大人が読む児童書「くるみわり人形」2 きらびやかさの中にひそむ不可思議な仕掛け
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
クリスマスの日、マリーは、おくりものの中に、りっぱな服に身をつつんだ、くるみわり人形を見つけます。すっかり、このお人形が気に入ってしまうマリー。しかし、真夜中になると、家の中で音がきこえ、おどろきの光景を目にすることになります……!世界中で愛され読みつがれてきた名作に、現代の児童文学作家たちが新しい命をふきこんだ、ポプラ世界名作童話シリーズ。
何ページにもわたって詳しく描写されている、すばらしい贈り物の数々。
また、クリスマスの飾りつけの数々。
これを、ここまで見事に、言葉だけで描写している作品というのは、ほかに例をみないほどです。
クリスマスツリーひとつとってもこうです。
部屋のまんなかのもみの木には、金のりんごや銀のりんごがたくさんなっており、また枝という枝からは、砂糖をふりかけたアメンドーや、色とりどりのボンボンや、そのほか、ありとあらゆるみごとなキャンデデーが、つぼみや花のように、ぶらさがっていました。
ですけれど、このふしぎな木を見て、何よりも美しいと思われたのは、そのほの暗い枝のかげに、星のようにきらきら光っている、たくさんの小さいあかりなのです。それから、内にも外にも光をはなちながら、さあどうぞ、花や実をつみ取ってくださいと、にこやかに子どもたちをまねいている木そのものです。
……などという文章が、これはほんのさわりだけなのですが、延々と続いています。
こういうのを読んでいると、(前に書いたような気もしますが)「美しいものを『美しい』という言葉以外であらわすことがじょうずな文章だ」などという修辞のおべんきょうのことばが、まったく意味のない事に思えてきます。
「みごとな」「美しい」「かわいらしい」満載ですが、ちっともいやになりません。
まるで目の前に、そのクリスマスツリーがあるかのようです。
◇
フリッツは、いわゆるアンデルセンにもよく出てくる「スズの兵隊」系の一個大隊をもらって大喜びです。
これ、何となくわたしは、レゴやマインクラフト、またシミュレーションゲームを想像しました。
フリッツは、ドロッセルマイエルのおじさんが作ったぜんまい仕掛けの自動人形たちに文句をつけたりする、けっこう失礼なやつです。
妹(7歳)のおしゃべりにも、ツッコミばかり入れています。
昔はフリッツが大嫌いでしたが、今読んでみると、色とりどりの砂糖菓子のような描写の中に、この子がいるからこそ、ぴりっときいた薬味のように話がひきしまっているんだなと思うようになりました。
妹子「何だこいつ。大嫌い。しんじゃえ!」
わたし「…………言い過ぎ」
◇
さて、このきらびやかで美しい贈り物の中で、マリーがひときわ気に入ったものがありました。
それが、どう考えても「美しい」とはとてもいいがたい、不格好な形をした、変な恰好のくるみわり人形です。
けっして、他の贈り物に比べて、美しいとは言えないのに、マリーはひとめで好きになってしまいます。
上記で説明したような、すばらしい描写で、このくるみ割り人形が「いかにすばらしくくるみをかみ砕けるか」というのが、およそ1ページほどもかけて語られます。
おかげで、妹子はすっかりくるみ割り人形が欲しくなって、Amazonで買え買えとうるさいです。
昔はそんなのカタログも何もなかったので、
今や、「ナッツクラッカー」と検索すれば見ることが出来るようになってしまった…。
わたし「いやいや妹子、お母さんも欲しいと思って調べたことがあるんだけどね、マジで無理だから。ほらこれ、このサーファー型のくるみ割り人形、くるみと一緒に写真に写ってるやつ」
サーファー型なんてあるのかよ…と思いつつも、ちょうどくるみの写真が一緒に映っていました。
わたし「見て。そもそもくるみが入らない感じでしょ?」
妹子「ほんとだ」
わたし「やってみたこともあるんだよ。はっきりいって、。くるみが入らない上に、全然くるみが噛み割れない。絶対にうちにある鉄のやつ使ったほうがいいって」
↑こういう奴です。
◇
みんながなごやかにくるみ割りをして楽しんでいるのを見たフリッツ、大きくて硬そうなくるみを、無理矢理に押し込んで、くるみ割り人形を壊してしまいます。
とつぜん──ぺきっ──ぺきっ──という音がしたかと思うと、くるみわりの口から小さい歯が三本落ちて、下あご全体がはずれて、ぐらぐらになってしまいました。
歯が三本落ちた。
間違いなく、このくるみ割りは、このサーファータイプの人形ではないです。
(だからなぜサーファー?)
歯が別々についています。
気になって、ドイツのAmazonまで見に行って調べてみましたが(Nussknackerだそうです)やはりありません。
変わり種で、長靴をはいた猫風のはありましたが、同じ感じです。
きっと、ドロッセルマイエルさんの作ったくるみ割り人形は特別製だったんだ。
◇
しかし、フリッツはくるみ割りを壊したにも関わらず、謝りもしなければすまないと思いもしません。
逆に、完全に壊れたってかまわないから、くるみを割るまで使い倒してやると言い張ります。
マリーは泣きだして、くるみ割りを取って隠してしまいました。
このムカつくフリッツとマリーのけんかに、お父さん、お母さんおよび、ドロッセルマイエルさんも参加して、フリッツはお父さんに怒られます。
しかし、何とも不可解なことに、ドロッセルマイエルさんは、フリッツの味方をします。
このおじさん、実に不思議な人で、このお話のところどころ、重要な所で、何とも説明のつかない行動を取ります。
この、どう考えても褒められたものではないフリッツの行動のどこに味方する余地があるのか?
これは、まだ序盤の小さなフラグにすぎません。
しかし、
・出てくる全員が良い子良い子と、マリーを持ち上げないこと
・どう考えても不可解な、理屈の通らないドロッセルマイエルさんの随所にみられる行動
・フリッツのムカつく、いかにもやんちゃな男の子の言動
・周囲がきらびやかであればあるほど、くるみ割り人形のぶかっこうさが目立つ
・これから起きる不思議なホラー展開
という、これらが複雑にからみあって、ついには、この物語を、「決して忘れることができない」という次元にまで押し上げるという、効果をもたらしています。
矛盾、ナンセンスさが、精巧なからくり人形のように、計算され尽くして配置されています。
お話とは、整合性が取れているだけでは名作にはなれないのです。
◇
壊れたくるみ割りを、大事に預かることになったマリー。
自分のお人形の「クララちゃん」に、まるで人間のように話しかけ、ベッドを傷付いたくるみ割り人形のために貸してくれないかと頼みます。
マリーがあまりにも大真面目に、くるみ割り人形を生きている、けがをした病人扱いしたり、お人形に向かって話しかけたりしますので、だんだん、どこからどこまでが子どもの遊びなのか、わからなくなってきます。
親たちがいなくなり、夜が近付くと、なお、その傾向が強くなります。
お人形のクララちゃんはだまってムッとしている様子。
だまってるのは当たり前なのですが、なんだか本当にクララが失礼な態度を取っているような気分になってきます。
マリーはクララを引き出して、ベッドをくるみわりに使わせてやり、自分のリボンを包帯のように巻いてやりました。
さて、マリーがベッドルームへ行こうとしたそのとき。
すると、そのとき──いいですか、お聞きなさい。──そのときです、ストーブのうしろとか、いすのうしろとか、戸だなのかげとか、そこらじゅうから、かすかに──かすかに、ひそひそと、ささやく声や、がさごそという音が、聞こえてきたのです。
時計が時を打つことができずにもだえ、うなりをあげます。
大きな金色のふくろうが、時計を包むように止まって、こんな風にささやきました。
「おい、時計たち、時計たち、みんなそうっとうなるんだぞ……ねずみの王さまは耳がさといからな……ぷるぷる……ぷむぷむ。さあうたえ、むかしの歌をうたって聞かせろ……ぷるぷる……ぷむぷむ。小さな鐘よ、鳴りだせ鳴りだせ、じきにあいつはおだぶつだあ。」
この様子、デビッド・ボウイの名作映画「ラビリンス」に似ているな。
ゴブリンたちがのぞき、ささやきあい、ふくろうが飛ぶ。
そっくりです。
「ラビリンス」を作った人たちも、もしかすると「くるみわり人形」の原作から、ヒントを得ていたかもしれません。
こんな風に、何か名作が何かのオマージュを取り入れているのを発見したり、連想をして思い出すのも、楽しいです。
物語は最高潮で不気味な予感がします。
ここが、4章「おばけ」です。
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クリスマス・イヴのパーティで、名づけ親のドロッセルマイヤーさんから、くるみ割り人形を送られた少女クララは、その夜、不思議な体験をする…「くるみ割り人形」。悪魔に呪いをかけられ、白鳥の姿に変えられてしまったオデット姫。夜の湖で出会ったジークフリート王子と恋に落ちるが…「白鳥の湖」。世界中で上演されている、チャイコフスキーの人気バレエ2作品が、ロマンチックなファンタジー小説に!【もくじ】はじめに/くるみ割り人形/白鳥の湖/解説 少女の夢のつまった世界(深沢美潮)
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おとぎ話が大好きな少女サラは、泣き止まない幼い弟に腹を立て、愛読書"ラビリンス"に出てくる呪文を唱えてしまう。その瞬間、魔王ジャレスが本当に現れ、彼女の希望通り弟を連れ去ってしまう。慌てたサラは弟を取り戻す為、迷路を抜けてゴブリン・シティの城へ向かうが…。
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ピーターがある日、うす暗い小さな店で手に入れた古い小船は、なんと魔法の「とぶ船」でした。ピーターたち4人きょうだいはこの船で、エジプトやウィリアム征服王時代のイギリス、北欧神話の世界にまで冒険旅行をします。
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やかまし村の春・夏・秋・冬
アストリッド リンドグレーン (著), イロン・ヴィークランド (イラスト), 大塚 勇三 (翻訳)
やかまし村はスエーデンの小さな農村。クリスマスにはショウガ入りクッキーを焼き、復活祭には卵パーティーで大もりあがり!夏休みには宝物をさがしに湖の島へ。子どもたちの四季おりおりの遊びやくらしを、いきいきと描きます。小学3・4年以上。(「BOOK」データベースより)
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初版と新版は、表紙デザインが異なります。日本昔話、イソップ童話などが90話収録。毎日ちゃんと読み聞かせても三か月分あり、読み応え十分。挿絵はダイナミックかつ個性的で、家族の話題作りにもいかがでしょうか。
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両親がキツネに追われたまま帰ってこないので、兄ウサギのラビーと妹ウサギのルビーは、二人だけで暮らしていました。森で薪をひろいながら、他の家にはどこもクリスマスツリーが飾ってあるのを見て、ラビーはルビーに「うちにはサンタクロースなんかこないよ」といいます。でも二人はそっとお互いのためにクリスマスの贈り物を……。心にしみいるお話が柔らかなタッチで描かれます。(福音館https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=03-0249)
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サンタクロースからもらったおかしを食べてしまった子うさぎのましろは、またほしくなってもらいにいくのですが……。
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子どもの本だな【広告】
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