大人が読む児童書「子じか物語」読了 3 自然の厳しさ、現実の厳しさ、それでも……。
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
19世紀後半のフロリダ。人里での摩擦を避け、矮樹林が広がる土地で厳しい開墾生活を送るバクスター一家。ある日、父ペニーがとっさに撃ち殺した雌ジカの傍らに、母を失った仔ジカが立ち尽くしていた。息子ジョディは仔ジカに魅了され育てたいと両親に懇願する…。
「子じか物語」 1 途中から読んだってかまわない。いきなりネタバレから入る、トラウマのラストシーン
「子じか物語」 2 女性がらみのトラブルはここでも。土くさい西部劇の中で。
子じかを飼うことを許してくれたお父さんと違って、ジョディのお母さんは、徹頭徹尾、最初から子じかを飼うことに反対でした。
このお母さん、とても厳しい人です。
ジョディに対してもあまり、母親らしい愛情を示したりはしません。
母は、持っていた愛情や心づくしや興味を、残らず死んだ子どもたちにそそぎつくしてしまったようにみえました。
もともと、ジョディンの父母に次々に生まれた子どもたちは、みんな育つことが出来ずに死んでしまい、ジョディがたったひとり最後に生まれて育ったのでした。
(ナウシカの漫画版の、ナウシカのお母さんも、こんな感じのキャラ設定だったような気がします)
このお母さん、読んでいるともう
親じゃなくて敵か?
と思ってしまうほど、イヤな感じです。
つねにガミガミ言ってますし、冗談を言っても喜びません。
母親らしい面など、ほとんど見せたことがありません。
(ちょっとはあります)
そして、最後に子じかフラッグを撃ち殺すのも、このお母さんなのです。
◇
しかし、こうして大人の立場で読み返していると、このお母さんの気持ちが痛いほどわかります!
正直、あれほど可愛いと思っていた子じかフラッグを、冷静な目で見ることができません。
子供よりもはるかに早いスピードで、どんどん大きくなっていくしかの子は、トラブルの種でしかありません。
種を撒いても撒いても、新芽をすべてこの子じかが食べてしまうのです!
さつまいもは床にばらまいて、かじってしまいます。
それもあれこれかじったあげくに踏み荒らしているので、もうこちらは食べることができません。
お父さんは病気がちになってしまい、お母さんが代わりに働いています。
ジョディも一緒に働き、種を撒きますが、すべて子じかが食い荒らして無駄にしてしまいます。
子どもの頃の記憶では、大きくなったフラッグが食い荒らしてしまっただけだと思っていましたが、読み返してみると、わりと序盤からあれこれやらかしていました。
数少ない食料を無駄にされてしまう上に、たぶんお母さんはこの結末もわかっていたことでしょう。
だから言ったのに!
だから最初から反対したのに!
というお母さんの心の声が聞こえてくるような気がします。
◇
何度も繰り返される、ジョディの嘆願と、それを無にする子じかのフラッグ──。
野生の生き物と人は、どうしても共存することは出来ないのだということ。
それは憎いとか嫌いだからでもなく、敵だからでもなくて、どうしようもないことなんだということを、いやというほど思い知らされます。
お父さんが、子じかを殺されて半狂乱になった挙句、疲れて家に戻ってきたジョディにしみじみと語るシーンがあります。
できるだけ長く、遊ばせてやりたかった。
あの子じかがどれだけ、慰めになっているか、さびしさが紛らわされているか、わかっていた。
「だがなあ、人間は、だれでもさびしいのだ。じゃあ、いったいどうしたらいいというのか。たたきのめされたとき、人間は、どうしたらいいというのか。そりゃあ、おまえ、それが自分の運命だとあきらめて、がんばっていくほかないさ。」
◇
子じかとジョディの間に存在した仲間意識と愛情は、何よりも強く存在していました。
それは、「どうしようもないということがこの世には存在する」ということと同じぐらい強く、確かなものでした。
ジョディは子じかと一緒に、子供時代をさよならをします。
つらく厳しい仕事を皆引き受けてくれていたお父さんは病気で動くことができなくなっています。
遊び相手だったフラッグももういません。
かれは、自分が、これからさき、二度とふたたび、男にせよ女にせよ、また自分の子どもにもせよ、どんなものをも、あの一年子のしかをかわいがったようにかわいがることがあろうとは、思えませんでした。
でも、ジョディは、「自分ひとりでなんとかやっていけないことはあるまい」と思うのです。
◇
しんみりとなったあとに、トム・ソーヤが待っています。
はじけるような明るさと元気なぼうけん!
お腹を抱えて笑える面白さ。
この「少年少女世界文学全集」の、子どもたちへの配慮を、また感じることができたのでした。
◇
作者マージョリー・キナン・ローリングスは、この「子じか物語」でピューリッツァー賞をもらっています。
この厳しい物語を、子どもの時に読んでおいてよかったと思うし、やっぱり子どもたちにも、こういうお話は必要なんだと思います。
便利で豊かな時代、ネットで指先ひとつ押せば家に品物が届く時代に育っていればいるほど、こういう、土と作物と生きるということを知ってもらいたいと思います。
自分の身は自分で守り、時には厳しい決断を下さなければならない、それも自分ので手でするということ。
銃規制の進まないアメリカの中に、こういう時代を乗り越えてきたという自負の精神が息づいているということも、理解しなければならないと思います。
もちろん、それが先住民族を追いやり、黒人奴隷を酷使してのことであったことも、忘れてはなりません。
何ごとも、理由なく、歴史なくして、今があることなど一つもないのですから。
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子鹿物語 (こども世界名作童話)
マージョリー・キナン ローリングス (著)
まだらめ 三保 (著), 村井 香葉 (イラスト)
開拓地にすむジョディと子鹿のフラッグの成長と心の交流を、自然のきびしさ豊かさをとおして描きます。愛されつづける感動の名作。
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ミシシッピ川沿いの小さな村を舞台に,わんぱくな少年トムが浮浪児ハックを相棒に大活躍するゆかいな冒険物語.因習にとらわれがちな大人たちの思惑をよそに,自然の中で自由にのびのびと生きる子どもたちを描く少年文学の名作.
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今まで知らなかったハックがここにいる。原書オリジナル・イラスト174点収録。柴田元幸がいちばん訳したかったあの名作、ついに翻訳刊行。
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大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語 2
ローラ・インガルス・ワイルダー (著), ガース・ウィリアムズ (イラスト), 恩地 三保子 (翻訳)
「大きな森」をあとにして、インガルス一家は新しい土地を求め、インディアン・テリトリイへ幌馬車で旅立つ。ローラ6歳から7歳までの1年間の物語
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大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語 2
ローラ・インガルス・ワイルダー (著), ガース・ウィリアムズ (イラスト), 恩地 三保子 (翻訳)
「大きな森」をあとにして、インガルス一家は新しい土地を求め、インディアン・テリトリイへ幌馬車で旅立つ。ローラ6歳から7歳までの1年間の物語
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宮崎駿監督による不朽の名作!月刊「アニメージュ」に連載され、スタジオジブリ長編アニメーション映画「風の谷のナウシカ」の原作となった、コミックス全7巻のセット。
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