大人が読む児童書「チム・ラビットのぼうけん」 3 読了 その詩情あふれる美しさと、子どもに対する真摯さ
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
子うさぎのチムの成長を温かくとらえた珠玉の童話を、名訳と流麗なさし絵でおくる。
一話のつかみ。
二話のビックリ。
だいたいにおいて、子どもたちは気に入ったり気になった所はヘビロテで何度も何度もな~~んども読むものですが、早く続きを読めよ!と思ってもここはぐっとガマンです。
そうしているうちに、次第に飽きはしないけれど慣れてきたころに、
「じゃあ、次は何が起きるのかな…」
と自分でページをめくってくれたらしめたものです。
「続きを読んで読んで読んで~~!!」となるのも嬉しいですが、そこで
「あー眠い(=_=)。あー疲れた。大丈夫、読める読める。自分で読んでみな。おやすみ…」
というのもアリなんじゃないでしょうか。
◇
全部紹介するわけにはいかないので、「おっ」と思った箇所をピックアップしてみます。
第三話。「チム・ラビットとうん」
はるの きれいな日でした。そこらじゅうが、みどりと 金いろに ひかっていました。チムはうちのまえにすわって、うっとり そとをながめていました。
くさの 上には、つゆが いっぱい やどっていました。そして、つゆの ひとつぶ ひとつぶに、にじが みえました。チムは、そのふしぎないろのかけらを、おかあさんに もっていってあげよう とおもいました。でも、チムがさわると、にじは すぐくずれてしまいました。にじは、おさかなやかたつむりのように つかまえることはできないものなのですね。
おおおお。
美しい。美し過ぎて尊いッ!
拝みたくなるような美しい詩情にあふれた文章です。
しかしこの話、こんな美しい冒頭からはじまりながら、とんでもなくハラハラする展開になります。
カッコウが運をよくするという方法を教えてくれたので、チムは自分のお小遣いのお金(石井桃子さんは、十円だま、と訳されています)をひっくり返しておくのですが…。
おカネのネタで悲しいことは、つらい!
切実につらい!
◇
第四話。「チム・ラビットとかかし」
やさしいお話です。
このお話を読んでから、かかしが大好きになりました。
(田舎道のかかしは脅かす意味もあって気持ち悪い外見であることが多いのですが)
視点を変えてみると、経験を積んだ年配者である、頑固者のおじいさん…と子どもの交流であるようにも見えます。
かかしとチム、二人(?)の孤独がふと触れ合います。
◇
第五話。「チム・ラビットのいえのがらすまど」
このあたりで、我慢できずに、これを書いている暇も惜しく、どんどん先を読んでしまいました。
どれもあまりにも可愛くて、そしてイヤなやつらはムカつくのですが、すべてに対して、ふんわりとした愛情がかかっている感じです。
アリソン・アトリーは、可愛いもののツボを知っています。
それは、陽の光にさらされた、真っ白な赤ちゃんぐつだとか、雨の日に見るきのこと、傘の符合だとか、ふわふわのもうふだとか、そういったものたちです。
◇
多種多様な動物たちがどんどん出てきます。
カササギはいやなやつらです!
がちゃがちゃとおしゃべりをした挙句に、人のものを取って行ったり、からかったりします。
ハリネズミのおじいさんは、お人好しな感じ。
キツネはとても礼儀正しい紳士っぽいですけど、どう考えても油断できません。実にうさん臭いです。
優しい雰囲気と美しい自然に包まれているようでありながら、この世界、危険がいっぱいです。
決して気を抜いてはならない感じがします。
一話目にして、いぬに会ったエピソードが、そのときに逃げていなければもう命はなかった、と示唆されているように、きつねも危ないですし、人間も危ないです。
なかよくいぬとあそびました♡
という展開にはならないのです。
どこかできちんと、ここはダメ、という線引きがなされているような感じがあります。
◇
あとがきで、石井桃子さんがアリソン・アトリーの生い立ちについて書かれ、そしてこんな風に付け加えられています。
家にもどれば、古風な農家のしきたり、毎日のいそがしい仕事、古くから伝えられた昔話、伝説、歌が、かの女をとりかこみます。
小さな娘は、詩人の心をもって、敏感に、真剣に、こうした毎日の生活の喜びや悲しみ、自然界の神秘や、楽しさやむごさをうけとめました。そして、おとなになってから、おとなの手腕をもって、また、幼い心の世界にもどり、その喜びや悲しみをお話にしました。
アトリーのお話には、センチメンタリズムや、子どもへのこびはありません。また、かの女が幼いころに親しんだ昔話や歌から、深く学んだということが、かの女のお話を、おとなのひとりよがりから救う、大きな力になっていると思います。
わたしたちおとなが子供に対して向き合うとき、このような「おとなのひとりよがり」に陥っていないかどうかは、強く意識する必要があるかと思います。
いつまでも心に残っている児童書を読み返すとき、「子供なんだからこの程度」という侮りが一切ないことに驚かされる時があります。
そして翻訳の美しさ、たくみさは、石井桃子さんならではの日本の子どもたちへの貴重な贈り物です。
よい本を、これはよいものだ!と伝えていかなければならないなと思います。
◇
第八話。「なぞなぞ かけた」
これだけ、少し他のと雰囲気が違います。
題名に「チム・ラビット」と入っていませんし。
なぞとはこうです。
かべは ま白い だいりせき。
そのうちがわに きぬのかーてん。
すいしょうのような いずみの中に、
金のりんごがなっている。
このおしろには いりぐちがない。
それでも、どろぼうは しのびこみ
金のりんごを とっていく。
うさぎ学校の先生が出した問題なのですが、このなぞを解いたときにもらえるおみやげがまた素敵なのです。
ぜひ、図書館などでこの本を借りてみて、確認してもらいたいなと思います。
◇
読み返してみて、あまりにもいい本だったので、かえってうまく紹介できていないような気がします。
機会があればもう一度リベンジです。
芸術品のような一作です。
チム・ラビット二冊に続き、こぶたのサム・ピッグシリーズというのもあります。
神宮輝夫さんの訳でこれまた大好きだったのですが、一時期はまったくの絶版になっていました。
2012年に「おめでたこぶた」として新訳で復活!シリーズとして3冊、発売されているのを発見しました!
いつまでも古びないユーモアにあふれた物語なので、ぜひプレゼントに使って欲しいと思います。
チムもサムも、いたずらな男の子の物語なので、男子にもぜんぜんOKです👍👍👍
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グレイ・ラビットのおはなし
アリソン・アトリー (著), フェイス・ジェイクス (イラスト),
石井 桃子 (翻訳), 中川 李枝子 (翻訳)
森の一軒家で,働きもののグレイ・ラビットは,うぬぼれやの野うさぎヘアと,いばりやのリス・スキレルといっしょに仲よく暮しています.牛乳屋のハリネズミ一家,物知りのフクロウ,恐ろしいキツネやイタチなど,森の仲間たちが活躍する有名なシリーズから,未紹介の最初の4話を選び,心をこめた決定訳で贈ります。
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病気療養のため、母方の古い農場にやってきたペネロピーは、ふとしたことから16世紀の荘園に迷い込む。王位継承権をめぐる歴史上の大事件にまきこまれた少女の、時をこえた冒険。中学以上。(「BOOK」データベースより)
丘の上の農場に住むスーザンが,家畜や鳥,虫,花,木,そして風までを友として暮らす田舎の四季を描いた,アトリーの自伝的作品.
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