~珠玉の児童書~

~珠玉の児童書の世界~

学校で塾で、読解力を身に付けるには本を読め、と言われる。ではいったい、どの本を読めばいいのか?日本が、世界が誇る珠玉の児童書の数々をご紹介。

大人が読む児童書「ムギと王さま」3 時間のむだはカネのむだ。その価値観を覆したのは、たった一つの笑顔とことば

今日、ご紹介するのは児童書です。

 

>力をこめた紹介記事☆超絶☆名作

>今日の一冊 軽くご紹介

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

今日の一冊

 

ムギと王さま
エリナー・ファージョン (著),
エドワード・アーディゾーニ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)

幼い日,本のぎっしりつまった古い小べやでひねもす読みふけった本の思い出―それはエリナー・ファージョンに幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました.みずみずしい感性と空想力で紡ぎだされた,国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集

 

 

大人が読む児童書「ムギと王さま」1 理想的な読書垢にとっての環境とは

2 ツンがなくデレもない。媚びてないのでもなくサバサバでもない属性とは。

 

「しんせつな地主さん」
ちゃんと紹介することができるか不安なのですが、できる限りやってみたいと思います。

 

このお話は、ガリガリのケチなしみったれのロクでもない、金持ちだけど血の涙もない最悪の地主 「ロバート・チャードン」が、怠けるという理由で「作男」ウィリアム・ストウを追い出す場面から始まります。

 

kotobank.jp



「おれの時間をむだにするやつは、おれの金をむだにする」
との言い分で、もうどう考えても同情の余地のない最悪の人種です。

 

この男からひどい目に会わされなかったものは1人もないと言ってもいい、というほどひどい人間です。

 

いかにこの男のやり口が汚いかというのは非常に詳しく書かれてます。

ブラック企業もいいところで最低賃金で時間ギリギリまでこき使い、寄付系のものは全部一切拒否です。

金貸しもしているしこの男をよく言う者は1人もいませんでした……とのことなのですが、この追い出された男。
一瞬だけ捨て台詞を吐きます

「おめえやおめえの身内が、おらに何かたのむことになってみろ……」

 

このチャードンには身内がいなかったのです。
でも別にそんなこと全く気にした事もなかったのですが、この「身内」という一言が、どこかで彼の心に刺さったのでした。

 

このあたりの描写もまたとても美しいのです。
こんなに嫌な男なのに。

 

もし、そのことばが、ときには頭のなかで、よせてはかえす波の頂きにうちあげられた小石のようにうかぶことがなかったら、チャードンは、ボーンマーケットの家畜市にいったときも、ジェイン・フラワーの顔に目をとめなかったでしょう。

 

彼は生まれてはじめて、お金に換えることができないものを欲しいと思いました。

 

一般的に予想通りのお約束の展開としてこのまま行くなら、無慈悲な金持ちの男が貧乏な娘を無理やり嫁にするとかそういう展開だと思います。

 

しかし、このチャードンが目を止めたジェイン・フラワーは、あまりにも純粋で無垢な女性でした。

 

彼女は、最初から最後までチャードンのことを「親切な人間だ」と頭から信じて疑いもしません。

 

「How kind you are!」
というのがその言葉なのですが、チャードンがこんな言葉をかけられるのは、生まれて初めてのことでした。

お金に換えることができないものを欲しいと思ったことも初めてなら、自分のことを親切だという扱いをされたのも初めてだったのです。

 

心からの笑顔を浮かべ、喜んでチャードンの妻になったジェイン・フラワー。
しかし残念ながら、幸せな結婚生活はたったの11ヶ月しか続きませんでした。

 

出産の際に亡くなってしまったのです。
子供は女の子で、やはりジェインと名付けられました。

 

 

この娘がすくすくと育って最初に自分のお父さんのことを「いいおとう」「しんせつ」と呼んだとき、チャードンはその一言を聞くために、あらゆることをする子ようになります。

 

本当はほんの少しのちょっとしたそのあたりの花を摘んでくるだとか、赤い実のなった木の葉を渡すだとか、そんなことからはじまって、ついには、以前なら絶対にしなかったような「しんせつ」をするようになっていきました。

 

このちいさなむすめ「ちいジェイン」のために、チャードンは何でもしてやります。

 

最初に、お金を落として泣いている女の子に、(ちいジェインに言われて)たったの1ペニーをやるという、その行動がいかに大きいものであったか、書かれています。

 

いままでのきまりが、ここでまた一つ、うちくだかれました。なぜなら、金というものは、人にやるために、ためるものではないではありませんか?

 

また別の日には、ホームレスが彼から食べ物や服をもらい、学校の遠足にも寄付をしました。

 

チイジェインは、あらゆる子供たちから好かれましたが、「それはこの子が金持ちの子だからではありませんでした。」

 

誰からも愛されるチイジェインが、村の家々に入りするようになると、あらゆる窮乏をおとうさんに伝えるようになります。


チャードンは、そのすべてを補填してやるようになっていきます。

 

 

彼は娘の将来の財産であるということをよく知っていましたから、本当は出したくなかったのです。
この無駄な(とこれまで思っていた)出費を、今までの生き方に反して出すこと、この行動そのものが、家計というよりも、彼自身を内部から苦しめるようになりました。

 

「人間は、じぶんの子どもを、第一に考えにゃいかんのじゃないか?チイジェインの将来を、安全にしておかにゃいかんのじゃないか?」

 

しかし今まで、この母親のジェイン、またむすめのチイジェインを喜ばせようとする生き方は、「彼の頭に──あるいは心に──きてしまった」ので、もう変えることはできなくなっていました。

 

心配のあまり彼は次第に体を壊して行きます。

 

でもそれを誰にも言わず、不安そうな顔をしたまま、彼は際限なく人に与え続けました。

 

彼の財産と貯金が減っていく行けば行くほど、村はどんどん豊かになっていきました。
ついにチャードンは、持ち家も、店も持ち株もすべて売り払い、小さな小屋で住むような生活になります。

(この時期に、孤児院は、チイジェインが孤児になったときののためか、莫大な寄付金を受け取っています)

 

 

しかしこうなって初めて、彼の心からはついに心配が拭い去られました。

 

もういまでは、チイジェインのためにしがみつくべき一ペニーの金もありません。そこで、チイジェインの将来を思いやるとき、神にたよるほかないのだということを、チャードンはさとりました。そうさとったとき、人間の心は苦しみからすくわれます。

 

貧乏になったふたりの生活は素朴ですが楽しいものでした。

 

村の人々は、みんな二人の世話を焼きたがり、名前で呼ぶようになりました。

そして一年たって、チャードンが死んだとき……。
チイジェインほど貧しい境遇に置かれた子どもはいないのだということが、村のみんなに知れ渡るのでした──。

 

最初に孤児院という単語が出た時、烈火のごとく怒りだしたのは、ウィリアム・ストウでした。

この人は、冒頭でいちばん最初に、チャードンに追い出されたエピソードを持つ作男です。

 

「ボッブ・チャードンのむすめを、孤児院にやるんだと?」と、ウィルはさけびました。「いいや、おらのむすめも孤児院にいくようになるまで、チイジェインはやらねえ!チイジェインは、おらの家へやってきたんだ。これからも、このまま、いていいんだ。そんなことは、二度と考えたくねえな」

 

あらゆる人がチイジェインを引き取るといって聞きません。
すべての家が、チャードンに何らかの世話になっていました。
あれもしてくれた、これもしてくれた……、と、思い出さない家は一軒もありませんでした。

 

そして、誰ひとりゆずらなかったので、五十二軒の家が、みんなでチイジェインの面倒を見ることになりました。

 

チイジェインはうれしそうに、一けんから一けんへとうつって歩き、どの家にいっても、じぶんのおとうちゃんが、世界じゅうで一ばんしんせつな人として、うわさされるのをききました。

 

 

あらためて読んで心が洗われる気持ちでした。

 

キリスト教圏のお話を読んでいると、「聖書に書かれている」と書いてるのを読むことがありますが、
お金持ちが天国に入るのは最も難しい、とか、神の国にすべてを寄付しなさい、などなどのことばがあります。


でもそれは組織を維持するために宗教団体が壷を売るみたいに、利益を吸いあげようとする言葉なのではなくて、(そういう風に、現実ではなっているのでしょうが)聖書の言いたいこと、その究極の意味は、この話に凝縮されていると思います。

 

努力をしなくなるから、甘えてしまうから。

政府がするセーフティネットですら、そんな風に考えられがちです。

食い物にされている慈善事業や、上から目線で施しをすると言う考え方そのものに潜む優越思想のような危険だってあります。

 

このお話は、これほど、聖書のことばを体現しているような物語でありながら、宗教色が薄いのも特徴です。

 

このお話は、金持ちで無慈悲な男が、ふと気まぐれで「この人にだけは、いい人だと思われたい」というたった1つの見栄から始まりました。

大事なのは、チャードンがその見栄を、ついには命をかけ、全財産をかけて、貫き通したところにあります。

 

あくまで人としての生活の中のお話であることで、よりいっそうその行動の意味が純化されて読み手の心に届きます。

 

チャードンのいわば転身、所業を悔い改めたのは、「神様にそう言われたから」でないのです。

 

寄付や施しというものは、貧乏人には甘えのもとであり、金持ちにとっては偽善であって、このお話はひとつの理想的に過ぎる話であって現実ではないと。

そんな風に思う心を越えた所にある物語です。

 

けれども、つまりは、チャードンは、村全体をチイジェインに残したのだと、いえるかもしれません。村じゅうのどの屋根も、どの炉ばたも、みなチイジェインのものだったのですから。

 

 

 

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The Little Bookroom (English Edition)
英語版 Eleanor Farjeon (著), Edward Ardizzone (イラスト)

A girl sits in a dusty room, crammed to the rafters with books. Sunlight dances on the covers, between which are stories of magical worlds and faraway places, lands of princesses, kings, giants, and real children too. Eleanor Farjeon was that girl, who was so enchanted by her little bookroom that she recreated it by writing this wonderful collection of short stories

 

 

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マローンおばさん
エレノア・ファージョン (著), エドワード アーディゾーニ (イラスト), 阿部 公子 (翻訳), 茨木 啓子 (翻訳)

森のそばで、ひとり貧しく暮らしていたマローンおばさんのもとに、すずめや、ねこや、きつねたちが訪れ、おばさんは、貧しい中から彼らに必ず何かを分け与えた。読み継がれる有名な詩を邦訳して紹介する。

 

 

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リンゴ畑のマーティン・ピピン
エリナー ファージョン (著), リチャード・ケネディ (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)

恋人から引き離されてリンゴ畑の井戸屋形にとじこめられている少女ギリアンを,6人の娘たちが牢番として見張っています.陽気な旅の歌い手マーティン・ピピンは,美しく幻想的な6つの恋物語をくりひろげて娘たちの心を奪い,首尾よく牢屋のかぎを手に入れます.ファージョンが作家としての地位を確立した傑作

 

 

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ヒナギク野のマーティン・ピピン
エリナー・ファージョン (著), イズベル;ジョン・モートン=セイル (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)

ファージョン作品集5巻。

 

 

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銀のシギ
エリナー・ファージョン (著), E・H・シェパード (イラスト), 石井 桃子 (翻訳)

気だてはいいが食いしんぼうの粉屋の娘ドルが、小鬼のたくらみで王さまの妃になりました。妹のポルが銀のシギの助けを借りて、姉の危機を救います。素材は昔話の「トム・ティット・トット

 

 

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町かどのジム
エリノア ファージョン (著), エドワード アーディゾーニ (イラスト), 松岡 享子 (翻訳)

デリーが物心ついてからというもの、ジムはいつでも街角のポストのそばに座っています。むかし船乗りだったジムは、デリーにいろんな場所の話をしてくれます…。1965年学研刊の名作をアーディゾーニの挿絵で。

 

 

 

 

「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492

 

プロジェクト・グーテンベルクについて
Wikiの説明ページ

プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館

 

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