今日、ご紹介するのは絵本です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
おやゆびひめが赤いバラのはなびらをかけてねむっていると、一ぴきのヒキガエルがとびこんできて…。おなじみアンデルセンの名作を同じデンマークのイラストレーター、オットーが美しい絵で飾った。
デンマークの挿し絵画家、スヴェン・オットーさんの絵が、とても綺麗で異国情緒にあふれています。
アンデルセンに忠実に、とても詳しく訳されているので、割と長いです。
基本の名作絵本などの簡易バージョンで知った後に、この本を読んでもらえれば、長くても大筋がわかっているからがあまり抵抗なく入ってくれることでしょう。
お子さんがたは、
「あーそれ知ってる(ドヤ顔)」
というのがよくあります。
しかし、翻訳の妙や抄訳の有無によって、また読んだ年齢にもよって、全然違うように思えるものなのだよ!諸君!
◇
そしておとなとして読んでみると、これは…。
現実の世界そのままとは言いませんが、世間のあちこちでよく聞く話がそこかしこに盛り込まれているなと思います。
おやゆび姫は、女子の苦難をあらゆる面で一身に背負った存在です。
まずおやゆび姫がお母さんのところからさらわれてしまったのはヒキガエルのせいでした。
けど、ヒキガエル本人がおやゆび姫を奥さんにしようと思って触ったのではなくて、私の息子のお嫁さんにしようと企んだお母さんヒキガエルの仕業です。
息子は言葉すら持っていません。
「クワッ、クワッ、ケケケケー!」というだけです。
企んだのもさらってきたのも閉じ込めておく算段を立てるのも、全てお母さんヒキガエル。
これは単なるマザコンで片付けられるような問題ではなくもっと根深いものを感じます。
ちなみにおやゆび姫は割といつも受け身の立場です。
流されるがまま泣いているおやゆび姫をお魚たちがかわいそうに思って睡蓮のくきをかじって逃がしてくれます。
◇
次にさらわれたのは一匹の大きなコガネムシ。
これもまたなんとも微妙なお話です。
コガネムシは、おやゆび姫をとても可愛いと思ってさらってきたのですけど、姫を見て、周囲の者たちが一斉に悪口を言い始めます。
しかもこの悪口を言っている集団。
①まず若い娘のコガネムシたち
②それから親世代のおばさんコガネムシたち
つまり自分のコミュニティに属していない存在の女性を一族の男子が連れてきたため、総スカンを喰らってしまったわけです。
これは、本当に可愛いかどうかは最早関係ありません。
ここからが問題です。
さらってきたコガネムシは周りが醜い醜いというのでついに自分も醜いと思うようになったというところです。
要は周囲の同調圧力に屈してしまったわけですが、まるで自分に暗示をかけるように本当は自分もそう思っていたかもしれないと思い込むところが恐ろしい。
そしてこの話は一切同調圧力などという言葉は使っていないので、より一層リアルと言うか……、こういう醜さ卑怯な弱さが存在するのを知っておくというのは大切なことなのではないかと思いました。
◇
放浪生活を送るおやゆび姫はのねずみのおばあさんのところに身を寄せます。
イギリスのヴィクトリア朝時代のお話を読んでいると非常によく出てくる三つの存在、それは
独身男性(バチェラー)
付き人(コンパニオン)
家庭教師(ガヴァネス)
バチェラーという言い方はリアリティ番組で非常に有名になりましたが、ガヴァネスはもちろんジェーンエアで有名なアレです。
しかしこの何とも言えない微妙な存在。付き人(コンパニオン)というもの。
召使いよりは身分が高く、それなりに教養もあって、話し相手になったり本を読んであげたり、金持ちの独身女性には必ずといってもいいほどついている存在です。
イギリス文学を読んだのでこのコンパニオンという存在がなんとなく分かるわけですが、はっきり言って子供の頃はなんだかよく分かりませんでした
このコンパニオンというのは、貧乏な親戚の娘などがなる場合も多く、養子になれるかどうかは、いじわるばあさん次第というか…。
そういう感じで、この野ネズミは母親づらして勝手に金持ちのモグラと結婚を決めて強制してきます。
お隣さんのモグラが遊びに来ているうちに、おやゆび姫を好きになってしまい、保護者である野ねずみに先に結婚を申し込み、野ネズミの方がこのいい話を断るなんてありえないと強く結婚を強要した。
そういう話になっています。
◇
さておやゆび姫は嫌なんですけど、そのもぐらのトンネルに死んだ鳥が横たわっていました。
ツバメです。
もぐらはここに来るまで、特に年取ってるとか醜いなどの他に、性格に難は見つからなかったのですが、このつばめを見ると足で蹴って、軽蔑したように悪口を言います。
なので、これはもともとイヤな上に、スーパー減点です。
醜い マイナス5ポイント
死んだものに対して冷酷 マイナス5ポイント
おひさまや青い空にさよならしないといけない マイナス10ポイント
みたいな感じです。
おやゆび姫は献身的な介護で死んでいると思われたツバメを生き返らせます。
ここが非常に長いので、この後の展開が非常に微妙になってきます。
さらに、結婚したくないと今更ながら、野ネズミにギリギリで訴えてみるんですが
「いうことをきかないと、わたしのこの白い歯で、おまえにかみつくよ!」
突然の暴力的脅迫。
元気じゃねえかお前。
この断らない理由というのが、台所と地下室が両方あるとか、とにかく金銭的に恵まれているというのが一番の理由になっています。
◇
ツバメに連れられて逃げ出すシーンはとても美しく開放感に溢れています。
長い旅をしてたどり着いた花園、その花の中に妖精が座っていました。
この花の中から生まれる妖精と言うイメージはボンゼルスのみつばちマーヤにもありましたけど多分西洋では一般的なイメージなのでしょうね。
妖精の王様が結婚を申し込みめでたしめでたしとなるわけですが、羽をもらいます。
これが何とハエの羽なのです。
「一番美しいハエの羽だった」
うーん。スルーしよう。
(当然妹子は騒ぎました)
◇
ここでかわいそうなのはツバメです。
後半ほとんどのドラマを一緒に過ごし、長いことおやゆび姫と一緒にいておやゆび姫を助け助けられ旅をしてずっと一緒にいたのに。
明らかにおやゆび姫が好きなのに。
彼女の幸せのためにぐっと我慢します。
しかし、このおやゆび姫の流され具合と自分の意志のなさ!
アンデルセンは自分でお話を作っているだけグリムよりも人間的で、風刺の意味合いが強いです。
人間世界の微妙なあれこれを眼前に展開された気持ちです。
しかし、スヴェン・オットーの挿し絵は本当に美しいです!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
身をきられるように寒く、暗い、雪の降りしきる街を一人の女の子が歩いていました。足ははだしで、すりきれたエプロンにはマッチの束を抱えて…。冬のデンマークの街の情感を背景に、格調高く描かれたオットーの絵本。
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かぼちゃひこうせんぷっくらこ
レンナート・ヘルシング (著), スベン・オットー (イラスト)
奥田 継夫 (翻訳), 木村 由利子 (翻訳)
2匹の仲良しクマが、不思議な種を見つけ庭に植えたところ、数週間で家以上の大きなかぼちゃができました。家がおしつぶされそうになったため、クマたちはかぼちゃの中に引っ越すことに。 あるとき嵐がきてかぼちゃの家は海に吹き飛ばされ、かぼちゃの家とクマたちの旅が始まります。
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長ぐつをはいたねこ―グリム童話より
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・グリム (著),
ヴィルヘルム・カール・グリム (著), スベン・オットー (イラスト)
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いばらひめ―グリム童話
ヤーコプ・ルートビッヒ・グリム (著)
ヴィルヘルム・カール・グリム (著), スベン・オットー (イラスト)
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白雪ひめと七人のこびと―グリム童話より
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・グリム (著)
ヴィルヘルム・カール・グリム (著), スベン・オットー (イラスト)
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