大人が読む児童書「長い長いお医者さんの話」 3 中野 好夫氏の名訳 アッババババァ
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
チェコの文豪カレル・チャペックの楽しい童話集。しんせつな町のお医者さんたちや、はたらき者の郵便屋さんが活躍するしゃれたおとぎ話9編を、兄ヨセフのゆかいな挿し絵が飾ります。
大人が読む児童書「長い長いお医者さんの話」 1 チャペックの傑作 -
大人が読む児童書「長い長いお医者さんの話」 2 チーズをはさんだパンのおいしさ -
次におすすめなのは、「郵便屋さんの話」です。
これには「長い長い」がついてません。
今回、読み返して気が付きましたが、入れ子構造になっていて、お話の中でまた誰かが話をする、というものだけに「長い長い」がついてるのです。
いやー、改めて読んでみるというのも、いいものだな~!
「郵便屋さんの話」は、こんな風に始まります。
王さまだとか、王子さまだとか、どろぼうだとか、騎士だとか、そのほか、魔法つかい、大男、きこり、カッパ、そういった身分や職業ごとに、みんなそれぞれお話ができていますね。わたしは、いつもふしぎに思うのですが、それならば、なぜ郵便配達にだって、おなじようにお話があってはいけないのでしょうか?
連絡手段がスマホが主流になった今、郵便や手紙というものに子どもが触れる機会は極端に少なくなっていますが、これは「おてがみ」というものを愉快に楽しく教える、とても素敵な物語です。
郵便配達のコルババさんは、うっかりうとうとしてしまったある日、夜の郵便局で動き回っている郵便局の妖精たちに出くわします。
郵便局の妖精。
この発想がななめ上ですし、こういう所をすごく面白く描いてしまうチャペックはすごいです。
いついかなる所にも、妖精はいるのです!
こうういう所、「八百万の神(やおよろずのかみ)」な感覚にもピッタリきますし、そう考えてみると、もしかするとスマホの妖精なんてものもあるのかもしれません。
この妖精たち、普通に郵便局員みたいな仕事をして、何らにんげんの局員と変わりはないのですが、そのうち息抜きにトランプをはじめます。
そしてコルババさん、妖精たちが何やら不思議なやり方で中身の「重要度の重さ」「まごころの重さ」をはかっているのを発見します。
一番弱い七の札は、「いいかげんな、口さきだけの、いわばうそばかり書いてる手紙」
八の札は、「よくあるやつですが、しかたがないから書いたという手紙、つまり、お義理の手紙」
九の札は、「ただ、ていねいで、礼儀ただしいという、ただそれだけの手紙」
十の札は、「おたがいにおもしろいできごと、めずらしい話というようなものを知らせあう手紙」
絵札のJ、「人を喜ばせたい心から書いた手紙」
クイーン「仲のいい親友どうしの手紙」
キング「愛の手紙」
最高札は、「一番強いポイントの札」と書かれていますが、これはジョーカーのことでしょう。
「人が、まごころをこめて書いた手紙、これがそうなのです。だkらあこの札は、ほかのどの札よりもつよい。たとえばですね、コルババさん。母親が子どもにあてた手紙だとか、人が自分自身よりも、もっとだいじに思っている人にあてた手紙だとか、まあそういった手紙ですね」
妖精たちは開封しなくとも、触れてみただけで中身の重さがわかるので、それでトランプがわりに遊んでいるというわけなのです。
この、まごころをこめた手紙が強く、触れてもとてもあたたかくて重いというのは、なるほどの納得なのですが、面白いのはこの「弱い手紙」の描写です。
メール、LINEの通知、などでも、あるあるです。
八の札と九の札など、じつによくあります。
◇
妖精たちと仲良くなったコルババさん、自分でも何となく、手紙に触れてみた時にあたたかさがわかるようになり、それから仕事が楽しくなりました。
それからある日、一通の切手も宛名もない手紙が郵便局に舞い込んできました。
よっぽど慌てて出したにしては、ばかにあたたかく、重たい手紙──。
コルババさん、妖精たちに内容を読み取ってもらい、マジェンカという娘さんにあてた、結婚の申し込みの手紙だったことを突き止めました。
何とこの手紙、住所すら書いてません。
しかしコルババさん、ぜひとも届けなければならないという郵便局員の使命感にかられて、この手紙を届けるために旅に出ます。
職務はどうすんのとか、その間どうやって飲み食いしていたのか、またそのお金はなどはいっさい無視して、ただひたすら勢いで話はすすみます。
(これは妖精との魔法のおとぎ話ですから!)
コルババさん、差出人もしくは宛先人を求めて、国中を一年と一日も探して回るのですが…。
このお話のところどころで面白いのは、八の札と九の札もそうですが、とても何気ない細かい所がとてもユーモラスです。
切手も宛名もない手紙というのを聞いていた郵便局の客が
「まあ、なんてバカで、トンマで、ヌケサクで、ヒョウロク玉のオタンチンなんでしょうな、宛名も書かないで手紙を出すなんて──」
ヒョウロク玉のオタンチン
このわるくち、サザエさんの中にも出て来ていたような気がします。
悪口としても、かなりユーモラスであまり腹の立たない笑える語感です。
◇
さてコルババさん、すっかり疲れ切ってあきらめかけたその時、滅茶苦茶によい高級車なのに、途方もなくのろのろと運転している一台の車を見かけます。
乗っている運転手も車の持ち主も異常に暗く、悲しそうな顔をしていて、しかも喪服をつけてます。
お察しのとおり、この運転手こそが手紙の差出人だったわけなのですが…。
よくわからないのは、この運転手の主人である車の持ち主までが、喪服まで着て一緒に墓場まで行くような悲しい顔をしていることです。
二人はくら~~い顔で、実はこういうわけで、運転手のフランティークくんは落ち込んでいるので運転もこうだし、テンションも激下がりになっているのだ、と説明するのですが…。
「あっ!!そうか。」コルババさんは、もうじっとしていられなくなりました。「うーむ、それじゃ、きみだね、切手も宛名もない手紙をほうりこむなんて。バカだよ、アホゥだよ、トンマだよ、ヌケサクだよ、オタンチンだよ、ほんとに、アッババババァだ。だが、きみに会えてほんとうによかった。いったいきみは、どうかしているよ。マジェンカさんは第一、きみの手紙を受けとっていやしないんだ。どうして返事なんぞ書けるもんか。」
アッババババァ
ちょっと聞いたことがないわるくちです。
運転手くんが足を一つ、うんとふんばると、車はぐんと、おどりあがるようにすべり出しました。四十キロ、五十キロ、六十キロ、──まだまだあがる、七十キロ、八十キロ、九十キロ、速力の出ること、出ること、とうとうしまいには車までが、うれしくてたまらないように、かすかな気もちのいい歌をうたいはじめました。喪服の紳士は、ぼうしが吹きとばされないように、両手で一生けんめいに頭をおさえていなければなりませんでした。コルババさんは両手でしっかり座席にしがみついている。フランティークくんまでがさけびはじめました。
「いよーう、どうです、このすばらしい走りかたは!走ること、走ること、時速百三十キロ、もうこれ以上はいけません、車が浮きあがりそうです。アッ!地面をはなれたっ!アッ! はえた、はえた!ハネが──」
というまもなく、車は時速百八十キロ、しばらくは宙をとんで走りましたが、やがて、はるかむこうに、真白い家のならんだ美しい村が見えてきました。
ちょっとは落ち着け!
というようなテンションですが、さっきまでの異常な暗さと、わかってからの喜びっぷりの落差が実にユーモラスで笑えます。
妹子「いや場所わかってんなら行けよ。直接言え」
まあ、それはそうなんですけども(笑)
訳をされている中野 好夫さんのたくみさが余すところなく現れています。
中野 好夫さんのWiki
Wikipediaには、「訳文の巧みさでも知られている」という一言が書いてありました。
納得のおもしろさです。
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世界中の犬たち、そして犬に手を焼き、それでも犬がかわいくてたまらない全ての人たちのために-----愛犬家カレル・チャペックが犬好きの心をギューと掴んではなさない名著を新・決定版として刊行。愛犬ダーシェンカのために書かれたおとぎ話8篇、エッセイ、イラスト、写真で構成された、読んで楽しい・見て愛くるしい愛蔵版です。
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ロボットという言葉はこの戯曲で生まれて世界中に広まった。舞台は人造人間の製造販売を一手にまかなっている工場。人間の労働を肩代わりしていたロボットたちが団結して反乱を起こし、人類抹殺を開始する。機械文明の発達がはたして人間に幸福をもたらすか否かを問うたチャペック(一八九〇‐一九三八)の予言的作品。
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