今日の一冊「スザンナのお人形・ビロードうさぎ」
今日、ご紹介するのは、かなりしっかりしたページ数の多い、「本型の絵本」です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
ごうじょうでごめんなさいが言えずだいじなお人形を手放すことになったスザンナのお話と、ほんとうのなみだをながしたビロードの子うさぎの物語。おもちゃと子どもとの愛情をえがいたあたたかい絵本。
この一冊には二つお話が入っていますが。「スザンナのお人形」も、「ビロードうさぎ」もどちらも、単独であってもまったく力を失わない、とても印象的なお話でした。
この二つには共通点があって、どちらも子どものおもちゃを題材にしている、ということです。
子供時代を彩る大切な思い出のおもちゃ、ぬいぐるみ…。
その中にも、「特別な一つ」が必ずあるはずです。
フランスでは、子どもの手放せないおもちゃやぬいぐるみ、毛布のことをDoudou(ドゥドゥ)と言うらしく、最近ちょっとファッションっぽく紹介されたりしています。
このお話で見る限り、意味合いが少し違うような気もします。
というのは、「特別なひとつであるおもちゃ」を大切に思う心に、国境はなく、どこにでもあることと思うからです。
「スザンナのお人形」
きかんきの強い女の子、スザンナはパパ、ママの言うことをききません。
駄目と言われたのに無視して、花瓶をかたむけて花のにおいをかぎはじめました。
しかも返事が生意気です。
「おこづかい持ってるから買って返すわ」
駄目と言われてるのに、ほら言わんこっちゃない…。
ページをめくれば、すでに花瓶は思いっきり粉々です。
しかしスザンナは謝りません。
この主人公スザンナは、反抗期というよりもともとの性格が頑固みたいです。
お父さんは、多分、ここでひとつ徹底的にやらねばと思ったのでしょう。
何とスザンナのおこづかいでは花瓶を弁償するのに足りないので、スザンナのおもちゃを競売にかけることを提案します!!
お父さんはごめんなさいが言えたら(競売なんて)やめる、と言いますが、スザンナはそんな取引には応じません。
言わされてごめんなさいをいうのも違うでしょうし、かといってそのまま許すというのも違う気がします。
お父さんは競売を実行します。
スザンナはすばらしいおもちゃが次々、ご近所の子どもたちの奪い合いにあい、競り落とされていくのを特に何の感情もなくただ見ています。
これはフランスのお話ですが、なんとなくフランスっぽいなあ、と思います。
プライドが高く、めちゃくちゃ頑固で、動かないとなったらてこでも動きません。
(個人的感想です)
そして、競売に大騒ぎをする子どもたちの姿が、やたらとユーモラスです。
しかし、最後に出してきたとても値段のつきそうのない、ぼろぼろにはげた一つのお人形…(「病気のお人形」なんて紹介されています)
(スザンナはそれを隠していたのですが、乳母が見つけて持ってきたのです!)
スザンナはわっと泣き出して…
スザンナにとって、どんなすばらしいおもちゃも、たった一つのはげてボロボロのお人形と比べられないのです。
そして、お父さんも乳母も競売の進行役のおじさんも、そこを区別はしません。
これは大事なのだから、別にしてあげようね、などという配慮はせず、すべて平等に扱います。
非常な厳しさを感じると共に、ここまで追い詰めなければ自分のしたことに反省する事が出来なかったスザンナの強烈な意思に戦慄したりもするのですが…。
このような頑固さは、子どもは誰しもどこかに持っているので、大人は常に試されていると言えるかもしれません。
「ビロードうさぎ」
ちょっとしたきっかけで、ぼうやの「お気に入り」になったうさぎのぬいぐるみ。
ずっと何をするにしてもぼうやと一緒でした。
うさぎは夜の子ども部屋で、年取ったウマに、愛されたおもちゃは「ほんとうのもの」になる、という話を聞きます。
ウマは昔、ぼうやのおじいさんが「ほんとうのもの」にしてくれたのでした。
ぼうやに可愛がられて、ほんもののうさぎになったつもりでいたうさぎが、庭にいたときに本物の生きたリアルうさぎに会って、つくりものだ!と言われたときは、読んでいるこちらもつらいです。
でも、ぼうやとの絆があればいいのではないか?と思います。
しかし、ある日ぼうやが重い猩紅熱にかかります…。
「ばい菌の巣ですよ」というお医者さまの一言でうさぎはぼうやの知らないうちに、ゴミ箱に入れて捨てられてしまいました。
ごみ箱の中で、うさぎは悲しみに震えます…。
このお話は本当に泣けるお話で、こうして書いてる今でもじわ~っと涙が…。
「ビロードうさぎ」の方は、復刊も別訳も出ており、kindle版ですとよい訳が99円で読めたりしますので、内容を確認するには最適です。
しかも英語版のkindleもありますので、この美しい物語をダブルで楽しめることでしょう。
かなり探したのですが、この「岩波の子どもの本」以外で出展が確認できなかった「スザンナのお人形」の方…。
手元の本にも、「フランスのお話」とだけ書いてあり、原典がわかりません。(石井桃子さんの訳です)
「ビロードうさぎ」にあわせてこの「スザンナのお人形」を出版された当時の編集の方の配慮は、本当にすばらしいなと思います。
(どちらも、一冊ずつにしてもかまわないほどの文字の多さです)
実際に子どもに与えてみると、ちょっとした長く綿密な描写がある「小さな小説」である「ビロードうさぎ」よりも、「わがままなスザンナ」の方が話が面白く、競売のてんやわんやの大騒ぎもあって、ぐぐっと話に引き込まれて読んでいきます。
導入として「スザンナ」はたいへんすぐれていますし、この二つを合わせて一つの本にしていた出版社のかたの配慮が実にすばらしいな、と思います。
強情なスザンナの方は、子どもからおもちゃへの愛、ビロードうさぎの方は、おもちゃから子どもへの愛、です。
二つのお話のコラボレーションで、一つの完璧な物語となっています。
わたしもこの一冊、ボロボロになりながらも、ずっと取っておいています。
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