がちキャン△2~ランサム「ツバメの谷」 再読4 読了
大人が読む児童書。
「再読★児童書編」です。
この記事はネタバレもしていくことになりますので、未読の方はご注意ください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の一冊
『ツバメ号とアマゾン号』の冒険から一年、ウォーカー家の4人きょうだいは、ふたたび湖で帆船を走らせますが、ツバメ号が突風にあおられ、暗礁にぶつかって沈んでしまいます。船を失った探険家たちは、新たにみつけた「ツバメの谷」でキャンプをすることに。アマゾン海賊姉妹とともに、夏休みの冒険に乗り出します。
がちキャン△~究極のアウトドア体験!「ツバメ号とアマゾン号」 再読1
この、難破してしまったときのジョンの絶望はすごいです。
船を失った船長…。
しかし、子どもたちは(小学生ぐらいなのに)極限にありながら、出来る限りの最善の行動を取ります!
「ツバメの谷」を読んでいると、あやうい事故に遭いながらも、ぎりぎりの判断が出来るはず、たとえ子どもであっても、という「アウトドアにおけるリスクの教科書」的な役割を果たしている本だなと思うこともあります。
ウォーカー家のお父さんが、第一巻「ツバメ号とアマゾン号」で、四人兄弟姉妹に、子どもだけでのキャンプを許してくれたときの電報は
でした。
いわゆる自己責任を書いているようでありながら、これはどんな時においても、その時における最善を尽くせと言っているように見えます。
泳ぎは全員マスターしていたので、みんな岸に泳ぎつきます。
ジョンはぎりぎりに、いかりを投げておきますが、これがあとで座礁した船を岸に引き上げるのに役に立ちます。
この遭難時のわたしの推しの二人のスーパー女子二人の行動が実に対照的です。
ナンシイは、岩にぶつかって座礁したのを知るが早いかすぐに自分の船に走っていき、ロープを彼らに投げます。
そして、驚くべきはやはりスーザンです。
スーザン航海士は、どんなときでも、そのときどきにふさわしいことを心得ていた。だから、今も、人間はこの世のおわりのときでも、できたらぬれネズミでうろつかない方がいいことをちゃんと心得ていた。今なすべきことは、火をすぐにもやしつけることだった。
完璧か!
末おそろしいお子さんです。
ショックで呆然自失となるどころか、泳ぎ着いてすぐに服を乾かす準備までする。
有能すぎて逆に怖いです。
さからえそうな気がしません。
「あなたたちふたりも、着がえたほうがいいわ。」と、スーザンがいった。
「とにかく、ぼくはそのつもりだよ。」と、ジョンがいった。「もぐって船を見てくるつもりなんだ。」
「それから、あなたもよ。なにをするつもりか知らないけど。」と、スーザンがAB船員にいった。「そして、着がえたら、もっとたくさんたきぎを集めてきてちょうだい。」
「うまい、航海士君。」と、ナンシイ・ブラケットがいった。「水夫どもをいつもはたらかしておけば、反乱をおこすひまはないんだ。」
ナンシイはただ厳しい苛烈な女海賊というだけでなく、ほめるべきところはちゃんとほめます。
ジョンを慰めながらも、こういう時には、言葉で大丈夫大丈夫とか、命があってよかったなどと感情的になぐさめるのではなく、具体的な提案をもってツバメ号を引き上げるのを手伝います。
いたわりの言葉をかける時も、どことなく論理的です。
ジョンは、いかりをつかんで、はい上がってきた。
「お手柄だ、ナンシイ。きみが、このやり方を思いつかなかったら、もっとずっと時間がかかったよ。」
「あなたの船の水夫たちはすばらしいわね。」と、ナンシイがいった。「水夫たちが、きめられたとおりに綱をまいておかなかったら、ぜったい確実もつれちゃって、あなただってうまくいかりを投げることなんかできなかったわよ。」
一度は絶望していたジョン船長でしたが、おとな(フリント船長)が助けにくる前に、子どもたちの力だけで船をひきあげておく、という「最善の策」「出来るかぎりのことをしておく」を思いつきます。
◇
この難破を期に、船を船大工さんにあずけてなおしている間、陸での冒険中心の物語になっていくわけです。
緊張感のある冒険が続きます。
リスクに細心の注意をはらっているのがわかる記述です。
山登りでは、いちばん年下のロジャが、ヤギに気を取られて 足を滑らせます。ザイルを巻いていなければ 危なかった…!
年長組(ジョンとスーザン)と年少組(ティティとロジャ)が、別ルートを通って元来た道を戻った時には、濃霧が発生し、年少組は道をそれてしまいます。
安易な遊びではありません。
やはり、それだけアウトドアは危険だということでもあります!
いついかなるときも、あらゆるリスクを考え、体調を管理、歯みがきや洗顔などといったちょっとなら…というすきも見逃しません。
この正確さ、このきちんとすることの大切さ、規則正しい生活と言われたことは守ること。
…という単純なことがミスを防ぎ、事故を防ぎ、事故が起きたとしても被害を最小限に食い止めます。
他にも、ティティが大おばさんを溶かしてしまって、殺すつもりじゃなかったと嘆くところなど、最高に笑えるし、もう読む手が止められません。
ぜひ読んでもらいたいです。
◇
おとなであるブラケット姉妹のジムおじさん(=フリント船長)は、もっとも子どもたちに寄り添ってくれるおとなです。
子どもたちの気持ちがよくわかり、トラブルが起きたときには助けになり、ほかのおとなたちとの緩衝にもなってくれます。
そんな触れ合いの中でも、特に印象的な所があります。
ティティは、「ピーター・ダック」という老船乗りのことを、たびたび口にします。
ピーター・ダックはティティの想像の産物です。
ピーター・ダックは、くちばしのきいろいときからの船乗りと自称し、物語の中で、子どもたちと共に小アンチル諸島まで航海した老水夫で、やはり物語の中で、海賊の黄金でポケットをふくらまして、ローウィストフ トへ帰航した。ティティはこの人物創造に大きな役割をはたし、現在はあらゆる面にこの人物を役立てていた。
ティティにとって、人形などなんの価値もなかった。ピーター・ダックのほうが、どんな人形よりも、はるかに役に立った。ピーター・ダックは、いつもじぶんで、きちんと身づくろいできたし、けっしてまいごにならなかった。中からおがくずがこぼれ出すこともなかった。ティティが頭の中で考えさえすれば、ピーター・ダックはどんな冒険にでも、いつでもとびこんでいける状態で、すぐにあらわれた。
スーザンがスーパーカリスマ主婦で、ナンシイが女CEOだとしたら、ティティはまちがいなく作家です。
そして、このピーター・ダックについての空想と記述があまりにも、生き生きとしているため、ついにこの老水夫はティティの想像を飛び越え、第三話でも実在の水夫としてランサム・サーガに姿を現すこととなります。
ランサム・サーガが大きな飛躍を遂げるのはやはり、三冊目「ヤマネコ号の冒険」からです。
子どもたちは湖でキャンプして空想と周囲の冒険をするのみならず、'ついに、海に船出することになります。
生きて動いている、本物の船乗りです。
ティティも別にそれをあ…あのピーター・ダックが!?なんて言及もせず、普通に受け入れています。
悪党も海賊も出てきますし、ものすごく楽しく面白いお話ですが、突然、これだけ子どもたちの危険に気をつけているお母さんの手を離れて、子どもたちだけで世界を旅するというのは…。
(「ツバメの谷」では、トラブル続出なので、かなりお母さんは気をもんでいます)
この三冊目「ヤマネコ号の冒険」は、ティティの空想、ティティが書きつけた物語なのではないかな?…などと思うことがあります。
なんとなく、そのように思わせる余地を残した不思議さです。
そして、この二作目「ツバメの谷」で、フリント船長が何気なくこのピーター・ダックについて言及するシーン
ティティはフリント船長を見て、一瞬いやな気持になった。
子どもにとっての空想や物語の世界が、いかに神聖なものであるか、おとなとして思い知らされるシーンです。
子どもの世界は自由で深く広く、どこまでもひろがっていき、そこに大人が介在することのできない聖域なのだなと思いました。
そして、作者であるランサムが、そのことをしっかりと自覚していることも、おとなへの線引きをきっちりこうして描写していることも、すばらしいなと思いました。
この感覚、大人として子供たちに接している自分も、決して忘れてはならないことだなと思います。
子供には子供の世界があるのです。
この「ツバメの谷」によって、現れたピーター・ダックによって、三冊目からぐっと物語は広がりをみせ、子どもの遊びから大海原へ…それも、船を操るリアルさは保ったままというすごいクオリティの冒険になることになります!
◇
というわけで、今回の「ツバメの谷」は、ここでおしまいにしておきます。
懐かしいと思う方も、ぜひ再読してみてもらいたいです。
やはり、昔読んだ時とは違う箇所に目がとまり、年齢に応じて、面白いと思う箇所も変わり、見方も変わりつつ、でもやっぱり面白いです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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