大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
おたがいを知らずに別々の町で育った、ふたごの姉妹ルイーゼとロッテ。ある夏、スイスの林間学校で、ふたりは偶然に出会います。ふたりは、大胆な計画をたてるのですが…。
ケストナーの傑作「ふたりのロッテ」再読2 隠せない村上春樹臭のするお父さん ~
「出たこいつ!くそが出た!わたしこいつだいっっっっっきらい!!!!」
そんな風に言われてるのはイレーネ・ゲルラッハさん。
チョコレートの魔女です。
チョコレートの魔女とは、私たちがそう呼んでいるだけで別にそう書いてるわけではないのですが、読んでもらえばわかりますが、チョコレートの魔女って感じです。
彼女に関してはまあ、映画「サウンド・オブ・ミュージック」のお父さんが結婚しようとしていた貴婦人と同じ役回りです。
◇
とりあえず、話を戻して、ロッテとルイーゼが入れ替わったことには、周囲の誰も気づいていません。
お父さんもお母さんもわかりません。
わんちゃんだけが気付きます!
(わんちゃんがすごく可愛いです…)
しかしここで特筆すべきは、元気でいきのいいルイーゼではない、おとなしいロッテの方の、目を見張るがんばりです!
ルイーゼの方は、どちらかというとしあわせです。
お母さんに会えて抱き着くシーンは胸がきゅんとなります。
お料理が出来なくて家じゅうとりちらかすシーンは笑えますが、気持ちがよくわかります。
しかし、ロッテが直面したのは…。
チョコレートの魔女です!
これは難敵です。
イヤな女です。
ひとつ、さまたげはある。あのばかな子どもだ。でも、イレーネさんがひとりかふたり、ルートヴィヒさんの子どもを産めば、すべては望みどおりにうまくいくだろう。
何か、こういう考え方をする女性は、根本から好きになれないです。
そして、このようなイヤな女であればあるほど、戦いにくくて扱いにくいです。向こうは、生まれながらの戦闘民族です。(めちゃくちゃな言われようです)
ロッテはすごいです。
女と女の、みため非常にわかりにくい、笑顔でウフフでありながら、一人の男性の袖を両側から必死で引っ張り合うという、熾烈で激烈な戦いを互角に繰り広げます!
直情的なルイーゼには、とても出来なかったであろうと思われます。
そもそもの間違いはすべて、お父さんが芸術創作のために別の家を借りていることなのです。
一人にならないとだめだ、邪魔されたくないというのはよくわかります。
でも、だから元奧さんも腹を立てるし、邪推もするし、余計なことを考えてしまう。
チョコレートの魔女みたいな女性に、付け入られる隙も出て来るわけです。
離婚してるわけなので、確かに恋愛は自由なのですが、ではルイーゼ(ロッテ)の気持ちは?となるわけで、ロッテはこの女性の目的も、感じ悪さも、一目で気が付きます。
しかもロッテは今までずっと、お母さんのもとで暮らしていたわけですから、そのお母さんのことをもう忘れて考えてなさそうなお父さん、これはムカつくのも当然です!
しかしロッテはそこで泣いたりわめいたりはしません。
家を整え、家計を握って(家政婦さんはズルでいいかげんでした)、家をお父さんが帰ってきやすい、気持ちのよい場所に仕立て上げます。
「わたしお父さんからピアノ習いたい♡」←うまくお父さんが自宅ですごす時間を増やします!
(ルイーゼはどんなに引っ張っていっても、ピアノの前に座ることすら無理だったようです…すごくうちの子っぽいです…)
魔女はこの効果も、意図もすぐに見抜きます!
あしたのジョーも真っ青の激しいジャブの応戦です。
そしてロッテが女の戦いを繰り広げている間、ルイーゼは教室の嫌な子供を1日に4回ぶんなぐっています。
◇
お父さんといえば別宅でこの調子です。
ルートヴィヒさんは、音符を書いていた五線譜をわきにどけて、イレーネさんとおしゃべりをしている。
はじめのうち、しばらくはいらいらした。ふいにやってきて、仕事のじゃまをする人には、なんとしてもがまんがならないからだ。けれども、このうつくしい女性といっしょにいて、なにかのはずみでその手にさわったりするというのは、じつにいい気分だ。そういういい気分のほうが、だんだんとまさってくる。
このとおり、別宅がよくないのです。
しかし、そこにルイーゼのふりをしたロッテが現れます!
「こんにちは、お父さん。新しいお花を持ってきたの」
そしてロッテ、すごいです!
花をテーブルにいけ、ティーカップをもってきてミルクとお砂糖をすすめ、お客さまとしてイレーネさんを扱います。
つまり、イレーネさんに対し、お前は客であって、この家のものではない、よそものだ、という扱いをお父さんの目の前でみせつけているわけです。
その様子といえば、「まさに主婦だ」と書かれています。
まあ、今までお母さんの代わりに主婦をやっていたわけですから、お茶を入れてサーブするのも、そのしぐさたるや、いちいち堂に入っています。
それに鼻の下をのばすお父さん。
これはまさに、妻と浮気相手の戦いです!
さらにダメ押しをするロッテです。
すべての元凶が別宅にあることを鋭く見抜き、今ルイーゼ(ロッテ)が住んでいるのと同じマンションの、ひとりの芸術家と部屋を取り替える提案を持ち掛けます。そうすれば、同じ家に住めるわけですし、何の問題もない…。
しかも彼女の目の前でこの提案!
笑顔を浮かべながら、ちょっとすがるような目で見上げながら…。どうかしら?みたいな感じで…。
「なんていやな子でしょう」と、ゲルラッハさんは考える。なぜなら、ゲルラッハさんも女なので、この子がなにをたくらんでいるか、ぴんときたのだ。
手に汗握る戦いです…。
妹子はといえば、このあたりでは魔女のイヤさに気分が悪くなってしまい、もう考えるのもイヤだといった調子で、もう一度「ふたりのロッテ読めないスランプ」にかかってしまいました…。
ルイーゼタイプのこの子には、「ロッテと魔女の、女と女のウフフな笑顔で熾烈な戦い」はキツすぎるようでした。
まあ、気持ちはわかります。
というのも、この熾烈な女の戦いがハラハラしてみていられないぐらいなのに、あんぽんたんのお父さん(男性なんてだいたい、こういう時には完全なるあんぽんたんなものです)、さっぱりダメ男です!
お父さんに話が通じないロッテは悲しみの涙を宿し、それをお父さんも見て胸を痛めるのですが…。
この子どもの悲しみを、お父さん、芸術活動に転嫁します!さ、最低!
子どもの涙は、なんと役に立つことか!そう、芸術家なら利用しない手はない!パルフィーさんは、すぐにも五線譜を持ってきて、音符を書くだろう。書き終われば、おおいに満足してうしろにもたれ、両手をこするだろう。なにしろ、こんなにうつくしい、ハ短調んの悲しい歌が書けたのだから。(大男でもだれでもいいのだが、ときどきパルフィーさんのお尻をひっぱたいでくれる人がいないものだろうか)
というわけで、私がくそだと思い、ぶんなぐりたいなと思ったのは、チョコレートの魔女よりも何よりも、お父さんの方なのでした。
(次で終了です)
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