大人が読む児童書「魔女ファミリー」 1 旧訳「ガラス山の魔女たち」
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
7歳の女の子エイミーが魔女の絵を描きながら「いけ、ガラス山へ!」と命令すると、悪名高い魔女ばあさんが本当に追放された。空想と現実がたくみに交錯する長編ファンタジーの新訳。
ハロウィンの本の紹介、いよいよ本番です。
真打ちです。
この時を待ってました。
「閑話 好きすぎて…」で書いた、好きすぎてなかなか紹介しづらかったうちの一冊です。
まだ日本にハロウィンがこれほど浸透していなかった頃、わたしにハロウィンのお祭りを教えてくれた本です。
初心に戻って読み返してみたいと思います。
作者は「100まいのドレス」を書いた、エレナー・エステスさん。
旧訳は「ガラス山の魔女たち」という題名でした。
新訳が出ているのは本っ当に嬉しいことです。
面白いし、何十回となく読み返してきた、語り継いでいきたい本です。
◇
冒頭、こんな風に始まります。(手持ちが旧訳の方です)
魔女のなかでいちばんえらかった魔女ばあさんが、ある日、とつぜん追放されました。それは、魔女でもなんでもない、ふつうの女の子のエイミーが、「魔女ばあさんは追放よ」といったからでした。
魔女ばあさんは、あらゆるお話に出て来る、悪い魔女です。
魔女のボス、親分、頭取、なんでもいいですがとにかくトップクラスの悪玉です。
ガラス山は、ひとっ子ひとりいないし、木一本もないはげ山で、さむい風がふきすさぶところでした。その山のてっぺんの魔女の家で、家族のいない魔女ばあさんは、たったひとりですまなくてはならなくなるのです。
そのわけは、この魔女ばあさんのわるさにあきれたエイミーという女の子が、追放すべきだといいだしたからなのです。
冒頭、ここから始まるので、さて魔女のお話かというと、場面は切り替わって、ふたりの女の子が、机について絵を描いています。
よくある、今でも本当に普通の風景です。
年齢はもうすぐ七つ。小学校低学年です。(かわいい盛りです!)
◇
このお話、数名のモブ以外は、全篇通して、ほぼ女子しか出てきません。
やっぱりこれは、魔女というのは女の世界なんです。
(心が女性な人も、女の世界をチラ見してみたい男性も大歓迎です。関係なくおもしろいと思います)
こうして読み返してみると、不思議な冒頭です。
エイミーとそのなかよしのクラリッサ、二人が今、夢中になって描いてるのは魔女の絵です。
エイミーのお母さんから、悪い魔女の魔女ばあさんの話をたくさん聞いたばかりなので、そのことで頭がいっぱいです。
描きながら、エイミーは絵にむかってつぶやきます。
「いけ!ガラス山へ!」
こどもたち、とんでもなく憎たらしい悪役のお話を聞いて、義憤の念にかられたとき、空想の中でたくさん、罰を与えようとします。
(ここでその義憤の対象をネット上に見つけたり、頭の中の罰を書き込んだりしちゃいけないです。炎上必至です)
わたしだったら…。ぼくだったら…。
こうしてやりたい、ああしてやりたい!
ナンシイ「フカに食わせたい。木に吊るしたい。錨をつけて海にしずめたい」>対象:大おばさん
妹子はプロイスラーの「ちいさな魔女」を読んで、ちいさな魔女をいじめた大魔女たちにめっちゃやたら興奮して怒っていました。
「ほんっと、さいってい!!最悪!何あいつら!もうね、おまえらのほうきこそ折ってやるわ!焼いてやる!ぐちゃぐちゃにして、ふみつけて…!」
子どもであるがために、その報復はかなり過激で、苛烈であることが多いです。
エイミーも、魔女ばあさんのあまりの悪さに義憤を感じて、絵の中で罰を与えようとします。
「いけ、ガラス山へ!」
つるつるの、木ひとつ生えていない、荒涼としたガラス山へ、エイミーは絵の中で、魔女ばあさんを追放します。
描いた絵がそのまま命を持ち、意志を持ち、勝手に動き始めます。
魔女ばあさんが先なのか?絵が先なのか?
空想とファンタジーが、一体となって混じり合い、何の違和感も抱かせない、見事な導入です。
◇
この冒頭で語られるエイミーとなかよしのクラリッサの場面がとても魅力的です。
・エイミーの金髪は月の光の色、クラリッサの色は太陽の色。すてきです。
ふたりともゆうかんな女の子で、クラリッサは、ひとりで図書館へいけましたし、エイミーは、ひとりでは図書館にいけませんが、クラリッサにまけずおとらずゆうかんで、予防注射だってこわくありませんでした。
可愛すぎます。
・お昼ごはんは「つるつる」を食べる。
お昼はたいてい、スパゲッティのようなのですが、二人ともこれを「つるつる」と称しています。
これがまたおいしそうで、美味しそうで…!
当時はパスタはまあ、せいぜいやるとしてもミートソースぐらいでしたから、憧れでした。
よく「つるつる」を作ってくれとせがんだものです。
今や…スパゲティはそうめんに継ぐめんどくさい時のメインメニューです。
ああ、ありがたみが…。
・エイミーの家の庭には、モミの木に縛り付けたブランコがある。
これは憧れでした!
ご近所に住んでいる二年生、三年生の子たちは、もう体重が重くなりすぎているので乗れません。
まだ体の小さい、エイミーたちの特権です。
・二人が住んでいるのはワシントンのようです。
イチョウの並木道のある町の描写がとても美しいです。
この冒頭は何から何まですばらしいです。
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The Witch Family (Young Classic)
Kindle版 Eleanor Estes (著), Edward Ardizzone (イラスト)
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「百まいのドレス」を持っていると言い張る、まずしいポーランド移民の女の子ワンダ。人気者で活発なペギーが先頭に立って、みんなでワンダをからかいます。ペギーの親友マデラインは、よくないことだと感じながら、だまって見ていました…。どんなところでも、どんな人にも起こりうる差別の問題を、むずかしい言葉を使わずにみごとに描いた、アメリカの名作。ロングセラー『百まいのきもの』が50年ぶりに生まれかわりました。(「BOOK」データベースより)
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