大人が読む児童書「くるみわり人形」3 クリスマスの夜に起きる、人形とねずみの大戦争
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
クリスマスの日、マリーは、おくりものの中に、りっぱな服に身をつつんだ、くるみわり人形を見つけます。すっかり、このお人形が気に入ってしまうマリー。しかし、真夜中になると、家の中で音がきこえ、おどろきの光景を目にすることになります……!世界中で愛され読みつがれてきた名作に、現代の児童文学作家たちが新しい命をふきこんだ、ポプラ世界名作童話シリーズ。
こわくなったマリーが見たのは、あの大きなふくろうが消え、代わりにドロッセルマイエルさんが、かけ時計の上に座り込んで、「黄いろい上着のすそを、つばさのようにたらしている」姿でした。
ドロッセルマイエルさんの不可思議な行動その2です。
普通に考えて、おとなの世界で一緒に話したり笑ったりしていた人がこんな所にいるはずがありません。
ですが、どことなく奇妙で薄気味の悪い、ドロッセルマイエルさん。
おとなもここにいるという不可思議が、夢と現実を曖昧にして、おそろしさを際立たせます。
あちこちのすきまから光るぎらぎらした目玉。
(まんま「ラビリンス」です)
それは、薄気味の悪い(ゴブリンではなくて)ねずみの姿でした。
およそ1ページにわたって暴れまわり、走り回るねずみの群れの最後に現れたのは…
──まあお聞きなさい。──マリーのすぐ足もとから、まるで、地獄の力でおしだされたかのように、砂や石灰や、こなごなになったれんががはねあがって、きらきらかがやく七つの王冠をかぶった七匹のねずみの頭が、ものすごい声で、ちゅうちゅう鳴きながら、床から出てきたのです。
こいつは、7ひきのねずみが出てきたのではなく、ギリシャ神話のヒドラのように、7つの首を持ち、それぞれに7つの王冠をかぶった、一匹の大ねずみでした。
ねずみたちは、まっしぐらにおもちゃや絵本の入っている棚に向かって押し寄せます。
おもちゃの戸だなにはあかあかとあかりがともり、人形たちがかけまわり、迎え撃つ準備をしています。
そのリーダーになっているのは、なんとあのくるみ割り人形でした。
この、人形たちを率いて戦う、くるみわり人形が実に勇ましくてかっこいいです。
◇
くるみ割り人形は、大きくて不格好ではありますけど、人形皆を率いた(ナポレオン的な)大将の役割です。
ちょっと面白いことに、ここであの、お人形のクララちゃんも動き出します。
そして、くるみ割り人形に対して
「病人なんだから、戦争になんて出かけないで、からだをやすめていてちょうだい。ここで皆の戦いを見ていましょう♡」
的なことを言ってやさしく口説きます。
そのとき、クララちゃんはくるみ割りの体を抱きしめているのですが、くるみわりはもがいて離れてしまいます。
でも、離れたら離れたでくるみわりは非常に礼儀正しく、片膝をついてお礼を言うのですが、このあたりのやりとりは、まさに宮廷でみる、騎士と貴婦人のやりとりのようです。
クララちゃん、どうしても戦いに行くというくるみわりに、自分の帯を取ってかけてやろうとします。
この「帯」は、サッシュと呼ばれる儀礼的なやつなんではないかと推測しています。
いかにも、プロイセン王国時代の宮廷でありそうなやりとりをお人形でやってみせるという、おとぎ話です。
しかし、くるみ割り、介護を断ったばかりか、この帯まで拒否!
あくまで礼儀正しく、固辞したかわりに、くるみわりが自分の体にかけたのは、マリーがさきほど、包帯のように巻いてくれた飾り気のないリボンの方でした。
どうやら、この帯をかけるだのかけないののやりとり、騎士と貴婦人の愛のあかし♡のようなものを意味するようです。
くるみわりは、マリーのまごころを取って、あくまでクララちゃん(たぶん美人)のお人形の好意を断ったのでした。
◇
戦いが始まるまでに、これらのけっこう詳細なやりとり。
それから7つの頭に王冠をいただくねずみの王様との大戦争に突入します。
・太鼓で急を知らせる。
・ラッパ手が合図を吹き鳴らす。
・マリーの兄、フリッツ君のおもちゃの兵隊たちが列を作る。
・大砲を砲兵たちが引き出してきてこんぺいとうを打ち込む。
・「こしょう菓子」も大砲のたまの役目。
ねずみとおもちゃたちとの大戦争はすさまじい勢いです。
こうしてみると、ホフマンが語り聞かせる形式のこの物語、実際の戦いの絵を見るような生き生きとした臨場感を当時の子供たちに与えただろうと思われます。
面白いことに、大戦争のめちゃくちゃの最中に、例のお人形のクララとゲルトルート(こちらも人形です)、走り回って泣きながら抱き合い、泣き崩れるという……。
役に立たない援軍もいます。
お人形やおもちゃたちを使って、リアルな大戦争をやってみせる夜の夢だとしても、芸がとても細かいのです。
◇
主に、「くるみわり人形」はバレエで有名ですが、今回調べてみると、バレエになっているのは、「三銃士」「モンテ・クリスト伯」のデュマ父が翻案したものがもとなんですね。
バレエでの戦いの場面は、第一幕第一場。
長大なくるみ割り人形の演目の中では、そこまで長いパートではないです。
◇
しかし、おもちゃたちの負け色が濃くなってきました。
ついにくるみ割り(大将)が、敵軍(ねずみ)に囲まれ、どうしようもなくなったとき
くるみ割り「馬だ……馬だ……馬を持ってきてくれたら、王国を一つやるぞ。」
シェイクスピアだー!!
シェイクスピア「リチャード三世」の超有名なせりふです。
ホフマンもリチャード三世が好きだったのか。
何しろリチャード三世はこれで殺されてしまいますから、絶体絶命にこれほどふさわしいセリフはありません。
しかし、リチャード三世は(魅力的だけど)悪人の物語と頭から思い込んでいましたが、こうして、醜くはあるけれど、立派な英雄としてのくるみ割りがその台詞を言っているように、やっぱりリチャード三世は、決してネガティブなイメージだけではないのだろうなと思いました。
ホフマン、GJ!👍
このとき、敵の散兵がふたり、くるみわりの木でこしらえたマントをひっつかみました。そして、ねずみの王さまが勝ちほこって、七つののどをちゅうちゅう鳴らしながら、とびかかってきました。
ピンチなことに変わりはなかった。
わけのわからないうちに、気持ち悪いねずみの「おばけ」とくるみわり人形に率いられたおもちゃの大戦争を見守っていたマリー。
この絶体絶命に、もう黙っていられなくなり、手に持っていたスリッパを思いっきりねずみに投げつけます。
◇
マリーが目覚めたとき、けがをしてベッドに寝かされていました。
「おもちゃの戸だなのガラスを腕で突き破って、腕を切って倒れていた」とのことです。
7歳のマリーは、一生懸命、ねずみの王さまとくるみ割り人形との戦いを大人たちに語りますが、当たり前ですがまったく相手にしてもらえません。
おとなパートの中で、相変わらず実に不思議な役割を果たすドロッセルマイエルさんですが、ここでもとても奇妙な言動をしておとなたちも、マリーも驚かせます。
おとなたちに対しては、何らおかしなところのない説明を行いながら、すべて知っているのではないか…。
何か、この騒動に深く関わっているのではないか。
わざと、知らないふりをしているだけなのではないか、そうではないのか、曖昧な言動です。
・病気のマリーの枕元で、奇妙な時計の歌を歌い、その中には「ねずみの王さま」「ふくろう」のキーワードが入っている。
・マリーは「七つの首をもつねずみ」とは一言も言っていないのに、「ねずみの王さまの14の目玉」と言う。
・「かたいくるみのおとぎ話」という、くるみわりがかけられた魔法についてのおとぎ話を聞かせてくれる
ドロッセルマイエルさんは、「あくまでただのおとぎ話だ」と言います。
しかし、それは明らかにあの大戦争がなぜ起こったかを明らかにする物語だったのでした。
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やかまし村の春・夏・秋・冬
アストリッド リンドグレーン (著), イロン・ヴィークランド (イラスト), 大塚 勇三 (翻訳)
やかまし村はスエーデンの小さな農村。クリスマスにはショウガ入りクッキーを焼き、復活祭には卵パーティーで大もりあがり!夏休みには宝物をさがしに湖の島へ。子どもたちの四季おりおりの遊びやくらしを、いきいきと描きます。小学3・4年以上。(「BOOK」データベースより)
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初版と新版は、表紙デザインが異なります。日本昔話、イソップ童話などが90話収録。毎日ちゃんと読み聞かせても三か月分あり、読み応え十分。挿絵はダイナミックかつ個性的で、家族の話題作りにもいかがでしょうか。
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両親がキツネに追われたまま帰ってこないので、兄ウサギのラビーと妹ウサギのルビーは、二人だけで暮らしていました。森で薪をひろいながら、他の家にはどこもクリスマスツリーが飾ってあるのを見て、ラビーはルビーに「うちにはサンタクロースなんかこないよ」といいます。でも二人はそっとお互いのためにクリスマスの贈り物を……。心にしみいるお話が柔らかなタッチで描かれます。(福音館https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=03-0249)
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サンタクロースからもらったおかしを食べてしまった子うさぎのましろは、またほしくなってもらいにいくのですが……。
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