今日の一冊「シグナルとシグナレス」
今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
びろうどの夜につつまれて静かにめぐる、美しい恋の物語。小林敏也が宮澤賢治と、すべての賢治ファンにあてた熱く静かなラブレター。
ロマンチックな作品です。
説明を読んでいると、賢治唯一の恋愛小説とあったけどそうかなあ?
片思いかもしれないけど、三角関係のどろどろを描いた「土神ときつね」
は、すごい恋愛小説だと思いました。
一本の美しいかばの樹をめぐって、二人の男性が嫉妬と見栄に狂って殺し合う、(ちょっと違うかも……)
とにかくドロドロですけど、あれはまぎれもなく恋愛小説だと思います。
どちらにしても、「土神ときつね」 では、恋敵は殺されてしまい、この「シグナルとシグナレス」は、若い二人の純情な想いは夢の空想世界の中でしか叶えられない。
切ないお話です。
◇
そういえば、シグナルってどんなもの?
「シグナル 鉄道」などで検索して見つけたのですけど、なるほどかっこいいです。
姿かたちがまっすぐですらりとして、空に向かって伸びている姿がすてきです。
シグナレスというのは宮沢賢治の造語のようですが、その名前を思い付いたところからこのふたり?のカップルは運命づけられていたのでしょうね。
本線のシグナルがシグナル
軽便鉄道のシグナルがシグナレスです。
シグナル=身分の高い(高そうな)若様
シグナレス=貧乏そうだけど心のきれいな清純な娘さん
電信柱=シグナルの執事(もしくは教育係)で、夜に電気を送る役目。
気のいいおっさん=倉庫。
倉庫は気のいいおっさんなだけではなくて、ちょっと不思議な力を持っている存在です。
◇
シグナルはしとやかなシグナレスが気になっていて、しきりと話しかけたりアピールしたりしますが、執事の電信柱にとがめられて、思うように会話できません。
電信柱が聞いてなさそうなときに、繰り返しアピールするのですが…。
思うように返事できないシャイなシグナレス。
ちょっと既読無視されたからって、大騒ぎで死ぬ死ぬアピールをやらかす今どきの若者シグナル。
それでいて耳をすませてシグナレスの気配をうかがっていて、
何とかシグナレスにいいかんじのセリフを言わせようと「同情もしてくれないんですか?」とかスネてみせる今どきの若者シグナル。
こういう、子供っぽさも初々しくてとても可愛いです。
二人は純情な会話を交わし合って、シグナルは
環状星雲(フィッシュマウスネビュラ)を婚約指輪(エンゲージリング)にあげる
なんてロマンチックなことを言ってます。
昔はこの話が素敵だよと紹介するといつも、ネビュラチェーンだと言われて参っていたものです…。いいんだよ、それはいいんだけど、この話で言及してこなくていいんだよ。
◇
執事に邪魔され、結婚を断固反対されるのですけど、こいつやり方が実に汚いです。
電信柱じゅうに根回しをして噂を広め、すっかり反対の準備を整えてしまってから、泣き落としです。
漢気のある倉庫が口添えをしてくれるのですが、電信柱はもう、病気になったかのように怒って話になりません。
倉庫は不思議な力を発揮して、魔法の呪文のようなものを唱え、二人を束の間、一緒にしてくれるのでした…。
この部分
「アルファー」
「ビーター」「ビーター」
「ガムマー」「ガムマーアー」
「デルター」「デールータァーアアア」
実に不思議です。いつかシグナルとシグナレスとの二人は、まっ黒な夜の中に肩をならべて立っていました。
というところ、劇にも読み聞かせにもとても向いていて、小さな劇団員をやっていた友達が、公演でこの「シグナルとシグナレス」をやったときにはとても不思議な空間が広がり、すばらしかったです。
真っ暗な闇の中にすっと立つ二本の柱と、星雲がちりばめられた夜空の美しさ。
不思議な呪文で、どこか別の場所に運ばれるような、いい夢を見ていて、また現実に戻って行く、幻想的な一幕でした。
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大正~昭和期の童話作家、詩人である宮沢賢治の童話。初出は「岩手毎日新聞」[1923(大正12)年]。本線の信号機であるシグナルは、軽便鉄道の信号であるシグナレスが好きだったが、シグナルに仕える電信柱が、彼らの交際を認めなかった。二人を可哀想に思った倉庫の屋根は、二人に呪文を唱えさせた。すると二人は夜空の中で語りあうことができた。賢治の童話の中で、唯一恋愛を扱った作品。
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谷地に住む土神は、粗野で乱暴な土地の神でしたが、一本木の野原に立つ、きれいな女の樺の木に心惹かれていました。ところが樺の木にはもう一人の友達がいて、樺の木は、その気取り屋でやさしい狐のほうを好きなようなのです。土神は切なさと嫉妬に悶え、苦しみぬいた末、なんとか樺の木への執着と狐への憎しみを克服しようとしたのですが…人間の存在を修羅とみなした宮沢賢治が、その修羅性とそれによって生じた悲劇をあからさまに描いた、異色の童話。この作品のもつ独特の世界を、中村道雄が組み木絵で表現しました。
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貧しい少年ジョバンニが銀河鉄道で美しく哀しい夜空の旅をする表題作等、童話13編戯曲1編。絢爛で多彩な作品世界を味わえる一冊。貧しく孤独な少年ジョバンニが、親友カムパネルラと銀河鉄道に乗って美しく哀しい夜空の旅をする、永遠の未完成の傑作である表題作や、「よだかの星」「オツベルと象」「セロ弾きのゴーシュ」など、イーハトーヴォの絢爛にして切なく多彩な世界に、「北守将軍と三人兄弟の医者」「饑餓陣営」「ビジテリアン大祭」を加えた14編を収録。賢治童話の豊饒な醍醐味をあますところなく披露する。
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楽団のお荷物だったセロ弾きの少年・ゴーシュが、夜ごと訪れる動物たちとのふれあいを通じて、心の陰を癒しセロの名手となっていく表題作。また「やまなし」「シグナルとシグナレス」「氷河鼠の毛皮」「猫の事務所」「雪渡り」「グスコーブドリの伝記」など、賢治が生前に新聞・雑誌に発表した名作・代表作の数々を収める。
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