大人が読む児童書「トムは真夜中の庭で」 3 真夜中に13回、大時計が鐘を打つとき。夜の世界の不思議
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
知り合いの家にあずけられて,友だちもなく退屈しきっていたトムは,真夜中に古時計が13も時を打つのをきき,昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて,ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります.「時間」という抽象的な問題と取り組みながら,理屈っぽさを全く感じさせない,カーネギー賞受賞の傑作です.
大人が読む児童書「トムは真夜中の庭で」 1 名作児童文学の中に必ず名前が上がる、名作中の名作
大時計が13時を打つ。
これ、最近、何かほかの本でもあったような気がします。
そうだ!トンデモネズミだ!
ポール・ギャリコです。
これも、やっぱり時計が13回打ったとき、トンデモネズミはいのちが宿って動き出したのでした。
考えてみれば、12時=0時というのも不思議です。
ゼロ時間とは何でしょうか?
12=0という式は成り立ちません。
でも確かにそこにある、不思議なすきまに、ありえない1時間が忍び込んできました。
何か不思議なことが起きる予感がします。
◇
「あなたにとってファンタジーというものは何ですか」
という質問に回答したことがありました。
そのとき、「苦しみだけが開ける扉」と書いたことがあります。
その頃は説明ができず、分かってもらなかったけれど、ファンタージエンの世界に行くには、そして命の水を持って無事に戻ってくるには、何か資格のようなものがある。
それは、その苦しんでいる理由を打ち明けたとき、誰かと比べられて、「もっとつらい人がいる。相対的に見たら大したことがない」とか、「こういう解決法があるのだから、そうすればいい」とか、何の役にも立たない薄っぺらい言葉では到底どうにもならない、本人にとっては耐え難い苦痛であるということです。
どうしようもない苦しみを耐えている。
そういう時に訪れる、この世のものではない扉──。
大時計は、鐘を13回鳴らすことで、その扉が開かれたことを教えてくれます。
◇
長々と、この気の毒なトムの境遇、地獄のような時間について説明してきたわけですが、これがとても重要なのでそこを分かってもらわないと次の展開に行けませんでした。
「こんなつまらないところにほうりこまれたのは、これがはじめてだ」とトムはピーターあての手紙をくらやみの中で考えていった。「ピーター、ぼくはここから出ていくためだったら--どこでもいい、ここよりほかのどこかへいくためだったら、どんなことでもするよ。」トムは、自由になりたいというじぶんのあこがれが胸のなかでふくれあがり、部屋のなかで大きくふくれあがり、しまいには爆発して壁をつき破り、自分をほんとうに自由にしてくれるのではあるまいかと思った。
という、そのときに起きた不思議な出来事。
トムは、眠れないのでちゃんと大時計の鐘の音を数えていました。
12時の鐘はすでに打ちました。
次は1時のはず。
ギリギリまでトムは一晩に2回、時計は12時を鳴らすのだろうと思っています。
そして鐘の音は13回。
◇
トムは、真夜中に起き出して、玄関ホールになっている入り口の大広間に降りて行き、手探りで大時計を確認しようとします。
このあたり、息詰まるようなスリリングさです。
しかし真っ暗で何も見えません。
この大時計には、バーソロミューさんがいつも、しっかりと鍵をかけていました。
あかりだ、明かりを灯せ!
何かが起きていて、夜の静けさ、暗闇が彼を呼んでいます。
月があるのは屋敷の裏口。
ならば裏口の戸を開ければ、月の光が差し込んでくるかもしれない。
時計の針が確認できるぐらいには……。
◇
トムは、その裏口の向こうには、つまらないがらくたしか置いてないし、行ってもがっかりするだけだと、アランおじさんに聞かされていました。
しかし、開いた裏口の扉の向こうには、月に照らされた素晴らしい庭が広がっていました。
コンクリートで固められていて、遊べそうなところなんてないと、聞かされていたトムは驚いてしまいます。
おじさんは、嘘をついていたんだ!
遊べる場所があるのに、わざと遊ばせないように、存在を隠していたんだ!
……と、トムは信じ込みます。
これまでのおじさんの四角四面の所業を見ている限り、そう考えるのはすごく納得できます。
時計のことも忘れ、庭園の中を歩き回るトム。
花が咲き乱れる様子を、月の光が照らし出します。
夜であるだけに、いっそう神秘的です。
◇
いそぎなさいよ!とささやく邸宅と、時計の針の音。
真っ暗闇の中から、光いっぱいに挿し込める月。
家と同じくらいの大きさの温室がある、広々とした花が咲き乱れる庭。
これまでのムカつくおとなたちの所業と、何もできない閉塞感、どうしようもできない非力さなど、ストレスフルでどうにかなりそうだった中に、唐突に眼前に開けた美しさは、読んでいる方としても、心打たれます。
トムは、ひととおり、少しだけ庭を確かめてから、おじさんたちへの義憤にかられつつ、もう一度家の中へ向かいました。
お昼にもう一度来て、ちゃんと確かめようと思ったのです。
大広間に入ると、表玄関の方の扉が開くのが見えました。
誰かが入ってきたのです。
トムは固まります。
入ってきたのは、メイドさんでした。
(訳では、女中さんとなってます)
白いエプロン、帽子や袖口、黒いくつした。
英国について、かなり情報がいきわたった今となっては、わたしが読んでいた頃よりも、はっきりとメイドさんの格好はリアルに目に浮かぶと思われます。
(よきにつけ、あしきにつけ)
その人は、まったくトムには気が付きません。
咳払いをしても、呼びかけてみてもこちらを見ようともしませんでした。
そればかりか、すぐ横を通り過ぎて行ってしまいました。
ホールの様子もおかしいです。これまでとはまるで違います。
雑然と置いてあった共用物はまったく見えなくなり、かわりに重々しい「邸宅を飾るような」置き物がたくさん、置かれていました。
ただ前と変わらないのは大時計だけです。
メイドさんがまた現れましたが、ここで不思議なことが起こります。
まあ、とっくに不思議なことばかり起きてはいるのですが。
この人は、扉に近づいていくにすれ、「うすくなって」……消えてしまいました!
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ロンドンに暮らすベンの夢は犬を飼うこと.誕生日に,約束していた犬のかわりに刺繍の犬の絵をもらって失望したベンは,想像の犬を飼いはじめる.やがて引っ越しを機に念願の犬を手に入れるが,それは想像の犬とあまりにも違っていた…….少年の心の渇望と,葛藤を乗りこえる姿をくっきりと写した傑作.[解説・小川洋子]
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子どもの日常生活におきる,小さいけれど忘れがたい不思議なできごとの数々.『トムは真夜中の庭で』の作者による,夢と現実の世界を行き来する印象的な短篇8編をおさめる.
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ハヤ号セイ川をいく (講談社青い鳥文庫)
フィリパ=ピアス (著), エドワード・アーディゾーニ (イラスト), 足沢 良子 (翻訳)
セイ川を流れてきたカヌーを見つけたデビットは、その持ち主のアダムと友だちになり、カヌーにハヤ号と名まえをつけた。2人は、アダムの家に伝わるなぞの詩から、かくされた宝を探し出そうとする。――カヌーで結ばれた2人の少年の、夏休みのすばらしい冒険と友情をえがいたイギリス児童文学の名作。カーネギー賞受賞作家、フィリパ・ピアスのデビュー作をエドワード・アーディゾーニの絵で。
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養い親のもとを離れ、転地のため海辺の村の老夫婦にあずけられた少女アンナ。孤独なアンナは、同い年の不思議な少女マーニーと友だちになり、毎日二人で遊びます。ところが、村人はだれもマーニーのことを知らないのでした。
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アンナは海辺でマーニーという不思議な女の子に出会う。仲良しなのは二人の秘密。けれど嵐の日マーニーが消えてしまい……。愛と友情、成長を描く感動の物語。越前敏弥、ないとうふみこによる新訳で登場!
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大人気シリーズ、ドリトル先生の少年文庫版・全13冊セット。世界一の名医ドリトル先生が主人公の、ベスト&ロングセラーです。
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