大人が読む児童書「町かどのジム」 1 ねことベーコン(のベーコン)
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
デリーが物心ついてからというもの、ジムはいつでも街角のポストのそばに座っています。むかし船乗りだったジムは、デリーにいろんな場所の話をしてくれます…。1965年学研刊の名作をアーディゾーニの挿絵で。
ファージョンの作品はどれも 紹介するのが難しいです。
個人的に一番好きだったのはストーリー性ゆたかな「銀のシギ」だったのですが、「町かどのジム」も負けず劣らず好きでした。
ファージョンの作品に思い入れがありすぎることも事実なのですが、この作者の物語から流れ出てくる、美しいさわやかな空気は、どう言葉を尽くしても説明することができません。
しかし、そんな作品集の中で、「町かどのジム」は、おすすめポイントをはっきりと言うことができます。
ねことベーコンです。
◇
ジムは年取った船乗りです。
街角のポストのそばに置いてあるみかん箱にいつも座っているので、「町かどのジム」と呼ばれています。
子供が読んでいれば、あーそうなんだ、そういうおじいさんなのね、とすんなりと受け入れます。
ずっと街角に座っている。
一体どういうことなのだろう?と思っていましたが、大人になってみればこれがホームレスのおじいさんだったのだとわかります。
デリーは、ジムが、ひるまだけでなく、夜なかもずっとそこにいて、通りの番をしてくれているのだと思っていました。ジムさえかどにいてくれたら、通りへ出ても、うちの中にいるのとおなじようにあんしんでした。
ジムは、町のみんなに愛されています。
みんながジムに色々な物を分け与え、街によって生かされているという感じです。
デリーだけでなく、町の人々もこのジムをとても大事にしています。
ジムの帽子、ズボンはデリーのお父さんのものですし、手袋はデリーのお母さんが編んであげたものです。
デリーの家の隣の少佐は茶色のジャケット、上等のパイプをあげていますし、反対側の家の奥さんからはワイシャツをもらってます。
向かいの家にいる女中さんからは海のように青いハンカチをもらっています。
(「海のように青いハンカチ」すてきです…)
通りの人たちはみんなでジムを大切にして、ジムの面倒を見ています。
ジムは誰かが通るたびに挨拶をして、もらったものを嬉しそうに顔をほころばせて伝えます。
そんなわけで、ジムは、この通りにはなくてならぬ人でした。ここにすむ人みんなが、そう思っていました。だれでも、このかどをまがるときは、まるで、じぶんの一部が、ジムといっしょに、ミカンばこの上にすわっているような気がするのでした。
ファージョンの視点はいつもあたたかく、優しいです。
惨めさを描くよりも愛を描く作家です。
◇
ジムは船乗りなので様々な所に行ったことがあり、色んなことを知っています。
ジムが話しているのが本当のことだというのは、お天気を必ず言い当てることができるということからも明らかです。(子供の視点からすれば)
お天気を教えてくれるとき、ジムはそのたびに、「ケープホーンの沖合」だとか「ニューファンドランドで氷山にぶつかった」とかそういう話を交えてきてくれます。
冒険家に憧れる子供にはたまらない魅力です。
もくじをご紹介します。
デリーとジム
男の子のパイ
みどり色の子ネコ
ありあまり島
ペンギンのフリップ
九ばんめの波
月を見はる星
大海ヘビ
チンマパンジーとポリマロイ
ジムのたんじょう日
最初にご紹介するねことベーコンは
・男の子のパイ(ベーコン)
・みどり色の子ネコ(ねこ)
の二話になります。
このお話の一番最初の「男の子のパイ」のお話が、とにかく子供の頃の私の心を捉えて話しませんでした。
最高に好きでした。
何といってもベーコンです。
◇
「男の子のパイ」
このお話は、まだジムが子供で船乗りになる前の話です。
子供の頃のジムは豆畑を見張りをしていました。
豆ねらいの鳥たちが集まって来ると、ガラガラを鳴らして怒鳴ります。
とんでけ、とんでけ、悪党め、
さもなきゃ、パイにしてくっちまうぞ!
鳥の中に大きなカラスがいていくら脅してもなかなか逃げません。
それどころか馬鹿にしています。
近くに忍び寄っても決して逃げません。間一髪の所でからかうようにすり抜けます。
完全にナメられています。
いつか、とっつかまえてパイにして食ってやるぞ!
というのが、ジムとこの大がらすの攻防の毎日でした。
ジムはお弁当を食べ始めます。
出ました、これです。
そのべんとうっていうのが、わしのこうぶつでな、ぶあつい、ふたきれのパンのあいだに、ベーコンをはさんだものだった。ガブッとひと口やるには、口を大きくあけなくっちゃならない。が、そのとき、ベーコンのあじがジュウッと、したにしみて、なんともいえずうまかった。
この味のイメージに一番近いベーコンを売っていた肉屋さんが廃業してしまい、味を再現することができず困っています。
ちなみに絵によると、カスクルート系ではなくて、サンドイッチ系です。
そこはやはりイギリス。
あまりにも私がベーコンを食べたがるので母が困惑して、ベーコンというのはそんなに常に食べるものではないとたしなめられたぐらいでした。
(昭和時代の話です。高かったのかな?)
そしてベーコンを焼いて出してはくれるのですが、パンに挟みたいのだと主張すると、野菜やほうれん草などチーズを入れてくるのですが違うのです!
栄養はいいんです!
単純にベーコンだけ!を挟みたかった!です!
しかし大人になってみると、やはり栄養が気になって野菜をはさみ、チーズが美味しいのはわかっているのでチーズをはさみ…。
ままならない…。
お弁当を食べてからちょっと居眠りをするジム少年ですが、目が覚めていると畑の様子がおかしいです。
畑に揺れているのは、豆ではなくて薄く切ったパンとベーコンだったんです!
絵もちゃんとあるのですけど、つる植物にぶらぶらと豆のようにサンドイッチ的なものがぶら下がっています。
ジム、我慢できずに取って食べようとするのですが、これは間違いなく私も我慢できず取って食べると思います。
しかし、大男ほどもある大がらすが、あの「パイにして食っちまうぞ」の歌を歌いながら、ジムを追い払います。
つまり立場逆転。
ジムがどろぼうで追われる立場になってしまったわけです。
ベーコンの魅力が強烈すぎて、このどろぼうしてでも、何とかして食べたい気持ち…が、今までの私のベーコンに対する桁違いの情熱を読んでくださった方にはよく分かることと思います。
そりゃ食べたくなるわ!
あやうく男の子のパイにされる寸前で逃げ帰ってきた顛末はともかくとして、ジムは自分が鳥たちの立場になってみて、なぜこんなに追い払っても鳥たちがやってくるのか、よくわかりました。
食べたいのです!
畑の豆を食べさせるわけにはいきませんが、庭に鳥の餌やりの棚を作って行ったジム。
(私の偏執的ベーコンへの執着はともかく)最終的には、とてもやさしいお話です。
明日はこれまた大好きな、「ねことベーコン」のねこのお話をご紹介したいと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気だてはいいが食いしんぼうの粉屋の娘ドルが、小鬼のたくらみで王さまの妃になりました。妹のポルが銀のシギの助けを借りて、姉の危機を救います。素材は昔話の「トム・ティット・トット」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リンゴ畑のマーティン・ピピン
エリナー・ファージョン (著), リチャード・ケネディ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
恋人から引き離されてリンゴ畑の井戸屋形にとじこめられている少女ギリアンを,6人の娘たちが牢番として見張っています.陽気な旅の歌い手マーティン・ピピンは,美しく幻想的な6つの恋物語をくりひろげて娘たちの心を奪い,首尾よく牢屋のかぎを手に入れます.ファージョンが作家としての地位を確立した傑作
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファージョン作品集5巻。
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