大人が読む児童書「水の子」 5 現代にも通じる痛烈な風刺と、「水のいぬ」
今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
これまでのレビュー
大人が読む児童書「水の子」 1 レビューするのが難しすぎる。
大人が読む児童書「水の子」 2 そもそも論。水の子とは何ぞ?
大人が読む児童書「水の子」 3 「報いのおばさん」という妖精
長いお話なので、もう一度おさらいしてみます。
・トムは、グライムズ親方のもとでの放埓な煙突そうじの小僧としての生活から、エリさんという別世界の存在とも思えるほど自分と違う少女と出会いました。
・そこで、トムの心を打ったのは、
「自分は大切にされた子どもではない」
ということでした。
・トムは冤罪によって群衆から追いかけられまくって川におち、水の子として生まれ変わりました。
・「水の子」となったトムは、児童労働をするわけでもなく、虐待されるでもない、自由でのびのびとした「子どもらしい生活」を送ります。
・自由な生活から、報いのおばさん、親切のおばさんという、母性の二面にあたたかく抱きとめられ、悪いことをしたら叱られる、さまざまなことを学びます。
・もう一歩成長するためには「したくないが、しなければならないこと」をする必要がある。
かつてのトムにとっては避けがたい運命であり、圧倒的な力を持っていたグライムズ親方と向き合わねばならないのだ、ということを悟ります。
・グライムズ親方を探す旅の途中で、トムはさまざまなものを目にすることになります。
☝イマココ
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さてこのお話は、348Pあります。
初期のトムが逃れようがなかった「グライムズ親方」という存在。
搾取され、虐待されていた相手です。
でも、当時のトムは、それが当たり前の生活であって、ひどいことなのだということも知りませんでした。
やっと逃げ出せた相手を今となってあえて探す。
それは、トムが成長して、親方にも面と向かうことが出来るようになったからなのだろう、と思います。
この核心に向かって、旅をしていくトム。
ついにグライムズにたどり着き、クライマックスから感動のラストシーンを迎えるまでの流れは、残り20Pに集約されています。
348Pあって、トムが旅に出るのが237Pですから、
(いったい何を計算しているのか…)
残り111ページあるわけです。
その111ページの中の、91ページが、旅です。
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旅のおともをする、水の犬というのが出てきます。
かわいいです!
いかにもタイタニックっぽい感じの難破船から、飼い犬が海に落ちて、水の犬になったのです。
(このお話が書かれたのは、タイタニックよりもずっと昔なので、ここで難破しているのは帆船です)
トムと水の犬が旅する間に見るさまざまな事物や事件。
こうして改めて読んでいると
「本当のことしか書いていないな」
と思います。
たくさんの、社会への風刺を含んでいます。
・カンムリガラスの娘ガラスが、理不尽なおきてによって、みんなの真ん中に立たされて、つつき殺されてしまうというお話があります。
あれ?どこかで聞いたような…。
・うわさの国(笑)
いやだ行きたくない(笑)
・小さな国の小さな世界の本しか読まない国
「本を読んでは、自分が大統領のようにもまけないくらい偉くなったと思っているのだった」
まあ、皮肉!
(トムがこの本よりもいいなと思ったのは「ジャックと豆の木」「美女と野獣」でした)
・「世界連合の人間会議」というものの中のたちのよくない党に所属していた人たちの国。
な……なんですとー!
自分のことをたなにあげて、他人のおせっかいをする。(略)朝から晩まで口をまげては、世の中が気に食わないといってはぶつぶついっていた。
これは、本当に1862年の本なんでしょうか。
怖い。
キングスレー先生の毒舌、留まるところ知らずです。
1862~63年の歴史をWikipediaさまに教えてもらったら、この頃は生麦事件が起きたり、リンカーンが黒人解放宣言をしたりしていました。
大きく時代が動いているときだったんですね。
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やっぱり、一番強烈なのは、勉強の国のカブたちのお話です。
これ、自分が子供のときも好きな箇所でしたし、妹子も気に入りました。
キングスレーの、子どもたちに対する考えの一端が見えるようです。
子どもというものは、花を摘んだり、どろ遊びしたり、鳥の巣をつついたり、スグリの木のまわりでダンスしたりしていればいいのです。それを、この国の親たちは、学問をさせるばかりです。勉強、勉強、勉強。ふだんの日にはふだんの日の課業、日曜には日曜の課業。土曜ごとに試験。毎月試験。その上一年一年で試験――それも一度では足りないとでもいうのか、一つの課目を七度試験する。まるでお祭騒ぎです。とうとう頭ばかり大きくなって、体は小さくなって、カブラになってしまったのですよ。中身はほとんど水ばかり。まだその上に親たちといったら、ちょっとでも青い葉が生えるともぎ取ってしまう。子どもたちが生き生きしてはいけないと思ってるんでしょうよ。
詰め込み教育がゆきすぎて、無茶をして死んでしまったカブの子を、聖者だ!殉教者だ!と喜ぶ親カブラ…。
キングスレー先生は自分が牧師なのに、迷信や狂信については非常に厳しいです。
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次第に近づいてくる、グライムズという核心。
トムがやっと逃れられた最初の運命に、勇気をもって近付くごとに、海の中のファンタジーの世界から、よりいっそう現実世界に近付いているようです。
摩訶不思議な旅をしているようでありながら、もしかするとこれは、読み手の精神の旅であったのかもしれない、と思い始めました。
心の旅……?
何となく、星の王子さまっぽくもあり、また、ダンテの神曲のようでもあります。
もしかすると、トムもエリさんも死んだのだろうか?と思っていたのも、これは、「精神の死」のようなものを暗示していたのだろうか?
妹子「ここはもう読み飛ばそう」
わたし「それでいいよ(助かった)」
妹子「ラピュタが出てきた!」
わたし「ガリバー旅行記だ!ジブリのラピュタもガリバーからとってるんだよ」
妹子「ええー!!!うそぉー!!」
ガリバー旅行記の影響すごい。
もしかすると、作者キングスレーは、ガリバー旅行記の子ども版のようなものが書きたかったのかもしれません。
「水の子」原文は、フリーで公開されています。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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砂漠のまっただ中に不時着した飛行士の前に現れた不思議な金髪の少年。少年の話から、彼の存在の神秘が次第に明らかに……生きる意味を問いかける永遠の名作、斬新な新訳で登場。
新訳の星の王子さまです。
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18世紀前半のアイルランドの作家ジョナサン・スウィフトの風刺小説で、昭和初期~戦後期の抒情作家・詩人である原民喜の唯一の翻訳作品。奇妙奇天烈な国への旅行記を装った当時の社会への痛烈な風刺である。
さすがは人気のガリバー旅行記。
大人向けも、子ども向けも、ものすごくたくさんの訳がありました。
しかし、このkindle版のよいところは、何と0円!
少々の訳の古さは多めにみようというものです。
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大の冒険好きのガリバーが乗った船が、大嵐にあいました。ある島で目覚めたガリバーはびっくり! 12分の1くらいの人間が、まわりにぞろぞろ。「こびとの国」での冒険はいかに! オールカラーイラストでさくさく読める世界名作シリーズ、第4弾
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1726年に書かれて以来,世界中の大人と子どもに愛読されてきた名作.船医のガリヴァーが航海に出て見聞したふしぎな国々「小人国」「大人国」での奇想天外な事件を語る.〔解説 海保眞夫〕
色々ありますが、これはちょっとはずせない!
なぜなら、中野好夫さんが訳されているからです。
さすがは岩波少年文庫です。
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子供のころ誰しも一度はあの大人国・小人国の物語に胸を躍らせたにちがいない.だが,おとなの目で原作を読むとき,そこにはおのずと別の世界が現出する.他をえぐり自らをえぐるスウィフト(一六六七―一七四五)の筆鋒は,ほとんど諷刺の枠をつき破り,ついには人間そのものに対する戦慄すべき呪詛へと行きつかずには止まない.
これは、大人向けの本の方ですね。
風刺が本当にえぐいので、どんどんテンションが低くなっていき、 「馬の国」から帰るときには、もう人間世界では気持ち悪くて暮らせないぐらいになってたりします。
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異界の国々をめぐる奇想天外な冒険旅行記 「もうだめだ、つぎの1歩でふみつぶされてしまう。」小人国の怪物も、大人国に行けば、こんなありさま 冒険、正義、愛情、涙と笑い――世界の名作にドキドキ、ワクワク
これは子ども版です!
でもやっぱり、子ども版とはいっても、大筋の風刺の部分は残っているものです。
そこがないと面白くないんですよね。
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ちょっとホラふきのメールボーイ・ガリバーに、トラベルライターの仕事が舞い込んだ。いざ、バミューダ・トライアングルへ! 大嵐に巻き込まれ流れ着いたのは、小人たちの国。抱腹絶倒の現代版ガリバーの冒険!
kindleで出ているものも多いです。
今すぐ読もうと思えば読める、電車の中で静かにさせようとするときにも、YouTubeよりもkindle児童書の方が、こう……何か、教育的によさそうですよ!(宣伝)
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ガリヴァー旅行記 (福音館古典童話シリーズ 26)
ジョナサン スウィフト (著), C.E.ブロック (イラスト), 坂井 晴彦 (翻訳)
人間の背丈が15センチほどの小人国。一方、20メートルを越える巨人の国。ガリヴァーの数奇な運命が繰り広げる数々の冒険を、約100枚の原書のさし絵を完全復刻しておとどけします。
岩波にするか、福音館にするかは、非常に悩むところです。
うーーーん。どっちも読みたい。
こういうときこそ、図書館の出番です。
岩波さんは最近、積極的にkindle展開しているので、ハードカバーの本で福音館、kindleで岩波という手もありそうです。
(どっちも欲しいな・・・という、夢を語っています。)
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ねている間に手足と体をしばられ、台車にのせられて小人国の都につれてこられたガリバー……。小山のような人間に、都は大さわぎ!左足を鎖でつながれたガリバーは、小さな皇帝と会いますが……。小人国、大人国、飛ぶ島、馬の国をめぐる、ガリバーの楽しい冒険をえがいたイギリスの風刺文学の傑作。
もう絶版になってしまったのでしょうか?
古本で49円で売られていました。
しかし、評価で「子供むけかなあ…?」と書かれているところをみると、かなり忠実にきちんと訳されているのではないでしょうか。
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1969年に刊行された幻の共作を、安野氏が絵を全面描きなおして現代に復刊。子どもから大人まで楽しめるユーモアあふれる絵本です
絵本なので、子どもたちへのとっかかりはここからではないかと思います。
読み聞かせにもむいています。
安野 光雅さんの絵がとても素敵で、文章は井上ひさしさんという、あるいみすごく豪華な絵本です。
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一三〇〇年春、人生の道の半ば、三十五歳のダンテは古代ローマの大詩人ウェルギリウスの導きをえて、生き身のまま地獄・煉獄・天国をめぐる旅に出る。地獄の門をくぐり、永劫の呵責をうける亡者たちと出会いながら二人は地獄の谷を降りて行く。最高の名訳で贈る、世界文学の最高傑作。第一部地獄篇。
これはおとな版です。
さすがにこれを子どもに読ませるのはきついです。
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チェコの文豪カレル・チャペックの楽しい童話集。しんせつな町のお医者さんたちや、はたらき者の郵便屋さんが活躍するしゃれたおとぎ話9編を、兄ヨセフのゆかいな挿し絵が飾ります。
中野好夫さんのすばらしい訳が光る本です。
チャペックのお話がまた、とても面白いです。
これも語彙の豊富な一冊です。
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ディクソン版のアラビアン・ナイトを、中野好夫さんが訳されています。
読めばわかりますけど、そこかしこで「ええっ?ええええっ!?」がてんこもりで、夢中になれること請け合いです。
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【e-hon】 ─ ネットで予約、本屋さんで受け取れる e-hon サービスで本屋さんを応援しよう📚️
子どもの本だな【広告】
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