今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
ボクサー志望のマッツ、貧しくも秀才のマルティン、おくびょうなウーリ、詩人ジョニー、クールなゼバスティアーン。個性ゆたかな少年たちそれぞれの悩み、悲しみ、そしてあこがれ。寄宿学校に涙と笑いのクリスマスがやってきます。(「BOOK」データベースより)
昭和期の少女漫画全盛期時代、文化としての漫画界をけん引した「花の24年組」
みんな(たぶん)大好き、ドイツのギムナジウム。
これは間違いなくケストナーの影響です!
(とわたしは信じています)
それもこれも、ぜんぶこのケストナーの「飛ぶ教室」
この世界感がステキすぎるのが元凶。
(ヘッセの世界感ももちろんあるでしょうけど……)
「飛ぶ教室」は、児童文学雑誌の題名にもなり、今も版を重ねています。
◇
この素晴らしき初期の少女漫画の世界、瑞々しい少年たちの友情と愛を描いた、いわば「ギムナジウム系作品」はケストナーの「飛ぶ教室」の二次創作と言ってしまうと間違いなく言い過ぎ(&炎上案件)なのですが、エッセンスはここに詰まっています。
名作を生み出したたくさんの少女漫画家たちが、素晴らしい文化の担い手たちがみんな、この男子たちに心ときめかせ、ギムナジウム系漫画を生み出してきたのです!
たぶん。
わたしのまずい言い方よりも、こちらのサイトがとてもよく説明されているのですが
児童文学は子どもたちを勇気づけるために書かれた物語です。
ですから、子どもの頃に面白い児童文学に巡り会う事はとても幸せな事です。
ですが、優れた児童文学は「大人が読んでも」十二分に面白い物語です。
児童文学は決して「子ども向けの小説」ではなく、「純化された物語」なのです。
そして優れた物語は、何度読んでも「面白く」、何度読んでも「新しい発見」があるのです。
純化された物語というのがとてもすてきだなと思いました。
◇
そんなこんなで、昭和の文化圏にあまりにも影響力が大であった、ケストナーの児童文学の傑作です。
おそらく、日本の閉鎖的な学校空間にピッタリとマッチしたからではないかと思います。
女子たちにとっては、謎である「男子校」という存在を紐解き、中身はけっこう、バンカラ(死語)な学校同士のグループの決闘や対決という要素もあり、繊細で美しい友情もありと、男女どちらの子どもにもいける作品です。
少女漫画のギムナジウム作品は若干、女性の夢が入っているなと思うこともあるので……。
思うに、花のギムナジウム作品の繊細な美しさも、
少年の観点も少女の観点も完璧に網羅しており、つまり、パーフェクトです。
◇
池田香代子さんの訳も大好きなのですが、レアなので、ここは高橋健二さんの訳でご紹介します。
随分、長い長い前置きですが、ここで本を開いてみるとまた、作者によるながいながい「まえがき」があります。
まえがきかよ~。
飛ばしてもいいかな、と思いながら読み始めるのですが、(実際、子供のときは飛ばして読みましたし、妹子も飛ばしました)このまえがき、けっこう重要です。
これはおとなになったからでしょうか。
みるみる、引き込まれていきます。
子供で読んだときには、あまりにも本編がおもしろく好きなので、あとになって何度も読み返してるうちに、まえがきも読んでやるか…という気分になって読んだ、そんな記憶があります。
作者が、このお話を書こうとして悪戦苦闘しているという前書きです。
クリスマスのお話なので、雪のある場所に行こうというのですが、その中で、こんな記述が出てきます。
ちょっと長いですが、引用します。
私は、ある著者からおくられた子どもの本を取って、読みましたが、まもなくわきへおきました。ひどく腹がたったのです!なぜだか、言いましょう。その著者は、自分の本を読む子どもたちをだまして、はじめからおわりまでおもしろがらせ、楽しさで夢中にさせようとします。このずるい作者は、子どもというものが、極上のお菓子のこね粉でできてでもいるようにやるのです。
どうしておとなはそんなに自分の子どものころをすっかり忘れることができるのでしょう?そして、子どもは時にはずいぶん悲しく不幸になるものだということが、どうしてぜんぜんわからなくなってしまうのでしょう?(この機会に私はみなさんに心の底からお願いします。みなさんの子どものころを決して忘れないように!と。それを約束してくれますか、ちかって?)
つまり、人形をこわしたからと言って泣くか、すこし大きくなってから友だちをなくしたからと言って泣くか、それはどっちでも同じことです。この人生では、なんで悲しむかということは決して問題でなく、どんなに悲しむかということだけが問題です。子どもの涙は決しておとなの涙より小さいものではなく、おとなの涙より重いことだって、めずらしくありません。ごかいしないでください、みなさん!私たちは何も不必要に涙もろくなろうとは思いません。私はただ、つらい時でも、正直でなければならないと言うのです。骨のずいまで正直で。
この「骨の髄まで正直で」ということば。
これは、たとえどんな創作をする人も、絵を描く人も、漫画を描く人も、何らかの創作活動を行うひとはすべて、頭に入れておかなければならないことではないのかな、と思います。
そして、創作をしなくても、生きていく上でどこか自分の中に持っておかなければならないことばなのではないかな、と思いました。
◇
さまざまな多様性をうたう物語をよく見かけるのですが、結局、「予定調和で仲良くなって終わる」「理解しあう」結末を迎えることがよくあります。
子ども向けだから。
そういう、たくさんの価値観を受け入れる大人になって欲しいから。
それは、「子供にとってほんとうの物語」なのだろうか?
または「理解し、肯定してくれた人だけが自分のとっての善で、そうでない人は関わらないように生きていく」をよしとする結末。
それは、自分にとって「ほんとうの物語」だろうか?
◇
ケストナーの本に書かれていますが、誰だって子供の本を読むとき、その子供の涙を見る時には、自分の中の子供が涙を流すのを見るのです。
本当は人に、こども、おとなの区別なんてないのかもしれません。
経験を得たか、得ないかという時間の差があるだけで。
その悲しみにも、感情にも、優劣をつけることはできないのかもしれないと、このまえがきを読んで強く感じました。
もう一度、
骨の髄まで正直で
という言葉を、顧みないといけないと思いました。
いきなりまえがきの感想が長くなりましたが、ここから妹子に読んでもらうまでのすったもんだがまた長いです。
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新訳 飛ぶ教室 (角川つばさ文庫)
エーリヒ・ケストナー (著), patty (イラスト), 那須田 淳 (翻訳), 木本 栄 (翻訳)
なやみをうちあけられる人はいますか?絵60点、世界中がわらい泣いた名作。子どもの涙がおとなの涙より小さいなんてことはない。寄宿学校でくらす優等生マーティン、すて子のジョニー、けんかの強いマチアス、弱虫ウリー、皮肉なセバスチャンらの友情をえがく、クリスマスの名作。
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おばあちゃんをたずねる途中の列車で,大切なお金を盗られてしまったエーミール.ベルリンの街を舞台に,少年たちが知恵をあわせて犯人をつかまえる大騒動がくりひろげられます.
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お金持ちの両親の目を盗んで夜おそく街角でマッチ売りをするおちゃめな点子ちゃんと、貧しいアントン少年―つぎつぎと思いがけない展開で、ケストナーがすべての人たちをあたたかく描きながらユーモラスに人生を語る物語。
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おたがいを知らずに別々の町で育った、ふたごの姉妹ルイーゼとロッテ。ある夏、スイスの林間学校で、ふたりは偶然に出会います。ふたりは、大胆な計画をたてるのですが…。
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少しも成果のあがらない人間の会議をみておこった動物たちが,世界平和のために一大会議をひらきます.
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五月三十五日 ケストナー少年文学全集(5) (日本語) 単行本 - 1962/6/16 ケストナー (著), ワルター・トリヤー (イラスト), 高橋 健二 (翻訳)
『五月三十五日』は元気いっぱいの少年と子供の心を忘れないおじさんが、ローラースケートを履いたお馬と一緒にいろいろな世界を冒険するお話。 ファンタジックで愉快なお話の間にケストナーらしいユーモアとアイロニーも顔を覗かせています。 読んでいて胸のあたりがじわりと温かくなるような彼の作風が好きです。
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冬の終わりのその朝、1人の少年が死んだ。トーマ・ヴェルナー。そして、ユーリに残された1通の手紙。「これがぼくの愛、これがぼくの心臓の音」。信仰の暗い淵でもがくユーリ、父とユーリへの想いを秘めるオスカー、トーマに生き写しの転入生エーリク……。透明な季節を過ごすギムナジウムの少年たちに投げかけられた愛と試練と恩籠。今もなお光彩を放ち続ける萩尾望都初期の大傑作。
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――ぼくを満たしてくれるものは、あのあつい肌と肌とのふれあい――。妖しい魅力を纏った少年、ジルベール・コクトーは抱かれることでしか心満たされず、威厳あるラコンブラード学院においても退廃的な生活を送っていた。
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