大人が読む児童書「水の子」 3 「報いのおばさん」という妖精
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
煙突そうじの少年トムは,仕事中お屋敷のおじょうさんの部屋に入ってしまい,どろぼうとまちがわれてにげるうちに,川に落ちて「水の子」となります.ファンタジーの古典
これまでのレビュー
大人が読む児童書「水の子」 1 レビューするのが難しすぎる。
大人が読む児童書「水の子」 2 そもそも論。水の子とは何ぞ?
「水の子」の構成は、こんな風になっています。
1.煙突そうじのトム少年の不遇な一日パート。
2.美少女エリさんとの出会い(一瞬)と水の子になるまで
3.水の子とはどういうものか。水の子になったトムのゆかいな生活
4.水の子コミュニティー・報いのおばさんと親切のおばさん・エリさんと再会
5.助けたくもない親方を助ける贖罪の旅。
6.親方グライムズと再会
4で大きくお話が動くまで、何となく淡々と日常を描くようにお話は進みます。
冒険パートはほぼ、5・6の終盤で、めちゃくちゃ面白いですが、とにかくこのお話は、あきれるほど語彙が多い作品です。
川でゆかいに遊んでいたトムは、だんだん海の方へ流れていきます。
あの、トムが逃げ出すハメになった原因の一つでもあるエリさんは、波打ち際でトムを見かけているうちに、事故に遭ってしまうのですが、このあたりがすごい単語・単語・単語の嵐です。
妹子、ここでつまづいてしまいました。
ひっかかった単語
うめばちも。セツブンソウ。ルリヂサ。乳酪。ホップ。りゅうぜんこう。じゃ香。こうやく。阿片。妙薬。蒸留。スカンポ。かしのき。ウワバミ。
何か怪しげなものも入っています。
わたし「煙に巻くためにやってんだから真面目に読みすぎないで~~」
妹子「うめばちも…?うめばちもって何?」
(バイカモという水草の一種のようです)
この、語彙力の暴力みたいな凄まじい単語の雨は、カレル・チャペックの「長い長いお医者さんの話」に似ています。
次から次へとまくしたてる感じが、とても面白いのです。
◇
川から海へわたり、トムはあるイセエビを、つぼから出してやる手助けをしました。
いいことをしたのです。
すると、目の前に新しい世界が開けました。
突然、周囲にたくさん、同じような水の精、水の子たちがいるのに気が付くようになったのです。
これは、何となく、段階を踏みながら一種の成長の階段を上がっているように読めます。
子ども版ダンテの神曲っぽいイメージもあります。
堅苦しい所なんて一つもありませんが。
◇
トムはこうして、ちいさな「親切=よいこと」をして、水の子コミュニティに仲間入りすることが出来るようになりました。
いたずらっ子の気質は抜けないので、色々とやらかしまくるわけですが、そこについにやってきます。
報いのおばさん。
(Mrs. Bedonebyasyoudid)。
です!
ビーダンバイアズユーディド。
Be done by as you did.
示唆に富んだ名前です。
不思議な存在です。そしてとても魅力的です。
この後に親切のおばさんという、マリアさまそのものの美しく優しい妖精もやってきますが、トムはいたずらっ子なので、醜くて報いをつかさどる怖いおばさんの方に主にお世話になります。
悪さをしたものに報いを与えるので、それは怖く恐ろしい妖精なのですが、不思議なことに、醜さや厳格さにも関わらず、トムは報いのおばさんが大好きです。
そしてわたしもこの報いのおばさんが大好きでした。
もしかすると、人はみんな報いのおばさんの方に馴染み深いのかもしれません。
◇
怖いおばさんです。
トムがやったいたずらは、誰も何も告げ口をしなくとも、報いのおばさんにはちゃんとわかっています。
「だってそんなに悪いことだとは思わなかったのです。」とトムはいった。
「しかし、今になれば悪かったということがわかっただろうね。よく人はおまえと同じ言いわけをします。するとわたしは教えてやります。 もしあなたが、火は燃えるものだということを知らないでいても、やっぱり火に近づけばあなたはやけどします。不潔なところには悪い病気がはやるということを知らないでも、やっぱり不潔にしておけば悪い病気に殺されてしまいます。」
そして、トムのいたずらを叱るだけではなくて、世の中のあらゆる人々の悪事に対して、たくさんの報いを与えるのですが、これは子どもにひどいことをした者が対象です。
残念ながら、収賄をしたり、規定を超える盛り土をしたりというものは含まれません。
・子どもにむやみに薬を飲ませた医者
・自分の子どもの腰や足を小さくしようとしたばかな貴婦人たち
・不注意な子守り女たち
・残酷な学校の先生たち
これらがやり返されるのを見る(読む)のは、正直、すごく楽しいです。
おもに報いのおばさんが与える罰は、そのまんま本人たちが子どもを苦しめたことを自分にされるというものなのですが(ケストナーにも確かあったな…「四月三十五日」だったかな)
特に、いやな感じの学校の先生というのは、本当にいやなものなのです!
しかし、報いのおばさんはすっかり疲れてしまいます。
そんなこと、本当はしたくはないのだけれど、仕事なので仕方ない、と言います。
「でも、ぼくをいじめたじゃありませんか ちょっとだけど。」
「いいえ、わたしはおまえの一等いいお友だちなのだよ。だかね、いっておくがね、悪いことをした人はしかられなければならないのだよ。わたしだってそんなことするのはうれしくないけれども、ほんとにかわいそうでかわいそうで、しかたがないと思う時さえあるけれども」
悪いことをした人はしかられなければならない
これが決して、法律の問題や因果応報だからなどではなくて、叱るという行為が実はとても大切な行為なのだということを、いま、おとなになったので知っています。
悪いことをした人は誰かに叱ってほしいと思っている人にとって、報いのおばさんはわが身の良心のあらわれであろうかと思います。
叱られる、反省するという行為が、自分を大切にすることにつながるのだということ。
子どものときは割と当たり前であったのですが、むしろ今の方がしみじみとその大切さが身に染みるように思います。
◇
この報いのおばさん、また優しく美しい親切のおばさんは、可愛がってくれるし、たくさんのおいしいお菓子をくれます。
海のお菓子、海のリンゴ、海のオレンジ、海の砂糖玉、海のタフィー、海の牛乳で作った、しかも水の中でも溶けないというアイスクリーム
…などなど、です。
このおいしいお菓子を前に、トムはやらかしてしまいます。
さてトムは、こんなによい身分になって、何でもほしいものはもらえるのだから、ほんとにりっばな行儀になれそうなものだった。ところが、実際はそうではなかった。幸せな身になるというのはいいことだが、幸せな人はきっとよい人になれるというわけではない。時とすると、あまり幸せだと、かえって行儀が悪くなるものだ。
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チェコの文豪カレル・チャペックの楽しい童話集。しんせつな町のお医者さんたちや、はたらき者の郵便屋さんが活躍するしゃれたおとぎ話9編を、兄ヨセフのゆかいな挿し絵が飾ります。
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アイリーンひめはひみつの部屋で自分と同じ名の若く美しいひいひいおばあちゃまと出会います。その日からゴブリンにねらわれたり、鉱山の少年と冒険したりと危険な毎日。やがて屋敷にせめこまれ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふんわり王女
ジョージ・マクドナルド (著), D.P.ラスロップ (イラスト),
本庄 久子 (イラスト), 蘿原 富美枝 (翻訳)
「水の子」原文は、フリーで公開されています。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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