大人が読む児童書「トムは真夜中の庭で」読了 4 時空を超えて
今日、ご紹介するのは児童書です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
知り合いの家にあずけられて,友だちもなく退屈しきっていたトムは,真夜中に古時計が13も時を打つのをきき,昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて,ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります.「時間」という抽象的な問題と取り組みながら,理屈っぽさを全く感じさせない,カーネギー賞受賞の傑作です.
大人が読む児童書「トムは真夜中の庭で」 1 名作児童文学の中に必ず名前が上がる、名作中の名作
「薄くなって消えて行ってしまったメイドさん」
読んでいる誰もが、幽霊だああああー!!
……と思うところなのですが、これが明確にいったい何であるのかは、明かされないままに話はすすみます。
それに、メイドさんが幽霊であるのならば、大広間、庭まで変化していることに説明がつきません。
トムは、この「メイドさんの幽霊!?」の出現よりも、もっと
庭がある!!=遊べそうな所がこんな身近にある!!
ということの方がはるかに気になっている様子。
どう考えても、おじさんたちが自分を遊ばせないために隠してたんだと思い込んでいます。
◇
朝になったトム、おじさんとおばさんに
「知っちゃってんだよね~~ぼく。アレのこと。アレだよ、アレ」
という感じで、あの手この手でひっかけて、庭のことを何とか聞き出そうとします。
子どもなので、次々に考えつくへたな誘導です。
さっぱりわからないおじさんたちのとんちんかんな答え。
このやりとりはかなり笑えます。
しかし結局、おじさんなんて特にわからんちんなので、結局怒り出す始末!
「わけのわからない会話」というのが苦手なようなのです。
ホントにさあ、こいつ何なの!
遊び心とか、想像力などということばとは無縁な人のようです。
そこまでならまだ、おじさんがアホということで終わるのですが、トムはおばさんと会話をするうちに、重大なことを聞いてしまいました。
今の時期、どこにもヒヤシンスは咲いていない。
では、あの庭に咲き乱れていたヒヤシンスはいったい……?
◇
トムにとっては、あの不思議なメイドさんより何よりも、
「あれは夢だったのか?」
と考える方がずっと、からだが冷えるようなショックです。
トムは、裏口の扉にかけつけます。
ですが、そこに見たのは無情な風景。
コンクリートで舗装されたゴミ置場!
新聞紙がぐるぐるまわって風に飛ばされるという、すばらしいテンプレの効果つきです。
呆然とするトムですが、そのとき、大家のバーソロミューおばあさんがゆっくりと現れました。
年を取っているので緩慢にですが、しっかりゆっくりと時計のねじをまいていきます。
このねじを巻いて行く動作の描写が非常に細かくて美しく、それもそのはず、意味があるのです。
この大時計は、ただ13回という時を打って、トムと私たちをお話に引き入れるだけの小道具なのではなくて、ひとつの大きなキーであり、一つのキャラクターとも言える重要な役割を果たしています。
◇
大時計のねじがゆっくりとまかれたことで、ショックだったトムも少し落ち着いて考える余裕が出てきました。
ここで、わりとさらっと書いているのですが、重要なところがいくつも出てきます。
・トムは時計を詳細に調べました。あとで重要なフラグとなる、いくつもの発見がありました。
・トムは弟のピーターに、すべてを書き送りました。これもあとでとても重要になってきます。
トムが書いたことが、知っていたこと、知らなかったことが、つくりごとではないことおは、弟のピーターが知っているのです。
(ピーターはこのお話を読んでいる人たちと同じように、どんどんこの不思議な出来事に引き込まれていきます)
・ふたたび大時計が13回を打ったとき、トムはまた大広間に降りて行きます。
・何と、このとき、アランおじさんも13回の鐘を知っていたことが描かれています。
「ありもしない時を打ちやがって!バーソロミューおばあさんの目もさましてやればいいのに」
ばかなおとなは、わからないのです!
・おばあさんは、目をさますどころか、やすらかな夢を見ています。
◇
こんな風にして、冒頭から、次第に不思議な出来事に引き込まれ、トムと一緒に読み手は「真夜中の庭」にさまよい出て行くことになります。
27章あるうちの、ここまでが4章。
5章「露のなかの足あと」の冒頭がそれはそれは美しいです。
妹子「ああ、そことてもきれいだよね」
わたし「あなた読んだの?」
妹子「途中まで。おじさんたちがマジさいていだったわ。トムがひたすら気の毒。ほんとにかわいそうね」
わたし「ハティには会った?女の子」
妹子「いやまだ。そこまで読んでない」
とすると、妹子は
ここからはじまるよ!
というところで、止まっているのだな。
ですがまあ、人にはそれぞれペースがあることなので、言わないようにしておこうと思います。
◇
と、ここまで冒頭を詳細に紹介してきましたが、このお話はまさに
ここからはじまるよ!です。
ここまで丁寧に描かれてきたことにも、もちろん意味があります。
この本のすべてが、美しい物語です。
さらに、「不思議」というだけではすみません。
閉塞に苦しんだ子どもの夢と言うには、説明がつかない不思議な出来事がいくつもでてきます。
例えば実際に入れておいたスケートが時空を超えて床下から発見されたり、木に彫った猫と帽子のマークが木に刻まれていたりなどです。
これは、夢を越えて本当にあったことなのです。
とても美しい、その5章の冒頭を引用してみようと思います。
夜とひるとのあいだには、自然が眠っている時間がある。その時間を見ることができるのは、早おきの人たちか、夜どおし旅をつづける人たちだけだ。夜汽車で旅する人が、じぶんの車室のブラインドをあげて、そとを眺めていると、シーンとしずまりかえった風景があとへあとへと流れさっていくのを見るだろう。木々も茂みも草もみな眠りにつつまれ、息をとめて微動さえせずに立っている。そのときの自然は、眠りにつつまれているのだ。ちょうど、旅人がゆうべ寝るまえに、じぶんのからだを外套やひざかけ毛布でつつんだように。
おとな、子どもの区別なく、この文章に流れる詩の心を感じることができるはず。
ここからはじまるトムの物語を、共にすることができた人は幸せです。
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ロンドンに暮らすベンの夢は犬を飼うこと.誕生日に,約束していた犬のかわりに刺繍の犬の絵をもらって失望したベンは,想像の犬を飼いはじめる.やがて引っ越しを機に念願の犬を手に入れるが,それは想像の犬とあまりにも違っていた…….少年の心の渇望と,葛藤を乗りこえる姿をくっきりと写した傑作.[解説・小川洋子]
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子どもの日常生活におきる,小さいけれど忘れがたい不思議なできごとの数々.『トムは真夜中の庭で』の作者による,夢と現実の世界を行き来する印象的な短篇8編をおさめる.
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ハヤ号セイ川をいく (講談社青い鳥文庫)
フィリパ=ピアス (著), エドワード・アーディゾーニ (イラスト), 足沢 良子 (翻訳)
セイ川を流れてきたカヌーを見つけたデビットは、その持ち主のアダムと友だちになり、カヌーにハヤ号と名まえをつけた。2人は、アダムの家に伝わるなぞの詩から、かくされた宝を探し出そうとする。――カヌーで結ばれた2人の少年の、夏休みのすばらしい冒険と友情をえがいたイギリス児童文学の名作。カーネギー賞受賞作家、フィリパ・ピアスのデビュー作をエドワード・アーディゾーニの絵で。
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養い親のもとを離れ、転地のため海辺の村の老夫婦にあずけられた少女アンナ。孤独なアンナは、同い年の不思議な少女マーニーと友だちになり、毎日二人で遊びます。ところが、村人はだれもマーニーのことを知らないのでした。
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アンナは海辺でマーニーという不思議な女の子に出会う。仲良しなのは二人の秘密。けれど嵐の日マーニーが消えてしまい……。愛と友情、成長を描く感動の物語。越前敏弥、ないとうふみこによる新訳で登場!
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大人気シリーズ、ドリトル先生の少年文庫版・全13冊セット。世界一の名医ドリトル先生が主人公の、ベスト&ロングセラーです。
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