~珠玉の児童書~

~珠玉の児童書の世界~

学校で塾で、読解力を身に付けるには本を読め、と言われる。ではいったい、どの本を読めばいいのか?日本が、世界が誇る珠玉の児童書の数々をご紹介。

今日の一冊「マヤの一生」

今日、ご紹介するのは児童書です。

 

>力をこめた紹介記事☆超絶☆名作

>今日の一冊 軽くご紹介

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

今日の一冊

 

マヤの一生 (子ども図書館) 単行本 - 2010/2/1 椋 鳩十 (著)

ニワトリやネコと一緒に飼っていた愛犬マヤの思い出を語りながら、残酷な死に追いやった戦争への悲しみを感じさせる作品。

 

 

妹子が、「これ読んだことない」と言って、もってきました。

うっ…!

 

「マヤの一生」
トラウマ級の一冊です。

 

私の微妙な反応を見て、妹子が「怖いの?怖い?」と聞いてきます。

 

妹子はホラーや戦争ものなどがとても苦手で、「クラバート」も怖い怖いと言ってなかなか読んでくれませんでした。

 

わたし「いや、怖く……はない」
妹子「やめとく!」
わたし「いや読んで。ぜひ読んで。名作だから。それ、『大造じいさんとがん』の人だよ」
妹子「読む読む!」

 

『大造じいさんとがん』、妹子は本当に好きです。

 

一応、「でもそれ、悲しいから」と言っておきました。

 

妹子、目が腫れるほど泣いてしまいました。

ああ、やっぱりね…。
翌日起きてきて「頭が痛い」というぐらいなので、やっぱりトラウマです。

 

 

わたしもトラウマなので何となく避けつつも、こうして手に取るのは二十年ぶりぐらいかもしれませんが、内容ははっきりと覚えています。

 

おだやかに、淡々とお話は進みます。
椋鳩十さんは、シートンに匹敵するほどの動物の描き手と思っているのですが、翻訳されてはいないようです。

誰か今からでもいいから、してくれませんかね!?
海外でもぜったいいけると思うんですけど!!

 

一家が飼っている、犬のマヤ、マヤを中心として、ネコのペル、ニワトリピピ、三人の子どもたちの日常がのどかに、写実的に描かれます。

動物たちの動きが、はっきりと目に見えるようです。

椋鳩十さんの描く動物たちは、愛らしいとか、可愛いとかよりも、動物そのものが目の前に生きているかのようです。

 

 

マヤは熊野犬です。

「熊野犬」の検索結果 - Yahoo!検索(画像)

改めてこうして検索してみると、ずいぶんしっかりした顔立ちの、典型的な日本犬です。

 

後半、悲劇的な結末になりますが、あまりにも強烈なために、そればかりで語られがちです。

しかし、戦争中のお話後半は全体の5分の2ぐらいで、5分の3ほどは、占める、犬とネコとニワトリ、そして子どもたちの混じり合って仲良く遊ぶ日常に占められています。

 

この日常があまりにも幸せで、のどかで美しいからこそ、後半5分の2が生きてくるのです。

 

あとがきは、鳥越信さんと神宮輝夫さんが書かれていました。

鳥越信さんのあとがきでも、描写に筆が割かれていました。

 

<ペルは、マヤの鼻声や鳴き声で、目をさまします。それから、背中を、くーと、まるめて、大きなのびをします。つぎに、ぱちんと、目をあけて、マヤの飛びまわるのを、じっと、みつめます。ネコという動物は、動きまわるものに、興味をもつのです。うまうまと、マヤのわなにかかって、のそのそと、マヤのほうに近づいていきます。マヤは、ベルの近づくのを、横目で、みながら、はねまわっていますが、不意に、ペルにむかって、とびかかっていくのです。ペルは、前あしをあげて、シャアーと、しゃがれ声をたてて、マヤを、ひっかこうとします。けれど、マヤは、たくみに、体をかわして、横っ飛びに、飛びます。それから、すきを、うかがって、また、とびかかるのです。>

この描写で気づくことは、背中をまるめる、のびをする、目をあける、前あしをあげる、しゃがれ声をあげる、というふうに、細かい部分にわたって具体的な姿が描かれていることです。

 

この動物たちとの幸せな生活も、次第に戦争の影が覆い尽くしていきますが、このことについても、鳥越信さんはこんな風にあとがきで書かれています。

 

マヤを中心とする動物たちやその他の素材は、決して「戦争」を語るための単なる小道具、手段として使われているわけではありません。両者の関係は全く密接不可分であって、わかちがたい必然性をもって存在しています。

 

 

児童書は本当に、絵空事と夢物語を描いているでしょうか。

先日読了した「ヤマネコ号の冒険」でも、児童労働の中で、保護されずに育ち、暴力を受けている子どものすがたが出てきます。

さらっと出て来るので、何となくそんなものなのかと思いながら受け入れますが、おとなになってから気付きます。

それが、たしかに今も昔も存在する、過酷な現実の姿そのままであったことを。

 

名作は、たとえ魔法の世界が題材であっても、うそのない、なまのままの現実がしっかりと映し出されています。

 

 

マヤを死に追いやった人々も、みな悪い人ではなかったこと、非常時には人は変わってしまうということを、椋鳩十さんは淡々と、きちんと描いています。

このコロナ騒ぎの中では、知っている人たちも人が変わったようになってしまうことは、よくわかります。

 

マヤと次男の絆は強く心を打ちます。

マヤはさびしがりやの甘えん坊。次男は泣きむしで動物好き。

戦争が憎いだとか、戦争はダメだとか、そのような感じではなくて、悲劇の結末も戦争の影響も、すべて超えるほど、絆と愛情の方がつよく、そのあたたかい心が本全体を包んでいるかのようです。

 

椋鳩十さんの筆は、憎しみに曇らされていないのです。

だからこそ、この淡々とした語り口がこれほど心を打つのだと思います。

 

 

 

 

www.dainippon-tosho.co.jp

マヤの一生|大日本図書

 

この本は、1970年発行なのですけど、大日本図書の「子ども図書館」というシリーズの中の一冊です。

 

あとがきのさらにあとに、刊行にあたってのことばが載っていましたので、ご紹介しておきます。

 

「子ども図書館」刊行にあたって

目まぐるしく、変化のはげしい今日の時代には、すぐれた作家たちが子どもたちのために心血をそそいで書いた作品も、時の流れの中にうずもれてしまったり、子どもたちの目にふれにくくなったりしています。わたしたちは、そのようなりっぱな作品を一つ一つたいせつに掘り起こし、いつまでも子どもたちの心の中に、生きつづけるようにしたいと願って、この「子ども図書館」を企画しました。

したがって、「子ども図書館」には、歴史の中で、不滅の生命をもちつづける作品をひろく内外から精選し、今日の児童文学が志向するところに沿った、現代作家による新しい創作を選び、厳密な校訂と、原作のかおりをそのまま伝える訳出で、テキストとしての信頼性を高め、一流のさし絵を配し、じょうぶな造本に心をくばり、なるべく廉価に提供するよう心をつくしました。

「子ども図書館」の一冊一冊が、文字通りの文化遺産として、子どもたちに長く愛され、親しまれることを願ってやみません。

   編集委員
     鳥越信
     神宮輝夫

 

 

 

 

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大造じいさんとガン
椋 鳩十 (著), 武部 本一郎 (イラスト)

老狩人と誇り高いガンとの心あたたまる交流を描いた表題作のほか「熊野犬」など、野生の動物たちを生き生きと描いた珠玉の13編。

 

 

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