今日の一冊「太陽とかわず」
今日、ご紹介するのは絵本です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
「今日からおまえを池の王さまにしてやる。おまえは池の中の者に対して、誰にでも親切でなければならない」 と太陽に言われたかわず(かえる)は、池の中を治めるために一生懸命でありましたが…。(「MARC」データベースより)
図書館で選びました。
やはり、本屋さんでも「平積み」のものが売れ筋であるように、図書館でも表紙を表にして立てかけてあるおすすめの絵本をよく手に取ります。
しかし、 他にも見て回ろうとなると…。
ざーっと縦に題名が並んでますから、そこから選ぶとなると、これは迷います。
あれこれ手にとってはみるのですけど、こうなると、題名がよほど気を引くものであるか、またはやはり作者です。
これは「小川未明」
作者で拾いました 。
それに絵が気に入りました。
迫力満点です。
絵本を開くと裏表紙にぶと(ぶよ)がたくさんいるのですが、読み終わってからもう一度読もうとすると、なんとも微妙な気持ちになります。
池の中に水草がありましたが、長い冬のあいだ、水が氷(こお)っていましたために草はほとんど枯れてしまいそうに弱っていました 。それは、この草にとってどんなに長い間でありましたでしょう。
美しい日本語です
リズムをもった語り口。
読み聞かせにはぴったり…とこの時には思ったのですが、小川未明、このままただでは終わりませんでした。
春になり、氷がとけて、草は太陽に感謝をのべます。
言葉は綺麗ですけど、要は水草は太陽に、池に住んでいるカエルについて、クレームを入れてます。
「かえるとは気が合わないので…」
水草は丁寧かつ婉曲に、太陽に対して、乱暴なかえるをたしなめてくれるように頼みます。
太陽も了解してかえるに話しかけますけど、クレームを本人に伝える上司としては最大限に配慮し、相手が傷付かないよう、気分を害さないように素晴らしく気を使ってます。
あなたは縦横無尽に池を泳ぎ回って、わたしが空の王様であるように、あなたは池の王様だね♡
空の王である私が誰に対してもめぐみ深いように、あなたも誰にでも親切でないといけないよ…。
とりあえず、「あなたは池の王様」というところだけは、かえるにしっかり刻み込まれました。
わがままでとんまで ありましたけれど、いたって人のよいかえるは、じきにとくいになってしまいました。
太陽と言う、一段上の権威から、わずかな権力を与えられたかえる。
(本来は「かわず」なのですが、ここではわかりやすいよう、カエルに置き換えられているようです)
その様子は先生が、あまり何も考えずに暴れまわっている子供に、小さなリーダー的な役割を与え、責任感を持たせる代わりに、周囲への気遣いや慈しみを学んでもらおうという意図のようなものがあったと思われます。
子どもとして見ればそうかもしれませんが、この後の展開をみると、何となく世の中への風刺や皮肉を含んでいるようにも思えます。
このような感じのお山の大将、たくさんいますし。
言葉は悪いですが、何も深く考えることなく野放図に生きているおじちゃんが、何かもっと頭の切れる人から担がれて、地方のとても小さな…まあ例えば自治会の自治会長になったようなイメージです。
かえるは、今まで使わなかった頭を悩まして、あれこれと面倒を見るのですがその様子もなんとも皮肉が効いています。
水の中をはねまわって、なにやらわからぬことを口やかましくいって、池の中をおさめるために、一生けんめいであったのであります。
かえる、だんだん疲れてきます。
いままで、あんまりなにも考えるということをしなかったかえるは、夜もろくろく休むことができなくなりました。
こんなにかえるが頑張るのも、広い領地の王様であると信じているからこそです。
かえるにとってのそのイメージの「広い領地」は、太陽があまねく世を照らすのに匹敵するほどのえらさでした。
実際は小さな池一つにすぎないのですが…。
まあ、太陽の言うやさしいおだてを真に受けていたわけです。
そこにぶとが現れて…。
かえるの知りたくもなかった、広い世界のことを親切親切にというか、余計なことというか、とにかく話してきかせます。
ぶとはあれこれ世間のことを見てきているので、この池が世界のほぼすべてだと信じきって、そこの王であることに誇りをもっているかえるがおかしくてたまらないのです。
この、世界がひっくりかえるほど驚いたかえるの衝撃が、すごく印象的です。
そんなに驚くんだ!?と思うほど、かえるは世界=池と信じ切っていたのです。
妹子「かわいそうなぶと…」
わたし「はっ!?」
いつの間にかそばに来て読んでました。
妹子「何も悪くないのに。なんてひどいことなんだ。 井の中の蛙大海を知らずとはこのことだ」
わたし「そうだねー」
ぶとが、広い世界について皆に話してやるつもり、と言ったのがまずかったです。
権威の失墜を恐れるかえるの問題解決の方法
=ぶとを食ってしまう
でした。
妹子「これで終わりなの!?」
わたし「井の中の蛙大海を知らずがもとなのは間違いないけど、これは『口は災いのもと』もあると思うな」
ぶとも、調子に乗って余計なこと言わなきゃ良かったのです。
権威を傷つけられないためとなれば、権力者がどこまでするか、ちょっと空恐ろしいところもあるお話でした。
すごく風刺が効いています。
かえるもこれまであれほど(空回りでも)疲れてまで頑張ってきたことを無為にされるのをきらったのでしょう。
しかし、本当の事を言って飲まれちゃうとは、かなりのやみを感じます。
小川未明について、とてもよい評論を見つけました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大正10年の発表以来、繰り返し読み継がれ、多くの画家の挿絵にも描かれてきた小川未明の名作童話。わが子だけは明るいにぎやかな人間の街で育ってほしいと、冷たく暗い北の海に住む人魚の母親は願い、子どもを神社に捨てた。その赤ん坊を拾ったのは蝋燭つくりの老夫婦。
人間というものへのかなしみが漂うこのお話を、酒井の絵は浄化している。幼児の心をつかんだあの『よるくま』のイラストとは異なる、こんどは奥行きある絵画性で。人魚の皮膚や貝殻、蝋燭の炎や嵐の翌朝の空の色、みな暗い闇から差す光のように見えてくる。黒く塗りつぶされた背景に、赤、青、黄の三原色を基調にした抑制された色づかいが、色とは光でもあったのだ、とあらためて気づかせてくれる。(中村えつこ)
赤い蝋燭と人魚です。
パブリックドメインで無料版になっていますが、私はこちらの絵本の方が好きです。
一冊持っておいてもいい作品だと思います。
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