大人が読む児童書「写楽暗殺」1 幻想めくるめく狂言の世界へ
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
なんだか、「写楽暗殺」が読みたいなあ~。
という気分になったので、引っ張り出してきました。
たまにすごく読みたくなるのです。
これ、児童書を読んでいる、という感覚がありません。
主人公は、小5の女の子なのですが、これは完全に大人の小説です。
少なくとも、わたしはそう思って読んでいます。
歴史小説で、ミステリー小説で、幻想小説でもあります。
残念ながら絶版なのですが、ぜひ図書館などでも借りて読んでみて欲しいです。
すごく面白いです!
これは、浮世絵と狂言という、二大芸術を扱っているのですが、「こういうのですよ!すごいでしょ!」とあからさまに教える感じではありません。
狂言師、浮世絵師という主役の人物たちを通して、浮世絵や狂言がごく自然に周囲にある、ある意味、歴史小説であり、幻想小説でもあります。
写楽だけではなく、北斎も出てきます。
(べらんめえな感じの江戸っ子で、とてもカッコいいいです)
「ぼんぼん」や「山の向こうは青い海だった」も好きですが、それよりも好きです!
これは今江さんの作品の中でも、最高傑作ではないかと思っています。
再注目されて欲しいです!!
◇
私の持っている本の装丁、カッコいいいです。
そしてもくじ。
第一章 モンキー・マジック
第二章 イェスタデイ
第三章 カモンナ・マイ・ハウス
第四章 イミテーション・ゴールド
第五章 マイ・フェア・レディ
第六章 トゥ・ヤング
第七章 ムーン・リバー
第八章 オンリー・ユー
第九章 ストレンジャー
第十章 マイ・ウェイ
…と続き、二十七章の「レフト・アローン」で終わっています。
古い歌ですが、名曲ばかりです。
Youtubeでセットリスト作ってみようとしたのですけど、時間なく挫折しました。
同じ名前でたくさんあるような曲は、どれなのかもわからず探すのが大変です。
映画音楽が多いようですね。
このもくじ名にあわせて登場するのは、小学校5年生の夕子ちゃんです。
あれ、これは歴史小説では?
第一章 モンキー・マジック
生まれてこのかた、夕子は、猿のことなど気にしたことがなかった。それが、この二日間で、猿のことが気にかかって仕方なくなってしまった。むりもない。
二日の間に、これまで見たこともないおかしな猿と顔つきあわせ、もう一つ、靱猿というかわいいのとであってしまったからなのだ。
小学校5年生の夕子は、二つの猿と出会います。
日本モンキー・センター(実際にあります)のおさるさんたちと、「靭猿」狂言の演目です。
夕子はモンキー・センターで、たくさんの猿を見て、頭が猿のことでいっぱいになってしまいます。
特に気に入ったのは南米の、タマリン、マーモセットのような小さな猿たちで、小鳥のように飛び交い、ちちちち…とさえずります。
夕子は夜に眠れず、羊を数えようとするのですが、猿たちに追い散らされてしまうほどです。
このモンキー・センターを訪れた日の描写は重要です。
なぜなら、狂言を見ている時に、あっという間に、えらい展開になります。
次に、夕子は、お父さんに半ば無理矢理連れられて 狂言を見に行きます。
テレビで見た歌舞伎もお能もさっぱりだった夕子、不安ながら観劇します。
ふいに、舞台から声が歌うようないい声が流れてきて、夕子はあわててパンフレットを閉じた。
─……これは、このあたりに住いいたす者でござる。天下治まり、めでたい御代でござれば、このあいだのあなたこなたの茶の湯は、おびただしいことでござる。それにつき、それがしも、今日は山一つあなたへ、茶くらべにまいりますが、おりふし、茶のつめたものがござらぬによって、伯父御の方へ借りにつかわそうとぞんずる。まず太郎冠者を呼び出だいて、申しつきよう。ヤイヤイ太郎冠者、あるかやい……。
とても、狂言についての説明が丁寧です。
「止動方角(しどうほうがく)」という演目なのですが、たしかに狂言は、何を言ってるかわからないお能と違い、言葉もはっきりしているし、短いし、ユーモラスでとてもわかりやすいです。
ある日、いばりんぼうの殿様が、太郎冠者(かじゃ)を呼びつけて言いました。「今日、わしはお茶の会に行く。すぐにおじさんのところに行って、お茶と刀と馬をかりてまいれ。」おじさんがかしてくれた馬は、誰かがせきをすると暴れだすくせがあり、「しどうほうがく」という呪文をとなえると静まるという、変わった馬でした。急いで帰った太郎冠者を、殿様は「遅いぞ!」と叱りつけ、馬にまたがります。太郎冠者が腹いせに、「コホン、コホン」とせきをしてみると……。
次の演目は「靭猿」
猿です。
ここでは、舞台の様子を描写しながら、仔細に「靭猿」の内容を説明しているのですが、ここ、すごく重要なところです!
舞台の表現がすごくすてきです。
猿は着物をつけ、花傘をかぶったかわいいのが、キャアキャアキャアと声をあげて、大名をひっかきにいこうとする。そのようすがあんまりかわいかったので夕子はすっかりひかれてしまい。声をひくめながらも、とうさんにきかずにはいられなかった。
──あの猿、だれがやってはンのン?
─…子どもや。
とうさんも低声で教えてくれた。
─ふうん……。わたしくらいの?
─…あの猿やったら、たぶんそうやろ。
言い忘れてましたけど、夕子は関西人です。
作者の今江さんが関西のかたなので、とても自然な関西弁を使います。
「猿(靭猿の猿役)に始まり狐(釣狐の狐役)に終わる」とも言われ、狂言師をめざす子弟が(猿の役で)幼少時初めて舞台に立つ演目としても知られている。(Wikiより)
…だそうですが、当時わたしもこの場面があまりにも面白く、日本古典全集を引っ張りだしてきたのは、「狂言」の巻がはじめてでした。
夕子はすっかり夢中になりますが、子猿が猿舞いをやって、舞台で跳ね踊りはじめた所から、気分が乗るあまり、自分が躍っているかのような錯覚に陥ります。
夕子はいつのまにか、猿になっていた。舞台の上にあがり、猿になって踊っていた。女の子猿らしく、ときにはちょいと腰をくねらせたりしながら、舞っていた。
ク子は狂言師にたちまじって舞台にいた。とんとんと足ぶみすると、足の裏に、気もちのいい木の感触がはねかえるのがたのしかった。
夕子が「猿の夢」を見た時に、ここにつながる布石は打たれていました。
このあたりの描写があまりにも巧みなので、読んでいる方もすーっと、見ている側から演じる側へ運ばれていきます。
舞い終ってひといきつき、観客席を見て、おどろいた。見物客のすべてが、頭にちょんまげをゆっているではないか。いったい、これはどうなっているのだろうか。夢だろうか。ほっぺたをつねりたかったが、舞台でそうはできなかった。とまどっているうちに、猿まわしのおじさんが、夕子をひょいと背にして、退場し始めた。背中に拍手をききながら、夕子はぬいぐるみの中で目をぱちくりさせているしかなかった……。
モンキー・マジックだ!
第一話にして、現代の小学生、夕子は、江戸時代の狂言師の世界に、あっという間に運ばれていきます。
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