大人が読む児童書「山のむこうは青い海だった」 4 たとえコロナの時代であっても、心に旅を
今日、ご紹介するのは児童書です。
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今日の一冊
ピンクちゃんとあだなをつけられた気の弱い少年次郎が、尊敬する高杉晋作にならい、決心して一人旅に出かける。軽快なテンポのユーモアで’60年代を代表する児童文学の名作。再刊。(「MARC」データベースより)
大人が読む児童書「山のむこうは青い海だった」 1 児童書は「その時代の子供の物語でなければならない」ということはない
2 1000円があったら何がしたい?往復切符を買って、行ったことのない場所へ
次郎が、お母さんにも言わず、この旅をしようと思ったきっかけ。
「はずかしがりやのピンクちゃん」というあだ名を返上したかった理由のほかにもう一つ、井山先生が話してくれた高杉晋作のエピソードがきっかけになっています。
次郎はこのことを昭代ちゃんのお父さんにも話し、高杉晋作の伝記を貸してもらったりしています。
今江祥智さんは高杉晋作推しに違いありません。
おもしろきこともなき世におもしろくすみなすものは心なりけり
の辞世の句もちゃんと紹介されています。
高杉晋作のエピソードは三つほど披露されていますが、どれも、今江祥智さんの再話の語り口がおもしろく、私もこれで高杉晋作にすごく興味を持って調べてみたりしました。
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次郎が高杉晋作の伝記(大人向け)を四苦八苦して読んでいる横で、昭代ちゃんは「夜は千の目を持つ」というミステリ本を読んでいます。
調べてみたら、今でも読まれている名作のようです。面白そう!
昭代ちゃんのお父さんが次郎くんに貸してくれた高杉晋作の伝記は横山剣道という人の書いたものらしく、多分これのことではないかな?と思います。(えらい値段なので、探すとしたら図書館ですね)
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悪役がわのチンピラ少年、五郎太が心を変える(?)きっかけになるイブ・モンタンのエピソードも心にすごく残っています。
青い大きな海の前、潮風の中で笑う男、長い労働の日日がきざみつけられた深いしわ、まじめで暖かい眼、人生のどんな苦しみでもかみくだく健康な歯をもち、どんな重荷でもらくらくと運べるがっしりしたのっぽの男。
長新太さんの絵が素晴らしく、実際のイヴ・モンタンは実はその後も良く知らないまま、ここまで来ているのですが、このフレーズとこの絵はいつまでも心に残っています。
それから、谷川俊太郎のこと、「若い詩人」て書いています~!
──<青空をみつめていると
ぼくにはかえるところがあるような気がする……>
「62のソネット」に入っている詩だそうです。(リンクを貼ったのは二か国語版です)
このように、 この「山のむこうは青い海だった」 という作品には、 子供たちへ向けたたくさんの「気づき」への導きがあります。それも物語に完全にとけこんでいて、実に自然です。
ビリー・ザ・キッド、ジャンヌ・ダルクについてもありました。
「中学生になったばかりの新1年生」ぐらいの子どもたちに、そろそろ長めのお話、小説を読むことになれてもらいたい。という、明確な意図をもって描かれた作品のように思います。
昭和期の珠玉の児童書を書かれた児童文学作家さんはみな、すべてそうだと思います。
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わたし「妹子さんもしかして読み返してる!?」
妹子「だって肝試しのところ好きだったんだもん。墓石を倒すのがすごく好き」
そこは倫理的にどうかと思ってあえて言わなかったんだけど、やっぱり好きだよね。私も好きだもん。岡田くん超かっこいい。
このあたりで、6人のチンピラが登場しています。
わたし「悪役だけどね」
妹子「わたし悪役すきよ」
チンピラさんたちは、やくざという言葉を使ってません。
物語構成も、ああなったり、こうなったり、大騒ぎあり、さらわれたり、逃げ出したり、大変なことが次々に起きます。
まるで情報の多すぎる映画を観ているようです。
妹子「このお話、すっごい、いろいろつまってるけどパンクしてないんだよね」
◇
後書きで解説しているのは、ゲド戦記の清水真砂子さんだ~!
あんなに読んだはずなのに、そこはわからなかったのか。改めて読んでみて良かった……。
この本の紹介には、昔の誰が言ったのか分かんないような「都合が良すぎる」なんて批判があるらしいですけど、そんなの昔の名作なんて一体どうなっちまうんだよって思います。
小公女なんて成り立ちません。
解説によると、笑わせるポイントを数えた人がいるらしいです。
それによると「『笑い』の描写は七十を超す。」
昔の人もたいがいわけのわからない研究しているな。
グッジョブ!!👍👍👍
笑いといっても、関西のユーモアが実に上品なので、関西圏以外のおこさんにもまったく違和感ありません。
とにかく視点がやさしい!
これは作者の人柄でしょう。
この本を読むといつも新鮮な気持ちで、まるで中学一年生のように、自分のことは自分でしましょうとか言われたらはい!って気持ちになるし、背筋がピンと伸びる気持ちになります。
ふんわりした優しさに包まれて、とにかく素直になれるのです。
そんなあたたかさのなかに、すっと短く入ってくる、印象的なシーンがあります。
その夜の夢のなかで、高杉晋作はユカクの女の子と何やら笑いながら話して歩いていた。その女の子はどうやら昭代ちゃんらしいや、と思うと、いつか高杉の刀に蛙が五、六ぴきもぶらさげてあり、それに気づいて、あはは、と笑うと、晋作がきっとしてふりむいた。その目が鋭く、緑いろにもえる炎のようなのにびっくりして目をさました。
ユーモアあふれるあたたかさの中、ところどころに挿し込まれるするどさ。
強烈なインパクトを残して奥深さを与え、この物語をちょっと忘れられない作品にしています。
◇
最後に、この物語のタイトルとなった詩が、井山先生から語られます。
むこうの山にのぼったら
山のむこうは村だった
田んぼのつづく村だった
つづく田んぼのその先は
ひろいひろい海だった
青い青い海だった
小さい白帆が二つ三つ青い海にういていた
遠くのほうにういていた
戦前の教科書に書かれていたものであるらしく(これは読書メーターの方にそう書かれていたのですが)誰の作品なのか分かりません。
(読書メーターのかた、ありがとうございます)
きっと戦前の作品だったら
向かふの山にのぼつたら
とか
遠くのはうにうひてゐた
とかいう風に書かれているんじゃないでしょうか。
この詩は、いわば、「知らない土地、見知らぬ世界が君たちの前に広がっている」というような、小学生から中学生という一つの垣根を超えた子供達に対して未来のイメージを眼前に提示しています。
この本を、もっともっと、今の新中学生たちにも、そうじゃない子たちにも読んでもらいたいと思います。
たとえコロナの時代であっても、思うように旅が出来なくても、心に旅を持てるように……。
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突然の父の死。祖母の死。そして戦争がはじまった。日々の暮らしのなかで何が変わり、何がなくなっていったのかを、多感な時期を迎える“ぼんぼん”・洋の目をとおして語る。さまざまな人間模様、危険なできごと、淡い恋心――。力強く生きぬく少年の姿を、大阪弁にのせて、ていねいに描いた作者の代表作。(解説=山田太一)
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昭和46年度から平成12年度までの定評のあった、国語教科書のお話を、あざやかな挿絵そのままに、児童書にしました。時計の中に住んで時を告げているチックとタックの2人が、夜中にこっそり抜け出して、わさび入りのおすしを食べて「ジッグ、ダック」時計が鳴るようになった千葉省三「チックとタック」(第1巻)を皮切りに、50代~60代の方にも懐かしい翻訳作品「小さい白いにわとり」(第3巻)など、すでに絶版で他では読むことのできないまぼろしの名作の数々を収録。
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星のふる晩、青年刑事ショーンは川に身を投げようとしている娘を救った。事情を尋ねると、彼女は悲嘆にくれた理由を語る。正確きわまりない予言をしてきた謎の人物に、信じがたい状況で父親が死ぬと宣告されたというのだ。実業家の父親を狙った犯罪を疑うショーンの要請で、警察は予言者の捜査を始める。予言に翻弄される人々を映し出す巧みな心理描写と、途切れることのない圧倒的な緊迫感。サスペンスの巨匠の真骨頂を示す不朽の名作!
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未発表36篇を含む青春の詩を、二ヵ国語版で。現代詩の巨人・谷川俊太郎の第二詩集を、日英の二ヵ国語版で文庫化。22歳の著者が詠んだ、祈りにも似た愛と生へのほめうた。半世紀を超えて読み継がれる青春の書の決定版!
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