大人が読む児童書「町かどのジム」 4 詩の心、世界の美しさ
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
デリーが物心ついてからというもの、ジムはいつでも街角のポストのそばに座っています。むかし船乗りだったジムは、デリーにいろんな場所の話をしてくれます…。1965年学研刊の名作をアーディゾーニの挿絵で。
大人が読む児童書「町かどのジム」 1 ねことベーコン(のベーコン)
大人が読む児童書「町かどのジム」 2 ねことベーコン(のねこ)
大人が読む児童書「町かどのジム」 3 リアルポパイ系ジムの挿し絵の衝撃
ベーコンとねこの終わった後は、どれをとっても素敵なお話なのですが、あまり紹介しすぎるのもアレなので、さらっと注目ポイント(独断と偏見で)をお話します。
もくじ:
デリーとジム
男の子のパイ
みどり色の子ネコ
ありあまり島
ペンギンのフリップ
九ばんめの波
月を見はる星
大海ヘビ
チンマパンジーとポリマロイ
ジムのたんじょう日
◇
「月を見はる星」
実際のお話の面白さよりも、個人的な執着や、この本にまつわる体験のようなものばかり書いてきてしまったような気がするので、本来の本の紹介に戻りたいと思います。
「月を見はる星」は、「町かどのジム」の中でも屈指の神秘的なお話です。
これは、ジムが海で体験したお話ではなくて、ジムが伝え聞いた昔話、という形式のお話です。
夜空を見上げたとき、月の横に、明るい星があるのを見たことはないでしょうか?
これを書くために検索しても、「月の横」と検索窓に入力しただけで、ずらずらと「月の横にある明るい星は何か」という履歴が出てきたので、みなさん「月の横に明るい星があるな」というのは共通認識なんだと思います。
天文学的には、どれと決まっているわけではなく、その時どきによって、火星であったり金星であったり、木星であったりするらしいです。
いま知りました。残念!
ファージョンはこれに素敵な物語をつけてくれています。
ファージョンの作品の特徴は、途中に入っている、詩の美しさです。
その美しい詩を、見事な日本語に訳されているのが石井桃子さんです。
ファージョンはほとんどが石井桃子さんの訳なのですけど、この「町かどのジム」を訳されたのは、松岡享子さんです。
こちらの訳も負けずおとらずすばらしく、うまく言えないですがが、クセがなく、日本語のリズムをとても大切にされています。
この「月を見はる星」の詩の訳が実にみごとです。
天に浮かぶ土星は邪悪で欲が深く、常に何か盗み取るものはないかと周囲を見張っていました。
美しいベルトに7つの月まで手にいれて、ある日土星は地球の月に目をとめます。
土星は流れ星に命じて、月をそそのかすような歌を歌わせます。
月よ、かがやく小道をとおって
天のおとうさま土星のところへおゆき
そうすれば、おまえは、
七人のおねえさんといっしょに、
くるくるまわりながら
光の輪をつくるでしょう。
夜になっても、ひとりぽっちじゃなく、
とうさま土星のまわりでおどる、
七人のおねえさんと声をあわせて、
うつくしい歌をうたったり、
銀色のもようをつくったりできるのですよ。
流れ星は燃え尽きてしまいますが、月は激しく心を揺り動かされます。
月が逃れようともがくので、「かあさん地球」は身震いをします。
月が離れれば、地球はばらばらになってしまう…。
地球はガリレオ・ガリレイに助けを求めます。
(なんだか、ガリレオが、「弘法大師の伝説になった空海」感ありますが…。偉人はいつでも、伝説化されちゃうものなのでしょうね)
ガリレオは流れ星の燃えかすを拾います。
そこには空文字であの詩がしっかりと刻まれていました。
ガリレオは、太陽に助けを求めます。
月が目を覚ますと、わずかに離れた位置はもとに戻っており、小さな星がそばに光っていました。
月は、わがままで無鉄砲な小娘のようなキャラです。(かわいいです)
小さな星に「とまれ!」と命令されて、
どーして止まらなくちゃいけないの?知ったこっちゃないし、七人のおねえさんたちと歌ったり踊ったりしたい!
「プリプリして言う」というところが、女の子っぽいです。
七人のおねえさまというのは、プレアデスの姉妹を思わせます。
身をよじって、去ろうとするたびに、地球は震えます。
「とまれ!」と叫ぶ、小さい星。
太陽に強い力を与えられているので、月もどうすることもできません。
(小さいのに強い強制力を持つこの星が、かっこよかったです)
危険な土星、わがままでかわいい月、流れ星に刻まれた詩、強い命令の力と、どれもとても魅力的なお話でした。
◇
「大海ヘビ」は、虹のねっこにある宝物について、あこがれをかきたてました。
そしてジムが心からやさしいです。本当に優しい人です…。
「誰も愛してくれない」すすり泣く大海ヘビを、こころゆくまで撫でてあげるのですが、だんだん疲れてきます。
でも撫で続けます。
皆が慕うのもわかります。そういうお話です。
(またしても余談ですが、例の英語版のゴリゴリにマッチョなジムは、どれだけ撫でても疲れ知らずでありそうな筋肉でした。でもフィリップさんはここのエピソードが好きだったらしく、詳細までカラフルに塗っていました。大海ヘビも迫力満点です...)
「チンマパンジーとポリマロイ」は、この中で一番笑えるお話です!
この「チンマパンジー」は誤植ではありません。
読んだことがある方なら、このチンマパンジーとグヮグヮグヮのキーワードで大笑いしてくれるはず...。
子どもの頃、バナナを食べるときはしばらく「グヮグヮグヮ」と言うのがクセになっていました。
◇
何か、挿し絵について色々言いましたが、英語版の本は、「ムギと王さま」からも何篇か抜粋して追加されています。
そちらの妖精やお嬢さまが出てくるお話の方は、とても綺麗でロマンチックな絵でした。(念のため)
子どもの本にとって、絵は大事だなと思いました。
今にして思えば、この三芳悌吉さんの絵のバージョンの「町かどのジム」はたいへん貴重だと思いました。
この三芳悌吉さんの挿絵バージョンの本、奇跡的にカバーが残っていました。
あんな子どもの頃から、あれほど読み返したのに...。
大事にしていたのと、それとやはり、カバーといえども、装丁がかなりしっかりしているのです。
このカバーに、当時の書評が載っています。
朝日新聞評:八才のデリー少年に、八十才の船乗りあがりのジム老人が物語る一連のホラ話を中心に、その語られる町かどのふんいきや、少年と老人のあたたかい心のふれあいが、いきいきと描かれている。
東京新聞評:現実と夢が巧みに組みあわされ、物語の奇抜さ、夢の大きな中に、あたたかい愛情が流れていいる。こどもの愛を育てることは創造の力を育てることに通じるが、幼児からおとなまで楽しめる。
朝日新聞ひどいです。ほら話なんてやめたげて~。
夢が壊れます。
わたし「大人ってこういう無神経な単語で夢を壊していくんだよね...。ほら話なんて。ホームレスだって本当はそんな書き方したくなかったわ!」
妹子「自分で書いておいて何言ってんの!?」
東京新聞はばっちりな書評です。
まさに、言いたいことをこの短い文章の中に組み込んで、完璧に表現しています。
◇
ファージョンの作品は、世界のすべては美しい、と思えるのが特徴です。
美しさというのは、なかなか感想を表現できません。難しいです。
言葉にできないような、静けさ、あたたかさ、美しさ、ほのかなあこがれ、言葉に出来ないもの…。
「ヒナギク野のマーティン・ピピン」の冒頭に飾られている詩を一度ご紹介しましたが、このような世界です。
そういった、美しい文章、情景、また心に彩られながら聞く物語です。
ぜひ、読んでみていただきたいと思います😊
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気だてはいいが食いしんぼうの粉屋の娘ドルが、小鬼のたくらみで王さまの妃になりました。妹のポルが銀のシギの助けを借りて、姉の危機を救います。素材は昔話の「トム・ティット・トット」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リンゴ畑のマーティン・ピピン
エリナー・ファージョン (著), リチャード・ケネディ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
恋人から引き離されてリンゴ畑の井戸屋形にとじこめられている少女ギリアンを,6人の娘たちが牢番として見張っています.陽気な旅の歌い手マーティン・ピピンは,美しく幻想的な6つの恋物語をくりひろげて娘たちの心を奪い,首尾よく牢屋のかぎを手に入れます.ファージョンが作家としての地位を確立した傑作
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファージョン作品集5巻。
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