大人が読む児童書「名探偵カッレくん」4 読了 エーヴァ・ロッタへのあこがれはいつまでも…
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
名探偵を夢見るカッレくんは、ある日エイナルおじさんの怪しい行動に第六巻を働かせ、捜査を始めます。宝石窃盗団に迫ったカッレくんは、仲良しのアンデス、エーヴァ・ロッタとともにお城の地下室に閉じこめられてしまいますが…。
日常生活と探偵ごっこが同時進行しながらお話はすすんでいき、やはりピークで盛り上がるのはちょうど中盤で、カッレがエイナルおじさんの指紋を取ろうとするところです。
ここは、中盤では最高潮の盛り上がりです。
(ぜひその目でお確かめください)
探偵の方は、新たな不審人物が現れていよいよ事件らしくなって来るのですが、
・不審人物の乗っている車が黒いボルボ
・カッレ、お母さんに頼まれた買い物の新聞に穴を開けて観察
などなどと、面白いこと満載で続きます。
カッレは人さし指で新聞に穴を二つあけたが、同時にママの晩の読み物にこんなみょうな穴をあけたことを、なんといって弁解したものか、と思案した。
カッレはふたりをじっとみつめていた。目玉が新聞の穴から抜けて飛びださなかったのがふしぎなくらいだった。カッレはもちろん、耳をそばだてていた。ふたりの男は話に夢中だったが、残念ながら、カッレにはその大部分がききとれなかった。
これ以上は書きたくないので探偵の話は読んでいただくとして…。
バラ戦争が始まります!
カッレたちのライバル、郵便局長の息子、シックステンの登場です。
この「シックステン」の名前とワクワクは、エーヴァ・ロッタについで強く覚えていたので、読んでいて名前が出てきた時にはどきっとしました。
「よしっ。」と、アンデスは仰々しくいった。「白バラと赤バラの戦争だ。いく千いく万の人命は死と死の暗夜に落ち行くであろう。」
この文句も、アンデスは歴史から借りたもので、『大平原』に夕闇がたれこめるとき、闘いが終わったあと、口からはきだす文句としては、ことさら美しい響きをもっている、と思ったのだ。
多分、カッレくん好きにはあまりにも有名なこのバラ戦争、あまりにも面白いので、記憶に深く焼きつきます。
今回、再読するにあたって、エイナルおじさんの事件のことは大部分忘れていましたが(それでなお、面白く読めたのですが)、このバラ戦争の所ははっきりと覚えていました。
これは何度読んでもやっぱり面白いです。
このバラ戦争、一体何なんだ?と言われるとなかなか説明が難しいです。
まあ、チーム戦の鬼ごっこのようなものではあるのですが、そんなことを言ったら身も蓋もな…
妹子「ちがうよ!?」
わたし「はっ!?」
妹子「鬼ごっこじゃないよ!?」
わたし「はい」
妹子「あれは鬼ごっこみたいな💢遊び💢じゃないから!!💢💢」
わたし「すみません」
妹子「もっと本格的な戦闘なの!」
こりゃあ下手なことは言えないな。
妹子が白熱するぐらい、やはりバラ戦争はちょっと、普通の遊びとは一味も二味も違っていて、本格的です。
てきとうな説明をしようとして妹子に怒られましたが、このバラ戦争のシステム、原作にちゃんと記述がありました。
赤バラ軍と白バラ軍とのあいだには、何年もつづいて戦争が行われてきた。両軍の子どもたちは、けっしてほんとうの意味での仲の悪い同志ではなかったのだ。むしろ逆に、みんな仲良しの友達だったので、この戦争というのも、じつはおもしろい遊びにすぎなかったのだ。
戦争の方法については、別段これといった規則はなかった。ただ一つの目的──それは敵軍をできるだけおこらせてくやしがらせることだった。
そのためには、親や関係のない者などを引っ張り込むことは当然のことながらいけないとして、そのほかはたいていどんなことをしても、いいことになっていた。
敵の司令部を占領すること、スパイしたり奇襲したりすること、人質をとったり、脅迫的な文句をぶつけたり、悪口の手紙を書いたりすること、敵の『秘密書類』を盗んだり、敵の頭を悩ませるような秘密書類をばらまいたりすること、敵陣地をくぐって重要書類をこっそりもちだしたりすること、こんなことはみんな、白赤バラ戦争のおもなやりかたなのであった。
というわけで、鬼ごっこや陣地取りとは違う、かなり本格的な戦闘を開始するのですが、このバラ戦争が開始されたのは、町はずれの空き地です。
『大平原』というのは、町はずれにある広い公有地であった。よく茂った灌木が生えていた。 この『大平原』は、町の子どもたちのものだった。ここで、アラスカのゴールド・ラッシュ式に金鉱掘り遊びをやったり、銃士の猛烈な一騎打ちが行なわれたりした。
この野っぱらで、その「本格的な戦闘」は開始されます。
岩山では、キャンプ・ファイヤーをたき、アフリカ・ジャングルのライオン狩りをやり、高貴な騎士が誇り高き名馬にまたがって殺到し、ぶっそうなシカゴのギャングが容赦なく自動拳銃をふりまわしたものだ。それは、そのときどきに町の映画館でやっている映画によって、どうにでも変わるものであった。もちろん、夏場は町の映画館はしまってはいたが、だからといって、子どもたちまで休業してはいなかった。だいたいいつも、けんかがあったし、おとなしい遊戲でも、この『大平原』でめるのが、喜ばれていた。
昔はこのような場所があったからといって今、子供達の遊び場が失われてしまったかと言うとそんなことはなく、やっぱり同じようなことが繰り広げられてます。
舞台は教室であったり(鬼滅ごっことか)、switch越しであったり、どうぶつの森の中だったりします。
(兄助はPCで友達とSteamのゲームをあれこれやりながら、Discordという携帯アプリで会話してます。チーム戦するときにはすごく役立つみたいです)
探偵事件もTwitter上やインスタ上でおきてるかもしれません。
◇
さて、アンデス・カッレ・エーヴァ・ロッタは、白バラなのでランカスター側です。
(原作には赤バラ白バラとあるだけで、ランカスターだヨークだの記述はないです)
赤バラ軍を率いるのは、前述した郵便局長の息子シックステ、配下にベンカとユンテがいます。
赤バラ白バラ軍は、『大平原』だけではなく、そこらじゅうを走り回って、戦闘を繰り広げるのですが、途中でアンデスは捕まってしまいます!
屋外トイレ(絵によれば仮設トイレに似ています)にとじこめられてしまったのですが、エーヴァ・ロッタは屋根裏部屋からどうにかしてそのトイレによじ登り、白バラ司令官をを救出します。
改めて読んでいると、この娘、ほんとうによくあちこちによじ登ります。
サーカスの時も、屋根裏部屋から綱をすべりおりて馬にとび乗ろうとしていたし…。(出し物の一環です)
アンデスは助けたものの、エーヴァ・ロッタは代わりに自分が捕まってしまいます。
ここでただ捕まるエーヴァ・ロッタではなく、「めすライオンのように」応戦します。
川で大乱闘になりますが、ベンカとユンテ、二人がかりで掴まれて、抵抗するなと脅されるとエーヴァ・ロッタはますます暴れ出し、二人を水のなかに突っ込みます。
いや、こうして書いていると、この娘はそうとうに手の負えないお子さんです。
この破天荒さ、このエネルギー。
中学生ぐらいでこれほど力いっぱい、男子女子の垣根なく暴れまわるのは、読んでいるだけで壮快です。
もうとうに忘れていましたが、小学生ぐらいでこのバラ戦争にあこがれて友達にシステムを説明し、他人の庭やら裏山やらに本部の陣地を作って走り回ったことを思い出しました。
エーヴァ・ロッタへのあこがれは、いついかなるときも心の片隅にあって、あるべき○○像なんて頭っから吹き飛ばしてくれていた気がします。
「ツバメ号とアマゾン号」のナンシイもそうでしたが、もはやジェンダーなんてまったく意味をなさないほどの暴れっぷりです。
あこがれでもあり、理想でもあり、魅力的あり、大好きだったなあ…。
こういう、枠なんて超えるどころか爆発させてしまっているエネルギーを秘めた女の子たちを、また新しい児童文学の中でも見たいなあ、と思います。
◇
なんだか今回は、本当に好きな本、よい本だと思う名作の紹介がいかに難しいかというのを思い知らされたような再読でした。
実際に読んでしまったのはもう一時間ぐらい、それほど薄い本でもないのですが、面白くて面白くて目が止まらないのです。
引き込まれるのもあっという間です。
目が引きずられるというような感覚とでも言いますか…。
この感覚を、子どもたちに味わって欲しい。
カッレくんは、もうたくさんの子どもたちにすすめてきましたけど、もっともっと、たくさんの子どもたちに、またかつて子どもだったかたがたにも、読んで面白さを実感してもらいたいなあ、と思います。
何より、まさに「筆舌に尽くしがたい」とはこのことだ、というエーヴァ・ロッタの魅力をなまで知って欲しいです。
◇
ツイッター上でカッレたちがポケットに突っ込んでいる「甘パン」はシナモンロールだったのだと教えていただきました♡
ずっと甘食を想像していました!!
新訳ももちろん持っているのですが、今回は図書館で旧訳のハードカバーを借りていたので、そちらばかりを読んでいました。
まだシナモンロールが上陸していなかった時代だったからかもしれませんが、夢のある「甘パン」という単語で訳してくれた古い翻訳に敬意を表したいです。
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