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今日の一冊
ミシシッピ川沿いの小さな村を舞台に,わんぱくな少年トムが浮浪児ハックを相棒に大活躍するゆかいな冒険物語.因習にとらわれがちな大人たちの思惑をよそに,自然の中で自由にのびのびと生きる子どもたちを描く少年文学の名作.
「トム・ソーヤーの冒険」を、初心に帰って読んでみようかなあという話
このお話は、おばさんがトムの名前を連呼する所から始まります。
そこから、転じて家庭環境がまず大まかに説明されます。
というわけで、トムの家庭環境の基本をご紹介します。
トムを育てているポリーおばさんは、未亡人(多分)で、エイミーという娘がひとりいます。
もう老眼鏡が必要なぐらいの老婦人に描かれているのですけど、このトムのいとこになるエイミーは、まだ結婚してはいませんがかなりおねえさんです。
おばさんは、死んだ妹の子供、甥っ子のトムとシッドを育てています。
妹が亡くなり、何らかの理由でお父さんも亡くなっていると推察されます。
両親への言及はまったくありません。
トムどころか、シッドもですが、親がすでにいないことに対して何の違和感もなく、ゆかいに元気に暮らしています
全編を通して、おじさんの影も形もありませんから、これはおそらくポリーおばさんの夫も早くに亡くなり、おばさんは女手ひとつで十歳のトムとその弟のシッド、それなりに大きくなった娘と、三名を育てているようです。
無茶苦茶大変そうだなあ。
改めて読むと、弟のシッドは片親が違うようなのです。
ここに、異様に二人の心の距離があるわけがあるのでしょうか。
片親が違うというのが、どちらの親が違うのか書かれていないのでわかりません。
◇
子供あるある。
呼んでも呼んでも返事をしない。
ポリーおばさんの独白で、おばさんはこのいたずらっ子のトムがかわいくて仕方なく、誤魔化しで笑わせられてしまうと怒れないが、甘やかすことは本人のためにも自分のためにもよくないと考えていることが語られます。
不思議なことに、子供のときはこのポリーおばさんのことを、超絶ウザい鬼ばばあぐらいに思っていたのですよね。
厳しすぎるし、もっと自由にさせて優しくしてあげればいいのにと。
これが大人になってしまったということなのか。
実際、トムもおばさんが自分を可愛いと思っていることを十分にわかっていて、若干図に乗っている様子があります。
おばさんは甘いぐらいですし、よくやってます。
改めて読むと、トムがこのおばさんの愛情いっぱいに受けてまっすぐ育っていることがわかります。
罰を与えるのも、怒るのも、本当に我が子同様、それ以上に親身になり、愛情をもって接しているからなのだとわかります。
ここがわかっただけでも、読み返してよかったような気分になってきました。
(はやい)
◇
いい文章が出てきました。
トムは、おばさんに怒られてもケロリとすべて忘れてしまいますが、その部分がこんな風に書かれています。
それは、おとなの心配がおとなにおよぼす重苦しさやはげしさよりも、軽くちっぽけな負担だったからじゃない。 新しくて力強い興味が、そんなものをうち負かして、しばらくのあいだ、心の重荷をふるい落としてしまったからだ──
子供の悩みが大人の悩みに比べて軽いかどうかは、その物事が客観的に見て重いかどうかは関係ないのですよね。
子どもの悩みを聞いてみると、なーんだそんなことか、と思いがちですが、これは忘れないようにしたいと思いました。
・ジャムを盗み食いして、おばさんをごまかして逃げ出す。
・学校をサボって泳ぎに行き、シッドの告げ口でバレる。
・逃げ出した先で会った、新参者の少年にガンをつけて口争いから殴り合いの喧嘩に持ち込み、勝利する。
この喧嘩をするときの描写は、フーフー言い合った挙句、突然取っ組み合うねこそっくりです。
そして、「ああ!?」「おお!?」「何ガンくれとんじゃ、おら」という不良の言い合いにもそっくりです。
これはたぶん、全世界共通だった。
3、4ページも使って描写される、会話の掛け合い(ねこたちが毛を逆立ててナ~オ、ナ~オと言い合ってる部分に相当する)の間に、この二人の少年がお互いに
でっかい兄きに云い付ける
ぼくの兄きのほうがずっとでっかい
と言い合う場面が出て来るのですが、ここで作者の注が入り
(ふたりの兄は、どちらも架空の人物だった)
と書いてあるのが面白くていつも好きでした。
トムがこの少年にガンくれて喧嘩にもちこんだのは、相手の少年がこの村で見たことがない顔、つまり新参者だったことと、その服装が妙にぱりっとして「都会的」であり、ちょっと垢ぬけていたからというのが理由でした。
喧嘩に勝利したあと、後ろから石を投げられてカウンターをくらい、家まで追いかけるのですが、ついに親が出てきて怒られるという…。
背中からの石と、親に頼むという卑怯さによって、かろうじて引き分けに持ち込んだ状態の相手の少年です。
◇
この喧嘩のあとは、罰としての「へいぬり」に入りました。
塀のペンキの塗り替えです。
ここはトム・ソーヤというお話の中では非常に有名な部分で、どんな抄訳でも改変されたアニメでも、絶対に入ってくる部分です。
塀のペンキをやりたくないがために、わざとすごく楽しんでやっているように見せかけ、友達たちの注意を引いて、代わりにやらせるという部分です。
このときの、トムが仕掛ける心理的駆け引きがみごとです。
首尾よくひっかかった友達が「ちょっとやらせてみて?」という所ですぐにホイホイ手渡したりせず、「いやいや、これは他人にはとてもやらせられないから」と引っ張ります。
値切りの駆け引きみたいです。
結果、トムは人にやらせるだけでなく、報酬まで獲得するという、まさに「寒い地域の人に冷蔵庫を売る」じゃないですけど、これに匹敵するようなビジネスマンのお手本のような行動です。
ここで、トムの家で使われている奴隷の黒人少年ジムが出てきます。
読んでもらえればわかりますが、本当にただの友達と何ら変わりのない扱いです。
「何らかの理由で雇われている下働きの男の子」という感じです。
おそらく、原書で読めば話し方や状況から、すぐに奴隷の黒人少年とわかるのでしょうが、こちらはそういう文化に馴染みがなく、肌の色も見えませんから、こちらは忘れてしまいます。
ほかの友達と区別がつきません。
◇
妹子「ついにやるんだ」
わたし「そう」
「ついに」って何だよ…。
普通に読んでいたらとんでもなく長くなりそうなのと、トムの機転に満ちたいたずらを全部列挙していると、とんでもない悪ガキにしか見えてこないので、とても印象に残った部分だけを書いていきたいと思います。
(読んでいると、子供の気持ちに帰って、子供目線からだとすごい、天才!とだんだん尊敬する気分になってくるのですが)
読んでいると、マーク・トウェインの文章のうまさに驚かされます。
それともこれは、翻訳がすばらしいのでしょうか?
土曜日の朝がきた。夏げしきは、どこもかしこも、明るく、新鮮で、いきいきとした気分にみたされていた。だれの心にも、歌がわいた。そして、その心が若ければ、その音楽が、くちびるからほとばしり出た。
訳:吉田甲子太郎
SATURDAY morning was come, and all the summer world was bright and fresh, and brimming with life. There was a song in every heart; and if the heart was young the music issued at the lips.
なんて読んでいる間に、トムが「ドーナッツをひとつ、失敬した」と書かれているのですが、わたしもドーナツが食べたくなってしまいました。
この「失敬した」っていう言い方、ずいぶん久しぶりに読んだような気がしますが、わたしはこの言まわしが何だかちょっとユーモラスで楽しくて、好きでした。
よい思い出です。
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ポリー伯母さんに塀塗りを言いつけられたわんぱく小僧のトム・ソーヤー。転んでもタダでは起きぬ彼のこと、いかにも意味ありげに塀を塗ってみせれば皆がぼくにもやらせてとやってきて、林檎も凧もせしめてしまう。海賊ごっこに幽霊屋敷探検の日々を送る中、ある夜親友のハックと墓場に忍び込んだら……殺人事件を目撃! 永遠の少年時代がいきいきと描かれた名作を名翻訳家が新訳。
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ミシシッピ川沿いの小さな村を舞台に,わんぱくな少年トムが浮浪児ハックを相棒に大活躍するゆかいな冒険物語.因習にとらわれがちな大人たちの思惑をよそに,自然の中で自由にのびのびと生きる子どもたちを描く少年文学の名作.
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いつもはちゃめちゃなトムは、宿なしハックを相棒に、毎日いたずらざんまい。そんなある日、真夜中の墓場で事件を目撃してしまって!? 世界中があこがれた、冒険と小さな恋の名作が、つばさ文庫に登場!
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トム・ソーヤの冒険 宝さがしに出発だ! (集英社みらい文庫)
マーク・トウェイン (原著), 亀井 俊介 (翻訳), ミギー (イラスト)
トムと胸のすく冒険の旅に出よう!いたずらをしたり、海賊になったり、宝探しをしたり……世界一のわんぱく少年トム・ソーヤが、親友のハックとともに冒険をくりひろげる。ワクワクがとまらない、トムの青春物語。
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トム・ソーヤーの冒険 (新装版) (講談社青い鳥文庫)
マーク・トウェーン (著), にし けいこ (著), 飯島 淳秀 (翻訳)
19世紀のアメリカの田舎町、セント・ピーターズバークを舞台に、わんぱく少年トムは所せましと、いたずらをして、みんなを困らせます。その毎日は冒険でいっぱい。 あるときは、家出をして、ジャクソン島でキャンプをして、あげくのはてに、自分たちの葬式に帰ってきたり、またあるときは、夜中の墓場にしのびこみ、殺人現場を目撃したり……。そして最後には、仲間のハックといっしょに洞窟で財宝を発見!
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今まで知らなかったハックがここにいる。原書オリジナル・イラスト174点収録。柴田元幸がいちばん訳したかったあの名作、ついに翻訳刊行。
公開されている「トム・ソーヤ」英語原文です。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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