大人が読む児童書「魔女ファミリー」 3
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
7歳の女の子エイミーが魔女の絵を描きながら「いけ、ガラス山へ!」と命令すると、悪名高い魔女ばあさんが本当に追放された。空想と現実がたくみに交錯する長編ファンタジーの新訳。
エイミー、内心ビビっているようで、とんでもなく失礼な手紙を魔女ばあさん送ってきたわけですが、魔女ばあさんも内心、手紙が嬉しくて喜んでます。
手紙には、「アブラカダブラをとなえてみなさい」とありました…。
魔女ばあさんが呪文を唱えてみると…なんと!
ちょうどエイミーたちと同じ年ぐらいの、ちいさな魔女(ちび魔女)が現れたでありませんか!
魔女ばあさんターンが続くので、というか全編を通して、この新たに現れた新キャラ「ちび魔女」がほぼ主人公です。
ちび魔女はいわば、エイミーの分身ともいえる存在です。
魔女や魔法があるので、何が起きても不思議はありません。
アブラカダブラ、と唱えるだけで、突然、ぽん!と女の子が現れました。
この不思議さをするっと受け入れられる柔軟性はやはり、子どもならではです。
ちょっと賢くなってしまって、RPGやラノベ慣れしてしまったら、世界の摂理が…5種の精霊が…云々、設定に力がこめちゃいます。
話にリアル感を持たせるために、設定に凝るのはよくわかる話なのですが、この唐突さがまったく違和感がないあたりが、子どもの心を本当によくわかっていてすごいなと思います。
◇
ちび魔女は、特に何も驚いた様子もなく、魔女ばあさんと「こんにちは」とあいさつを交わし、「すぐにうちとけて、あちこち見てまわりました」
このちび魔女登場のシーンはとても可愛らしく、そして美しいところです。
ちび魔女は、また、そとへとびだしていって、こうさけびました。
「まあ、なんてきれいなところなの。どちらをむいてもきらきらしているし、つるつるだわ。」
日がのぼりました。ガラス山は、ばら色、もも色、金色、むらさき色、さまざまな色にひかりかがやきました。魔女ばあさんの家があるガラス‼のいただきは、もも色にふちどりされた雲の上にうかぶ島のように見えました。黒がいちばんすきな魔女ばあさんさえ、このけしきにうっとり し て、「おお、うつくしや、うつくしゃ!」と、いいました。
やがて、雲がうごきはじめました。ちび魔女は、はるかかなたを見わたしました。とおくに、そこで海がおわるかとおもわれるように、ひとすじ青く、水平線が見えました。
描写の美しさでごまかされてるような気がしないでもないですが、この、美しいものを発見する子どもの感性が、読んでいるこちらの心もあたためます。
◇
話の都合で前後しましたが、このちび魔女がぽん!と現れる前に、例の重要登場人物、マルハナバチのマルチのシーンにかなりの行がさかれています。
魔女ばあさん、マルチを探している間にうっかり魔法をかけてしまうのですが、この魔法のハチはとにかく、魔女ばあさんの天敵になります。
監視者であり、お目付け役であり、助けになる、無茶苦茶に頼もしいやつです。
さて、この魔女ばあさん、なんとなくユーモラスなとんでもおばあちゃんです。
悪いことをするのがステータス、悪いことをしまくる大魔女として偉い人だったわけなので、虎視眈々と悪いことをするチャンスを狙っています。
子どもみたいなところもあり、いたずらをするし、恐ろしい所もあれば、子どもを心配する本物の保護者みたいなところもあります。
◇
ちび魔女を見て、魔女ばあさん悪いことを考えつきます。
それは、髪をくしでとかすことです!
えっ…?
一体、それの何が悪いの…?
と疑問に思う間もなく、てんやわんやの大騒ぎが始まります。
(ラプンツェルの言及が出てきます)
魔女はぼうしをとらない規則があるとか、髪をとかすのはご法度とか、へーそうなんだ、というような説明がついてきますが、それよりも、嫌がるのに無理やり髪をとかそうとしてちび魔女を追いかけまわしたり、ぼうしをすっとばしたりします。
おばあちゃんェ…。
「お・や・め」とハチがいいました。
「いたっ!」魔女ばあさんは、くしをおとしました。
ここご丁寧に、この魔法のハチは、シャーペンの替え芯のように、かえばりいれをからだに持っているという説明がされてます。
この、いきなり衝動がおさえきれず、悪いこと(またはいたずら)をはじめるおばあちゃん、止めようとするちび魔女、ハチに刺されてひどいめにあう、というのが、今後のさまざまなぼうけんの一つのパターンです。
どのエピソードもとてもおもしろく、そしてどの登場人物も、どこか毒を持っています。
◇
さて誰もがエイミーが主人公だと信じているところで、もっともメインで活躍するのは、このエイミーの分身ともいえるちび魔女ちゃんです。
しかし、エイミーの存在が薄れてしまうことなどまったくなく、やはり、このすべてのお話の根幹にしっかりエイミーの存在があってこそなのだというのが読んでいてよくわかります。
言い忘れていましたが、ちゃんとちび魔女ちゃんもちびねこを連れてます。
こんな風にエピソードはすすんでいきます。
・ちび魔女、学校へ行くの巻。
新参者を受け入れられない魔女の子たちが、意地悪しますが、ちび魔女はマルチの助けを借りて対応します。
・誕生日パーティの巻
魔女の子たちを読んでのパーティに、エイミーとクラリッサも魔法で呼び出され、(しかも魔女ばあさんにだけは見えないというおまけつき)、大騒ぎが巻き起こる。
・人魚のお友達の巻
・赤ちゃん魔女登場の巻
・魔女ばあさん、ウサギ畑で荒ぶるの巻
もうよい子(?)でいるのに飽き飽きした魔女ばあさん、ガラス山を飛び出してウサギ畑に襲い掛かります。
・かきとり競争の巻
魔女ばあさん、天敵のマルチを何とかしようと荒ぶります。
どれもこれも、面白くて腹を抱えて笑うか、またはちょっとドキドキして目が離せないこと請け合いのエピソードばかりです。
海外ドラマの展開も真っ青の、「続きが気になって仕方ない状態」に陥ります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
The Witch Family
Kindle版 Eleanor Estes (著), Edward Ardizzone (イラスト)
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「百まいのドレス」を持っていると言い張る、まずしいポーランド移民の女の子ワンダ。人気者で活発なペギーが先頭に立って、みんなでワンダをからかいます。ペギーの親友マデラインは、よくないことだと感じながら、だまって見ていました…。どんなところでも、どんな人にも起こりうる差別の問題を、むずかしい言葉を使わずにみごとに描いた、アメリカの名作。ロングセラー『百まいのきもの』が50年ぶりに生まれかわりました。(「BOOK」データベースより)
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