閑話 「世界探検紀行集」から感じた川端コーチのメッセージ「エースをねらえ!」
閑話です。
昨日更新した「世界探検紀行」の続きです。
こんかいはまじめです。(棒読み)
家に帰るなり、残っていた「アラビアのロレンス」と「北極漂流物語」を光の速さで確認しました。(高橋健一氏のへディーンはちょっとあとまわし)
・アラビアのロレンスは思った通りの理想化された英雄譚でした。(死んだけど交通事故)
詳細な描写なのでたいへんそれっぽく、信じこませるには最適という功罪はあるかもしれませんが、おそらく少年少女はこれは読まない。
アラビアの風土がとてもよく表現されています。ロレンスの冒険譚を追いながらアラブについて学ぶことができる。
複雑な地勢的歴史的背景も当時としては総統にくわしく描かれている、という感じです。
・「北極漂流物語」はロシアの探検隊のお話でした。
警戒心むきだしで読み始めましたが、これは完全に「日誌をそのまま載せた」だけであり、無事に帰れるし気をつけて行動しているので、安定感がありました。
しかし退屈ではないです。いま、何気ない日常系がウケるように北極の日常系もウケるのでは。
逆になぜウケないか理由がない。
・マッターホルンがすごすぎだったのです。
まだ「ぶっつかりました」の余韻が離れません。名著です!
……でもあんなに冷静にじぶんの落下を完璧☆かつ正確に記録する所に、なんとなく狂気も感じます……。
◇
もしこれを発刊当時読んでいた少年少女がいたとすれば、間違いなく自然の驚異に対するリスク管理の重要性はトラウマレベルで刻み込まれたはずです。
準備の大切さ、確認の大切さ…例えばロープの強度の確認など(泣)。
基本的なこと、またその場その場における優先事項が生死を分けるのだということなど、(恐怖をもって)教えてくれています。
記録日誌は先人が残してくれた知恵です。
志高く人格者だったが亡くなってしまったスコット、制覇したけど犠牲を出したマッターホルン、超人的な意志の強さを貫いたシュリーマン、英雄的なロレンス…バランスがすばらしいです。
怖いけど。
最後の最後に、単なる日誌的な北極漂流物語をもってくるところもすごいなと思いました。
「北極~」は、ロシアの探険隊の話ですが、作者がナンセンの日誌をくりかえし記憶するほど読みこんでいたことがあちこちに描かれています。
ナンセン。アムンゼン。スコット。
皆、すばらしい先達者たちでした。
(リンクはみな、Wikipediaです)
まるで、これらの危険を知った上でと念押しして、もし探検をするならば、先人の記録をたどることが大切なのだよと教えているようです。
◇
……。
でも……。
でもしかし、これは、少年少女たちがアムンゼン、ナンセン、スコットなどを知っていることが前提のような気もします。
「これを読む君たちなら、その程度の知識、持ってて当然だよね☆」というにおいがするのです。
つくづく考えてみたが、このハードな内容を少年少女に読ませようとする、川端康成大先生を筆頭とするお歴々の考え方に、なんだか既視感があります。
宗方コーチだ。
エースをねらえ!
「岡、エースをねらえ!」そういう感じ。
あの昭和の厳しいスポ根・スパルタ臭を感じます。
この赤本から、ビシバシ飛んで来る容赦ない打球を感じる。
「川端コーチ!もう無理です!」
「立て、少年少女!それ次の赤本だ!48巻!」
エースをねらえというあの台詞には、常にサービスエースしか狙うな、常に最高のものだけを狙え、というニュアンスがあったように記憶しています。
しかもコーチは世界トップレベルの選手を見据えて、岡ひろみの体作りから練習方法まですべてを根本的に変えていきます。
転じてこの赤本、世界・日本の名著がほとんど網羅されているのです。
しかも訳文が硬派ながらもめちゃくちゃ美しいです。
さすがに、文章の美しさにおいては、すみずみにまで気を使っていた川端康成ならでは、という感じがします。
この本を通じて、世界に出て羽ばたく人を育成しようという意図を感じます。
そのなかにはもちろん、これらの名著にひけを取らないほどの作品を刻む人材も含まれるでしょう。
いやしくも何かを表現することを志したならば、この程度の打球が受けれなくてどうする!てきな。
重い。期待が。
◇
ちなみにこの赤本に入っている「不思議の国のアリス」は吉田健一氏が訳しているのですが、私はこのアリスがあまりにも好きすぎて他のアリスがいまだに読めないという病気にかかっています。
吉田健一氏のアリスの口調はおおむね「~なのだろう」「だからだ」という話し口調になっていて、それがかえってユーモラスでおもしろいのです。
他で訳されたものは「だわ」「でしょ」「なのよ」を使った、口語ではほとんど使われない女の子口調がほとんどと記憶しています。
よく考えてみると、7歳ぐらいの女子が何かを考えているときに「~だわ」という風にことばが頭に浮かんでいるでしょうか?
アリスは空想的な女子で、たくさん変わったことを想像します。
その変わった子なところと、このまじめくさった口調がぴったりマッチしているのです。
「うさぎのためにお使いに行くなんて、なんておかしなことだろう」と、アリスは思いました。「きっと、このつぎは、ダイナアのためにお使いに行くことになるにちがいない」
ちょっと堅苦しいところがかえってユーモラス、じつにじつに、原本のイメージどおりです。
吉田健一氏のアリスが欲しくて、もちろん絶版なので置いてある図書館を検索、文庫をゲットし、すべてコピーしたことがあります。
(大概、やること極端、とひとりツッコミ)
ところが!
文庫版のアリスと、この赤本に載っているアリス、微妙に違うのです!
この責任編集大先生のお歴々のどなたかわからないですが、きびしく校正を入れてるらしいのです!
文庫の方でちょっと違和感がある箇所がすべてなくなっており、赤本の方は完璧にスムーズです。
誤植も訂正されていました。
あとがきのどれだったかちょっと今記憶していなのですが、
「どうぶつの名前はすべてカタカナや漢字ではなくひらがな」
「ぼく、わたしなどの一人称の呼び方は全赤本で統一」
…などなど、厳しいルールが設けられていたことを示唆する記述があってちょっと戦慄したことを覚えています。
恐ろしい…。
川端コーチ、あなたどこまで…。
この少年少女文学全集は昔から絶対に残すべき日本の宝だと思っていて、どこかで紹介する機会がないかずっとうかがっていました。
こんなすごい全集を出版することができたのも、潤沢な資金があった高度成長期~バブル期だったからかもしれません。
が、それならばそうと、ありがたく保存して伝えていきたいのです。
本当なら、すべて入力して青空文庫にアップしたいのだが、東京創元社さんにお話しする必要があるでしょうし、訳文なので版権は原作者と翻訳者と二重にかかっており、権利関係はおそらくはんぱないほど複雑であろうことが予想されます。
このブログで、そのすごさの片鱗だけでも紹介出来れば、そして「読んでみたーい!」と思っていただければ、記憶に残っていただければさいわいです。
川端コーチ「少年少女、(文学の)エースをねらえ!」
◇
東京創元社 少年少女文学全集48「世界探検紀行集」より
南極探検物語 中野好夫 作(南極探検家スコットの話)
夢を発掘した人 シュリーマン 作 平田寛 訳
ヒマラヤのかなたに 高橋健二 作(へディーンの話)
アラビアのロレンス 中野好夫 作
マッターホルン登はん物語 ウィンパー 作 近藤等 訳
北極漂流探検記 クレンケリ 作 袋一平 訳
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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