冷静な視点が、ほんとうにすごいです。
失敗した奴=ダメ、言うこときかない奴=ダメ、とすぐ決めちゃいそうなものです。
◇
途中で何度もページをめくって確認しましたが(怖いので)、そうこうしている間に、ついに、船の影が見えてきました...!
た...助かったー!!
しかしそれは、打ち捨てられた幽霊船のような無人の船でした。
しかも、チャイナ・クリッパーに参加していたニワトリ号です。
(つづきます。次で終わりです。ここまで読んでくださってるかたは、本当にありがとうございます)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
The Bird of Dawning or The Fortune of the Sea
John Masefield (著), Philip W. Errington (序論)
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