閑話 少年少女向けの「世界探検紀行集」が心底恐ろしかった件について
閑話です。
あかほんがずらりとならぶ黒だんす
妹子が俳句を詠んでくれました。当時ハマっていたのです。
ここでいう赤本とは少年少女文学全集のことです。
昔、本当に大好きでヒマさえあれば開いていたので、大人になってから大枚をはたいて買い集めました。
何気なく裏を見ると、えらい人の名前が列挙されています。
説明には、「子供用だからといって内容を省略することはしなかった」とありました。
ガチです。
この容赦のなさがすごいです。
やっぱり、考えること違うわ~。怖いわ~。
わたしの古典や海外文学好きは間違いなくここが原点でした。
まだ読みきれていないものがたくさんあるので、読まないと死ねない気がします。
◇
そこで考えました。
私「兄助、本棚の、その赤本のから母が読んでなさそうな本一冊取ってくれ(無茶ぶり)」
兄「う~ん。なんかぜんぶ読んでそうだな」
一冊くれました。
ほんとに読んでないし、手に取らなさそうな奴だな!
まず間違いなく、読んでいない別の本を手に取るでしょう。硬派すぎます。
マッターホルン登はん物語とか。
(あっシュリーマン入ってる)
このチョイスの仕方は面白かったです。
完全・他人まかせ!
◇
不覚にも泣いてしまいました。
「南極探検物語」
アムンゼンに負けたスコットの話の方でした。
スコットが大好きになってしまいました。
◇
この本、1956版です。いちおう50年過ぎてるので、多少の写真での紹介はお許しください。
検索してみても、中野好夫の「南極探検物語」を読めるのは、国立国会図書館貯蔵のこの世界少年少女文学全集の赤本でしかありませんでした!(主張)
アムンゼンはひたすら南極点到達のみを目的とし、まい進した。スコットは到達と南極の研究、二束のわらじが致命傷だった…。だがその人柄、研究のすばらしい成果は評価されるべき。一人一人隊員が死んでいく悲痛な記録、彼はテントの中で仲間と横たわった姿で発見された…。
これは大人が読む本では??
少年少女の誰が読むの???
スコットの日記を的確に要所要所、正確に紹介していてすごいです。(凍傷がどういう風に進んでいくのかよくわかります。)
川端康成先生、子供への期待が高すぎ!はっきりいってちょっと重いです!
しかし確かに、面白い!
・・・大人に。
◇
おつぎは、シュリーマンの伝記です。
シュリーマンは伝記を読んだことがあります。小さい頃からの夢をかなえ、トロイア遺跡を発見したというドラマチックなエピソードは、子供(つまり私)にも非常にウケがよく、よく覚えています。
まあ、うんうん、こんな話だったね、とは思うのですが。
ご覧ください。
シュリーマンの外国語勉強法です!
最初は英語。
とても参考になるとは思えないほどのあふれるパワーとやる気です。
しかも極貧生活のなかです!
この「外国語をたやすくおぼえる方法」
シュリーマン!!おめーにしかぜってー、できねーから!!!
と思いました。(口が悪くてごめんなさい)
◇
真打ちです。
一見してマジかよ誰が読むのか、と思った「マッターホルン登はん物語」。
やばい。
マジでやばい。
いわゆる速読、昔はななめ読みと呼ばれていましたが、私はわりとこの読み方をします。
すべてをじっくり読みながらかみ砕いて読んで行くよりも、向いてるか向いてないか、また読み返したいかそうでないかを試しながらさーっと目を運んでいくのです。
やばいです。
速読のおかげで3分後にはもう登っているのですが、ここで釘付けになりました。もう速読できません。文字を拾うしかないです。なぜならば。
落ちた。
主人公が落ちた!
マッターホルンから。
あっちこっちにぶつかりながら転げ落ちていく様子が、ものすごく詳細に描写されます。一人称なので「わたしは岩にぶっつかりました」という感じなのですが、「ぶっつかりました」は数えてみると4回も出ました。結局、なんとかかろうじて岩にしがみつき、止まったのですが…。
「四メートルほど下にあった岩にぶっつかりました」
「七十メートルばかりのあいだを七、八へん投げとばされながら」
「二八〇メートルばかり一気に投げ飛ばされていたでしょう」
どうやってその距離測っとんねん!
はっ、もしかしたら今気づいたけど翻訳なのでヤードとかの距離をきちんとメートル法になおした結果、こういう表現になってしまったのだろうか。
とにかくすごくたくさん、ながいことおちた。
血もだらだらと出ています。「噴き出して止まらない」そうです。もうやばすぎる。雪を押し付けて止血をします。もちろん自分で。
どうなるのか目が離せません。
次は落石。
石なだれだーーー!!!
急に頭の上で音がしましたので、上を見あげますと、三十センチもあるような大きな岩が、わたしの頭の上へまっすぐに落ちてくるのが見えました。わたしがあわてて首をちぢめて、安全な岩かげへはいこみますと、同時に、はげしいうなりをたてて、岩がとび去っていきました。これは岩なだれのまえぶれでした。
頭すれすれを落ちてきて下で砕け、硫黄の匂いがぷんと鼻をつく……。
リアルすぎてこわすぎる。今このとき、登ってるみたいにこわいです。
スリリングすぎです。手に汗握ります。
マッターホルン、下山………。
嫌な予感はしていたんですよね。
だって章のタイトルが「悲劇の下山」ですよ。
嫌な予感しかしない。
そもそも、この探検本、最初が死亡確定のスコットだったし。少年少女なら生きて戻ったアムンゼンを選べよ!
(でもそこであえて選択されたスコット…ものすごく良かったです)
ほらやっぱり下山で死んだ!
仲間が落ちて死んだ!それもたくさん!!
ちょっと足をすべらせて、一人が一人にたおれかかったのが運のつきで、巻き込まれて次々に転がり落ちていきます。
もう本当にやばいです。
ちょっといやな汗をかいてしまいました。
あとで死体を回収にいき、ロープを調べます。
下の方の人たちはきちんとしたロープで体をつないでいた。しかし、途中で一か所、なぜか古いロープを使っていたのです。そこで切れたのです…。
見つかった死体もありますが、見つからなかった人もいいます。
さすが川端康成大先生の責任編集の名を冠するはずだった。
はんぱなく手を抜いてません。
こどもに現実を教えたい、という気持ちはわかる、わかるんだよー!!
探検とは、華々しいだけではありませんよね。
危険と隣り合わせで命をかけて行うものなんですよね。
気持ちは、気持ちはわかるんだけどね!!
しかも微妙に子供向きなので、すごく難しすぎずかみ砕いて頭に入るようにしている部分もあって、怖さがわかりやすすぎて余計に怖い!!
◇
これでまだ、「南極探検物語」「シュリーマン」「マッターホルン」しか読んでいないのですが、やめられる気がしません。
まだアラビアのロレンスを残してますけど、大丈夫なのかな?
映画もまだ見ていないのですが、ロレンス死ぬのかな?
(すっかり悲観的になって心の準備をしています)
ぜんぜん、英雄的冒険譚である気がしません。
北極漂流探検記も「漂流」っていう題名に嫌な予感しかしないです。
しかしもう読みたくて仕方ない!
◇
追記:
「マッターホルン登はん物語」の作者、ウィンパーのWikiのページ
こちらは岩波文庫で「アルプス登攀記」としてあるみたいです。訳者は浦松佐美太郎さん。わたしの読んだのは近藤等さんです。たくさん山岳系の話を訳されているみたいです。
↓こちらはこの記事の続きです
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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