大人が読む児童書「ムギと王さま」2 ツンがなくデレもない。媚びてないのでもなくサバサバでもない属性とは。
今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集
大人が読む児童書「ムギと王さま」1 理想的な読書垢にとっての環境とは
27つの短編集「ムギと王さま」の中から、「西ノ森」をご紹介します。
題名の原題は「WESTWOODS」。
「ノ」をはさんで使っている所が最高だといつも思っています。
ファージョンの「ムギと王さま」の中で比較的ロマンチックな作品です。
王様とメイドさんの物語で、ロマンチックではあるんですが、恋物語という感じではありません。
「六月の草の野のよりも かぐわしく
月を見まもる ひとつ星
よりも美しい あなたです。
わたしは わたしの草を思い、
わたしの星を夢みます。
けれども あなたがだれなのか
わたしには つゆほどもわからない。」
この詩を書いたのは、アクセク国の若い王様です。
アーディゾーニの絵がとてもすてきです!
原書だと、なお、雰囲気が出ています。
「The Little Bookroom (English Edition)」
詩を書いているとき、みなしごで孤児院で育った小間使いのシライナがドアを叩きます。
(はじめて気が付きましたけど、セリーナとも読めますね!でも「シライナ」が好きだなあ。)
今だったらメイドという言い方があまりにも浸透してしまったのでメイドっていう風に訳されてしまうのかな。
でもメイドっていう言葉って、 メイド喫茶とかを想像しちゃうじゃないですか。
そっちといっしょにしてほしくないんだな。
「小間使い」 がいいと私は思います。
◇
実用的なことを尊ぶ国です。
王さまを王女さまと結婚させることは、大臣たちの仕事の一つであり、王女さまと結婚するのが、王さまの仕事の一つなのでした。
というのは、新旧関わらず歴史の中では当然です。
戦国時代にハマった今となっては、これ以上ないほどよくわかる話です。
さて王さまはぐずぐず言わずに、候補のリストを提出してもらいます。
「北山国」「南地国」「東沼国」。
「西ノ森国」は、その国堺を超えた者はおらず、妖婆(witches)の住む場所だと噂されているということです。ふうむ。
オズの魔法使いは1900年の作品です。
ファージョンは、1916年に作家として認められたとのことなので、「西の悪い魔女」、また「東西南北四つの国」の漠然としたモチーフがオズの魔法使いから来ていた可能性も、ゼロではないなと思いました。
梨木香歩の名作「西の魔女が死んだ」も、なぜ「西」なのか?というと、これらの作品群のイメージがあることは間違いないです。
「西」にはいったい、何があるのだろう?
日本が「東」にこだわりがあるように、イギリスには「西」に思い入れがあるのでしょうか。
◇
さてこの若いジョン王は、この西を除くみっつの国に王女様に会いに行く前に、禁じられた「西ノ森」に行ってみたくてたまらなくなりました。
王さまのお母さんである女王さまも、そうしたように、この国のすべての母親は、「西ノ森」への危険を信じ、危ないので絶対に行ってはいけないと言って聞かせていました。
この国と「西ノ森国」は、どこまで続くかわからないほど長い塀に隔てられています。
そしてそこには子供達がびっしりと取りついて、好奇心にさいなまれ、何とかしてのぞき見しようとスキをうかがっているのでした。
明日の支度をするために王様が部屋に帰ってみると、なんとシライナが自分の詩を読んでいます。
王さま、何らかの感想か何かを期待しているようなのですが、シライナは「お部屋はかたづいたようだわ」とあっさり出て行ってしまいました。
王さまはかんしゃくをおこして、詩を書いた紙をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に放り込んでしまいました。
あ~~あ。
◇
この小間使いのシライナ、みなしごであるとか、メイドであるとかいう事を抜きにして、めちゃくちゃにそっけない人です。
返事も何だかとんちんかんだし、返事も超短いし、若い王さまのタイミングとして居心地の悪いところをいつも突いてきます。
例えば詩を書き終えた直後に呼びに来たり。
何か頼もうとすると大掃除しないといけないって言ったり。
勝手に人の詩を読んだり。
感想も言わずに出て行ったり。
今風に言えばツンデレと言いたいことなのですが、デレがないですし、ツンというのとも違います。
ぶっきらぼうで率直で、いわばまあ実用的。
ロマンチックなところなんてまるっきりありません。
媚びてないのとも違うし、サバサバとも違う。
ちょっと言い表せない魅力を持った女性です。
◇
王さまは、「西ノ森」に無理やり踏み込みますが、家族がいたり、親から「西ノ森」に入るのを止められた人は誰1人入ろうとしません。
みなしごで、ひとり者の王さまだけが、塀をとびこえ、森のなかに馬を乗り入れていきました。
シライナと同じく、身分は違っても、この王さまも「みなしごでひとり者」なのです。
入ってみた「西ノ森」はがっかりするような景色が広がっていました。
使い物にはならない、ガラクタ、壊れたおもちゃのようなもの、
「やぶれた絵にこわれた人形、おもちゃのお茶道具のかけらにさびついたラッパ、古い鳥かごに色あせた花わ、ちぎれたリボンに、かけて使えなくなったビー玉」
成長の過程で、捨てなければならなかった、子供たちの小さい頃の思い出の品そのものです。
◇
がっかりして戻ってきた王さま、さてここから王女さま探しに出発です。
それぞれの王女さまの前に立たされ、ローズセレモニーでバラ🌹を渡すか渡さないかみたいな儀式になるのですが、何ともうまくいきません。
「北山国」は、物音ひとつ立てない、氷のようにつめたい王女さま。
「南地国」は、眠そうでだるそうで、もったりした感じの王女さま。
「東沼国」がいちばんおもしろいです。
ガサガサした感じの国なのですが、唐突にすごく現代的です。
「短いスカートをはき、髪をふりみだしている若いむすめ」で、ホッケーのメンバーが1人足りないとのことで、王さまを馬から引きずりおろし、無理やりメンバーに加えて、ガチャガチャとしたスポーツに参加させられます。
「かみなりよりもさわがしく、
また塩よりもすさまじい。
人はそれぞれに生まれつくので、
あなたのせいではないけれど
ぼくのこのみはあなたとちがう」
なんて詩を目の前で詠んでしまった王さま。
東沼国の王女さまは「まあ、失礼しちゃうわ!」とわめいて、殴りかかろうとしてくるので、王さまはほうほうのていで逃げ出しました。
◇
これらの王女さまに会いに行って、結婚を申し込むより先に、自分が断ってしまうという所業を繰り返しながら、自分の部屋に帰るたびに、そこにはシライナが待って迎えてくれます。
王さま、あの詩が大事なんだと思います。
あの詩があればうまくいくのだと。
どの国でも、何とか思い出そうとするのですが、口から出るのは「あなたでは嫌だ」みたいな感じの詩ばかりで、どうにもうまくいきません。
それであのごみばこに放り込んだ詩はどうなったのか知りたくて、シライナにそれとなく聞こうとするのですが、ごみ箱のことしか聞かないので、そっけない返事ばかり。
(読んだのだから)覚えてないかと言っても、忙しくてそんなの覚えていられないとの返事。
王さまはそのたびに怒ってしまいます。
◇
詩がないから、うまくいかないんだと愚痴る王様。
何とシライナは、ポケットから取り出しました。
そんならそうと早くおっしゃればいいのに、とか言いながら。
かんかんになる王さまとのシライナとの押し問答。
「なんでそれを持っているのか」
☞「捨てたのはあなたでしょ」
「ゴミ箱にすてたって言ったじゃないか」
☞「そんなこと言ってない」
「何が書いてあるか覚えてないって言ったじゃないか」
☞「暗唱は苦手で本当に覚えてない」
確かに間違ったことは言ってません。
もうちょっと突っ込んで聞くとか正確に効くとかすればよかったのに……。
◇
なぜ持ってたんだ?と聞く王様にシライナは手厳しいです。
「そんなこと、わたしのかってですわ。ほんとに、ごじぶんの作品をあんなふうになさるなんて。」と、シライナはてきびしい調子でいいました。「じぶんの書いたものをだいじにしない人なんか、何もする資格はありませんわ。」
言い合いはまだ続きます。
「君があの詩を好かないからすてたんだ」
☞「好かないなんていってない」
王さま「エッ……?(トゥンク……)」
確かに、シライナは無駄なことは何も言ってないのです。
さて、王さまはシライナをデートに誘い、シライナは「西ノ森国でなら」と答えます。
二人で訪れたとき、そこには前に見たときとは全く違う景色の「西ノ森」が広がっていました。
◇
西ノ森の王女とは──。
そこで見たもの、かつて失われた、素晴らしいものとは───。
という展開になるのですが、何といってもこのお話は、
そこに至るまでの過程の、シライナのそっけなさ、ほかの王女様のすさまじいまでの微妙さ
……が面白いので、何度読んでも飽きない、大好きな作品です。
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竜巻きによってオズ大王の住む魔法の国に運ばれたドロシーは、かかしとブリキの樵と臆病なライオンと共に大冒険をします。完全復刻した124枚のデンスロウの挿絵をそえた決定版です。
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中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
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中学に進んでまもない夏の初めに、学校へ行けなくなったまいは、森で暮らす“西の魔女”のもとで過ごすことに。西の魔女とはまいのママのママ、英国人である大好きなおばあちゃんから、「早寝早起き、食事をいっぱいとって、よく遊ぶ。そして、何でも自分で決めること」の大切さを教わる。まいは戸惑いながらも、料理、掃除、洗濯、庭づくり・・・と、毎日励んでいくが、実はその生活は、“魔女修行”の始まりだった――。
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リンゴ畑のマーティン・ピピン
エリナー ファージョン (著), リチャード・ケネディ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
恋人から引き離されてリンゴ畑の井戸屋形にとじこめられている少女ギリアンを,6人の娘たちが牢番として見張っています.陽気な旅の歌い手マーティン・ピピンは,美しく幻想的な6つの恋物語をくりひろげて娘たちの心を奪い,首尾よく牢屋のかぎを手に入れます.ファージョンが作家としての地位を確立した傑作
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ヒナギク野のマーティン・ピピン
エリナー・ファージョン (著), イズベル;ジョン・モートン=セイル (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)
ファージョン作品集5巻。
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気だてはいいが食いしんぼうの粉屋の娘ドルが、小鬼のたくらみで王さまの妃になりました。妹のポルが銀のシギの助けを借りて、姉の危機を救います。素材は昔話の「トム・ティット・トット」
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デリーが物心ついてからというもの、ジムはいつでも街角のポストのそばに座っています。むかし船乗りだったジムは、デリーにいろんな場所の話をしてくれます…。1965年学研刊の名作をアーディゾーニの挿絵で。
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マローンおばさん
エレノア・ファージョン (著), エドワード アーディゾーニ (イラスト), 阿部 公子 (翻訳), 茨木 啓子 (翻訳)
森のそばで、ひとり貧しく暮らしていたマローンおばさんのもとに、すずめや、ねこや、きつねたちが訪れ、おばさんは、貧しい中から彼らに必ず何かを分け与えた。読み継がれる有名な詩を邦訳して紹介する。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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