大人が読む児童書「ムギと王さま」1 理想的な読書垢にとっての環境とは
今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集
年内にどうしてもいちど、紹介しておきたいなと思ったのが、エリナー・ファージョンの作品です。
これまで、「町かどのジム」と「マローンおばさん」の2作を紹介しました。
「マローンおばさん」では、あとがきに
「子供の本を愛する人にとってファージョンの名は特別な意味を持っている」
と書かれていたことをご紹介しました。
日本の翻訳児童書の中で、ファージョンは、石井桃子という名前とともに不動の位置を保つ黄金の作品です。
「ムギと王さま」が、多分、ファージョン作品の中では最も有名ではないでしょうか。
あらゆる「児童書おすすめ」リストの中に、必ず入ってきます。
これは、短編集です。
岩波少年文庫では、現在は文庫の形で上下巻に分かれて発売されていますが、できればこのハードカバーの分厚いバージョン作品集を借りてみて、読んでいただきたいなと思います。
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人が殴り殺せそうな厚さの、ずっしりとして重たい本なのですが、やはり読みやすいというのもありますし、「どっしりとした分厚い本を開いて、それが面白い」という感覚を、お子さんがた、またご自分でも体験してみて欲しいです。
どれも宝石のような 作品群です。
ファージョン作品は、イギリスでは教科書に使われるほどの美しい文章と呼ばれているそうです。
27編ある、この短編集の中から
「本の小部屋(作者まえがき)」
「西ノ森」
「しんせつな地主さん」
「パニュキス」
について、書いてみたいと思います。
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短編集なので、子どもには読みやすい本です。
けれど、どちらかというと上級生向けではないかな…?
漢字も多く、もちろんルビはふられていますが、修辞が多くて、ことばの裏を読むような、意味がわかれば、ああそうだったのか、という箇所も多いです。
しかし、とても単純であっさりとしたお話も、もちろん随所にあります。
幼いお子さんが、開いてみてぱらぱらとめくって、ふと一か所に目がとまり、おもしろいのでその箇所ばかりを何度も読み、それから、前後のお話をためしてみて……という、そういう「本を読むという体験への導入」があればいいな、と思います。
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「作者まえがき」
作者の子ども時代の「本のある生活」の一端を垣間見せてくれます。
本は食堂の壁ぎわをうずめ、そこからあふれ出て、母の居間や、さては、階段をのぼって寝室にまで流れこんでいました。本なしで生活するよりも、着物なしでいるほうが、自然にさえ思われました。そして、また本を読まないでいることは、たべないでいるのとおなじぐらい不自然に。
本ずきな人にとっては、これほど理想的な環境はないでしょう。
まさに、よくわかる話です。
ファージョンの文章が美しいと言われていますが、その一部をこの部分でお見せしてみたいと思います。
It would have been more natural to live without clothes than without books. As unnatural not to read as not to eat.
「本なしで生活するよりも、着物なしでいるほうが、自然にさえ思われました。そして、また本を読まないでいることは、たべないでいるのとおなじぐらい不自然に。」という箇所です。
この短い文章の中に、「would have been」とか「more than」とか、「as ~ as」などてんこもりです。
いきなりかよぉぉぉ!と思うような難易度の高さです。
この場合の「would have been」は、仮定法過去完了っぽく見えますが、仮定の意味を示す「if」とか「wish」とか「otherwise」などが入っておらず、過去の推量を示しています。(と思います)
「仮定法でない、過去完了のつかいかた☆」などの勉強に使える(……のではないか……)と思います。
本好きのお子さんなら、この文章を暗記することで、過去完了、比較級、to不定詞、などをたった一文でおぼえることができます☆
多分。
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読書垢の人ならば、誰もが心に抱いている原風景。
というべき、本にあふれた理想的な生活を送っているファージョンなのですが、この小部屋は、ほかの部屋から余った本が流れ着いた場所でした。
食堂や書斎や子ども部屋の本には、選んで、整とんされたあとがありました。
この「本の小部屋」にあるのは、宝くじか掘り出し物かがらくたか、無秩序に積み上げられた本の山だった……。ということなのですが、ちょっとここで注目。
食堂にも本があるんだ~!すばらしい!
想像するだけで、本ずき、読書垢の人にとっては、夢のような場所です。
わたしも綺麗な写真は好きなので、よくInstagramはのぞくのですが、たまに
「本が足りない」
と思うときがあります。
景色に何かが足りないのです。
本はやっぱり、その内部に一つの世界を抱えているので、ただ映っているだけでも写真に、その奧に何かが潜んでいるような気配を持たせ、小宇宙のような深みが出ます。
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あのほこりっぽい本の部屋のまどは、あけたことがありませんでした。そのガラスをとおして、夏の日は、すすけた光のたばになってさしこみ、金色のほこりが、光のなかでおどったり、キラキラしたりしました。
石井桃子さんの訳文が本当に美しいです。
「maid」をよく、「おとめ」と訳しているのも特徴です。
メイドさんの「maid」なのですが、古い意味で古語、文語、詩語では「むすめ」「少女」を意味します。
そこのまどから、わたくしは、じぶんの生きる世界や時代とはちがった、またベつの世界や時代をのぞきました。詩や散文、事実や夢に満ちている世界でした。その部屋には、古い劇や歴史や、古いロマンスがありました。迷信や、伝説や、またわたくしたちが「文学のこっとう品」とよぶものもありました。
That dusty bookroom, whose windows were never opened, through whose panes the summer sun struck a dingy shaft, where gold specks danced and shimmered, opened magic casements for me through which I looked out on other worlds and times than those I lived in: worlds filled with poetry and prose and fact and fantasy. There were old plays and histories, and old romances; superstitions, legends, and what are called the Curiosities of Literature.
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ちなみにファージョンはすでに版権が切れており、「リンゴ畑のマーティン・ピピン」はGutenbergで無料公開されています。
Martin Pippin in the Apple Orchard by Eleanor Farjeon - Free Ebook
また、詩やソネットの数々や、邦訳されていない「ジプシーとジンジャー」という作品も載っていますので、ファージョンが好きな方は必見です!
Gypsy and Ginger by Eleanor Farjeon - Free Ebook
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妹子「え?これだけ?今日これで終わり?」
わたし「……………」
妹子、登場するだけでなく、よくわたしの書いた記事を「これおもしろかった」とか「これ読む」といって読んでくれるのですが(自分が登場するのもだいすきなので)、たまに文句つけてきます。
妹子「少なくない?もっと書くこといっぱいあるでしょ?こんなに文章きれいなのに!ぜんぜん魅力を伝えきれてないでしょ!」
わたし「もう、あなた自分でも別で書いてくれよ~~!!!」
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ムギと王さま―本の小べや
エリナー ファージョン (著),
エドワード・アーディゾーニ (イラスト),石井 桃子 (翻訳)
幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集
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天国を出ていく―本の小べや
エリナー・ファージョン (著),
エドワード・アーディゾーニ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
幼い日,本がぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短編集から,この巻には13編を収めます
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マローンおばさん
エレノア・ファージョン (著),
エドワード アーディゾーニ (イラスト), 阿部 公子 (翻訳), 茨木 啓子 (翻訳)
森のそばで、ひとり貧しく暮らしていたマローンおばさんのもとに、すずめや、ねこや、きつねたちが訪れ、おばさんは、貧しい中から彼らに必ず何かを分け与えた。読み継がれる有名な詩を邦訳して紹介する。
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リンゴ畑のマーティン・ピピン
エリナー ファージョン (著),
リチャード・ケネディ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
恋人から引き離されてリンゴ畑の井戸屋形にとじこめられている少女ギリアンを,6人の娘たちが牢番として見張っています.陽気な旅の歌い手マーティン・ピピンは,美しく幻想的な6つの恋物語をくりひろげて娘たちの心を奪い,首尾よく牢屋のかぎを手に入れます.ファージョンが作家としての地位を確立した傑作
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ヒナギク野のマーティン・ピピン
エリナー・ファージョン (著),
イズベル;ジョン・モートン=セイル (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
ファージョン作品集5巻。
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気だてはいいが食いしんぼうの粉屋の娘ドルが、小鬼のたくらみで王さまの妃になりました。妹のポルが銀のシギの助けを借りて、姉の危機を救います。素材は昔話の「トム・ティット・トット」
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デリーが物心ついてからというもの、ジムはいつでも街角のポストのそばに座っています。むかし船乗りだったジムは、デリーにいろんな場所の話をしてくれます…。1965年学研刊の名作をアーディゾーニの挿絵で。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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