今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
煙突そうじの少年トムは,仕事中お屋敷のおじょうさんの部屋に入ってしまい,どろぼうとまちがわれてにげるうちに,川に落ちて「水の子」となります.ファンタジーの古典
今更ですが、以前もレビューしようとして、レビューするのが難しすぎると思って、断念していたことを思い出しました。
しかし、読み始めの冒頭から、ああ、本当にこの本が好きだった、面白かったなあ!という懐かしい気持ちがこみあげてきます。
面白いのでどんどん読み進めていく反面、いったいどう面白いのかはやっぱり、説明するのがすごく難しいです。
話はぽんぽん飛ぶし、すぐ脱線します。
本筋に関係ない、たとえ話に雨あられの豊富すぎる語彙力を使ってすごいページを割きます。
しかし、それがまた面白い!
というのを、ことばで説明できません。
語彙力の暴力の前に語彙力崩壊。
しかし、このガンガンぶつけてくる、言葉の雨・あられ・雹・がとても気持ちがいいです。
◇
物語はこんな風にはじまります。
むかし、トムという煙突そうじの少年がいた。
トム少年は、煙突そうじをしながら、元気でゆかいに働いていますが、もうけたお金はすべて親方が酒で飲んじまっています。
児童労働、搾取、虐待、ですがしかし、トム少年は、現状をひどいともどうとも思っておらず、元気に愉快にいたずらをしたり、仲間と遊んだりしながら、ぶん殴られて過ごしています。
当然、読み書きも知りません。
当時は典型的な、下層階級の少年たちのリアルな姿だったと思われます。
日本で例えるならどうだろう。
明治・大正期に、貧困により丁稚奉公するも、あまりよい環境ではなく、という感じだろうか……。
ん?これは、デジャヴ…。
そういう話、たしかあったな。
「路傍の石」…?
残念ながら、「路傍の石」はあまりにもリアルで、妖精のおばあさんも出てこないし、水の子どもにメタモルフォーゼもしないのですが、要はまあそんな感じです。
やっぱり、おとなが読むので色々考えてしまいますが、これは、スルースキルがすごく大事です。
このお話のよい所は、トム少年に悲愴さをあまり感じないところです。
やってることは、そのあたりの何も考えていないいたずらっ子とまったく変わりありません。
作者のキングスレイは、この時代において、大人の立場から鋭くこの少年たちの環境を見つめ、思うところあってこの小説を書いているのだと思われまますが、目線は完全にトム少年よりです。
読む方も、あまりにもこのいたずら小僧の行動、思考回路が「ごく一般的なそのあたりにいる普通のこども」なので、何の違和感ももちません。
まして、読むのがこどもであれば、このトム少年の境遇なんてすっとばし、すうっと物語と、トム少年の中に入っていけます。
境遇は境遇として、それが当たり前だったのだから当たり前と受け取っているトム少年。
天真爛漫で、何も考えちゃいません。
トムは、ぶんなぐられたり働かされたり搾取されたりする生活の中で、将来をこんな風に夢みています。
目の前に浮かぶような、非常にリアルな描写です。
居酒屋のまん中に坐りこんで、大きなビールのコップとパイプをくわえて、銀貨をかけてトランプ遊びをするんだ。それから、ビロードの上着と半ズボンをきて、耳が片方落っこちたような、すごい親ブルドッグを連れて、赤ん坊のブルドッグはポケットの中に入れて歩くんだ。見習いをひとり、ふたり、いや三人くらいは置こう。そしてちょうど、いまの親方がやるように、いじめたりぶちのめしたりしてやるんだ。見習いにはすすの袋をかつがせて、自分はみんなの先頭にロバに乗って、口にはパイプをくわえ、上着のえりには花でもさして、まるで兵士の先頭にすすむ王さまのようにいばりながら仕事から帰るんだ。ああすてきだなあ、いまにそんなになるんだ、──と、そんなこと考えているとき、親方がビールのお残りでも一口飲ませてくれようものなら、トム君はこの町中で一ばんあかるい子どもになってしまうのだ。
妹子「いやそんな生活になりたくないし、ぜんぜんよくないし、お酒飲んじゃだめでしょ」
わたし「まあ、そうだわね」
わたしは耳が片方落っこちたようなブルドックの親子というのが非常に気になりました。
親ブルドックだけじゃないんだ。
親子なんだ……。
子犬も一緒なんだ……。ポケットに入れるんだ。
わたし「いいな、それ」
妹子「よくないわ!!」
妹子に言わせれば、このような親方は子犬の世話が出来るはずがないし、すぐに放置して死なせてしまう、と言います。
割とよく読みこんでるな~。
わたしはそんなことまで深く考えて読まなかったな。
しかしこの、トムの将来を描く夢から、トムの親方(で搾取している相手)グライムズがどんな感じが想像がつきます。
◇
お話は、トムとグライムズがこのサー・ジョンの屋敷の煙突掃除を頼まれたところからはじまります。
サー・ジョン・ハノーヴァー。
理想化された地元の名士で紳士、この地方一帯の実力者です。
読んでいると、この地元の郷士をあまりにもごりっぱなお殿様として持ち上げすぎな所が微妙と思われるもとなのかな~と思わなくもないです。
ですがまあ、これからお話にそれほどからんで来るわけでもないですし、いやいや、スルースルー。
◇
このサー・ジョンのお屋敷に向かう道中で、不思議な女性が出てきます。
ここ、ご注目のシーンです!
貧しいアイルランドの女の身なりをした女性、ですが奇妙で神秘的な雰囲気です。
グライムズは、些細なことから、またしてもトムをぶんなぐります。
トムも慣れているのでたいしたこととも思っていない様子なのですが、女は鋭い声でグライムズを責め、「恥ずかしいと思わないのか?」と問いかけます。
さらに、グライムズが昔行った悪事のことも、その場にいて見ていたかのように知っていることを示唆します。
グライムズは驚いてトムを殴ることも忘れてしまいます。
「わたしがだれだっていいじゃないの。見えたから見たまでだよ。もし、その子をまたぶつようなことがあったら、わたしの知っていることをみんな言ってしまうよ。」
グライムズはすっかりこわくなって、一言も口に出さないでロバに乗った。
「お待ち!」その女はいった。「まだいうことがあるから、ふたりともお聞き。最後の日までに、どちらももう一度わたしに会うでしょう。清くなりたい人は清くなり、汚れたままでいたい人は汚れているでしょう。このことを忘れないように。」
女はあちらを向いて、門から牧場のほうへ出ていった。 グライムズは気絶したようにぼんやり立っていたが、急に後から追いかけてどなった。「帰ってこい!」しかし牧場に出てみても、その女の影も見えない。
不思議な女性は消えてしまいました。
この不思議な出来事と、神秘的な女性の登場で、読み手はすっかりこのお話に惹きつけられます。
「カーディとお姫さまの物語」、かるいお姫さま」を書いた、マクドナルドにも、神秘的な存在の女性が出てきますが、似ています。
「カーディとお姫さまの物語」ならば、アイリーンのおばあさまのような存在ですが、この女性はもっとおごそかで、もっと力が強いように思います。
グライムズにとっては、その悪事を示唆することで「良心の呵責」のようなものをくすぐられ、トムにとっては、暴力をやめさせてもらえることになりました。
◇
良識的なおとなみたいな顔をして読んでいても、この、「思ってもみないタイミングで昔の悪事を突然暴露される」というのは、けっこうどきっとするシーンです。
「良心」というのは、やはりどんな人の心にも潜んでいて、悪いと知っていてやったことは、自分が一番覚えているもの。
自分が覚えていることからは、逃れられない。
突然、目の前に突き出して見せられる。
それが、子どもに対する暴力の手を止める。
という流れです。
そして、「清くなりたい人は清くなり、汚れたままでいたい人は汚れているでしょう。」という抽象的なことばの重みです。
このほぼ冒頭数ページに出て来るエピソードが、これからのトムの、あっちにいったりこっちに行ったり、脈絡がないかと思えばやんちゃも悪さもふんだんにやるという「水の子」。
これがお話としてどうなるか、ひとつの流れを決定づけることになります。
◇
このお話の魅力は、この冒頭数ページにすでにつまっていました。
・語彙力の暴力
・やんちゃで無鉄砲、天衣無縫な子ども
・不思議な女性
この女性像は、いずれ出て来る「報いのおばさん」「親切のおばさん」につながっていきます。
Mrs. Bedonebyasyoudid
ビーダンバイアズユーディド
Mrs. Doasyouwouldbedoneby
ドゥーアズユーウッドビーダンバイ
極貧の家に生れた愛川吾一は、貧しさゆえに幼くして奉公に出される。やがて母親の死を期に、ただ一人上京した彼は、苦労の末、見習いを経て文選工となってゆく。厳しい境遇におかれながらも純真さを失わず、経済的にも精神的にも自立した人間になろうと努力する吾一少年のひたむきな姿。
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時代は明治後期。地方都市に住む愛川吾一は町一番の秀才であった。が、酒浸りの父のせいで進学が許されず、丁稚奉公に出される。歯を食いしばり、自らの逆境を跳ね返し成長していく吾一。人はつらいときほど成長する。負けてはいけない。金がなくても。道ばたの石ころのような扱いを受けようともーーーー「君たちはどう生きるか」の成立にも関わった作家・山本有三の代表作「路傍の石」を完全まんが化!
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少年カーディが地下のゴブリンの国からお姫さまを救いだしてから1年.お姫さまの命と王国がまた危険にさらされました.悪賢い従者たちが権力と富をねらって策略をめぐらしはじめたのです.
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魔女にのろいをかけられて、ふわふわ浮いてしまうお姫さま。〈重さ〉をとりもどせるただひとつの場所、湖も魔女のたくらみでしだいに干上がってゆきます。表題作のほか,幻想的な「昼の少年と夜の少女」を収録しました。
「水の子」版権切れの原著(英語版)です。
「プロジェクト・グーテンベルク」
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/492
◆プロジェクト・グーテンベルクについて
☞Wikiの説明ページ
プロジェクト・グーテンベルク(Project Gutenberg、略称PG)は、著者の死後一定期間が経過し、(アメリカ著作権法下で)著作権の切れた名作などの全文を電子化して、インターネット上で公開するという計画。1971年創始であり、最も歴史ある電子図書館。
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